2025年4月、長野県南木曽町の妻籠宿近くにパン店がオープンしました。店主は元会社員の男性。趣味で始めたパン作りに魅了され、SNSを駆使して腕を磨いてきました。オープンから半年、愛される店を目指し奮闘中です。
風情ある街並み。妻籠宿です。海外からも多くの観光客が訪れる人気の宿場町の近くに2025年4月、パン店「恋野ベーカリー」がオープンしました。
素朴なパンの数々に、一番人気のクロワッサン。
観光客や地元住民が次々と訪れます。
地元住民:
「いつもお世話になってるね、常連かな。おいしいです」
イギリスから観光:
「ベリーナイス!グッドセレクション!」
恋野ベーカリー・鈴木哲平さん:
「地元で自分の好きなことをやれるということは、もう本当にありがたいことだな」
店のパン職人・鈴木哲平さん(26)。大好きなパンを地元・妻籠で。開業は、大きな挑戦でした。
9月22日、早朝。
パン作りは毎朝3時から、鈴木さんが1人で行っています。
朝7時ごろ、「食パン」が焼きあがりました。
鈴木哲平さん:
「食パンの生地は朝一で仕込んで、そのまま焼く」
クリームパンはお手製のカスタードクリームがたっぷり。
鈴木哲平さん:
「一口目からどこから食べてもクリームに到達するように」
慣れた手つきの鈴木さんですが、学校でパン作りを学んだことも、パン店で働いたこともありません。
鈴木哲平さん:
「独学ですね、パン作りは。ずっと会社員で働いてて、本当にパン作りは趣味で始めて」
妻籠宿のある恋野地区出身の鈴木さん。高校卒業後、木曽地域の自動車部品製造会社で働いていました。もともと料理好きで、4年ほど前、ふと、パンを作ろうと初めてベーグルを焼いてみました。
鈴木哲平さん:
「たまたま、うまくできてしまって、すごくうまいじゃん!って。どんどんハマっていった感じです」
当時はコロナ禍、自宅で過ごす時間が増えたこともあり、次々とパンを作り、インスタグラムに投稿しました。
(インスタグラムの投稿)
「20代男のパン作り」
「2品目 漢の米粉パン」
「4品目 漢の米粉メロンパン 作ったつもりだったけど…うん、なんか違う」
さらに、食パンや流行していたマリトッツォ。ハード系のパンも。
(インスタグラムの投稿)
「やっぱり成形が綺麗にできん。練習あるのみです」
パン作りの奥深さに魅了されていきました。
鈴木哲平さん:
「焼けるは焼けるんですよね。けど、お店で売られてるパンと比べると全然違う」
上達するために活用したのが、SNSや動画サイトです。
鈴木哲平さん:
「SNSを使って全国のパン好きな人といろいろ話をさせてもらったり、世界中のシェフの方がパン作りの動画をあげてくださっているので、自分のやる気次第で、学ぼうと思えばいくらでも学べる時代なのかな」
菌の仕組みや、適切な温度や時間。学んではパンを焼き、めきめきと上達していきました。
地元のマルシェでも販売するようになり、「いつか店を開きたい」と思うように。
そんな時、地元の空き店舗を活用しないかと声が掛かります。
鈴木哲平さん:
「やらないで後悔するより、やって後悔した方がいいかなと思って、1回しかない人生なので」
2024年夏に退社し準備を進めてきました。もともと和菓子店だったため厨房のオーブンなどを譲り受けることもできました。
心強い助っ人も。
母・智勢子さん(57)です。元調理師で、開店前の準備やレジを担当。両親も、いつか地域の交流の場になるような店を持ちたいという夢があり、週末には、仕事が休みの父・竜行さん(60)も手伝いに来ています。
母・智勢子さん:
「やり出したら本当に一生懸命やってるので、わが息子ながらすごいなって思いながら」
知識はSNSで得られますが、「職人」として腕を磨くには実践あるのみ。発酵の具合を触って確認。
鈴木哲平さん:
「触ってみるとわかるというのは、SNSで実際にパン店の方から聞いたり、実際に触ってみたら『本当だ!』みたいな」
使う粉にもこだわり、試作を重ねました。
一番のこだわりはクロワッサン。香りの良い県産と北海道産の小麦粉をブレンドしています。
鈴木哲平さん:
「バターの風味と小麦の風味をより強く感じるような」
成形後、1時間ほど発酵させると、生地がふくふくと膨らみました。そして、オーブンに入れて約20分。
鈴木哲平さん:
「いい感じですね」
鈴木哲平さん:
「食べるのも好きですし、作るのもクロワッサンが一番好きなので、理想のクロワッサンに近づけるために試行錯誤して作りました」
このほか、菓子パンやベーグルなど20種以上。店で働いた経験がないため、工程は手探りですが、この日も無事、店に焼き立てのパンが並びました。
クリームたっぷり「クリームパン」(220円)
生地がもちもち「ベーグル」(ダブルチョコ260円ほか)
シンプルに栗を楽しむ「栗のデニッシュ」(460円)
11時、開店。開店すると次々と客が訪れます。
松本から旅行中:
「きのう通りかかって気になってたんで」
「雰囲気が良さそうな感じで、おいしそうな感じでよかった」
イートインも可能。
愛知から旅行中:
「ネットでもともと調べてて、実際に食べてみて、もっちりですごくおいしい」
「子どもも食べやすいパンがいっぱいあって。おいしい」
店は、妻籠宿から歩いて3分ほどの国道に面しています。
イギリスから旅行中:
「中山道の馬籠から妻籠まで歩いたわ。このお店はとてもすてき」
「カレーパンを買ったよ。とってもいい感じ」
地元住民:
「私はベーグルが好きで、6歳の子どもが塩パン(塩バターロール)が好きです。何本でも食べちゃうくらい」
中学時代の恩師:
「この地域の皆さんが、鈴木くんのパンを食べておいしいってみんな思えるとうれしい」
母・智勢子さん:
「ごめんなさい、もうそれしかなくなってしまって」
午後3時前、ほぼ売り切れに。
開店から半年、滑り出しは好調ですが。
鈴木哲平さん:
「今のパンが自分の中で正解だとは思ってなくて、日々試行錯誤じゃないですけど、工夫というか、常に勉強しながら」
会社員からパン職人へ。ふるさと・妻籠で長く愛される店を目指して奮闘中です。
恋野ベーカリー・鈴木哲平さん:
「やみつきになるというか、『恋野ベーカリーのパン食べたくなるんだよね』、みたいな。たくさんの皆さんに愛されるようなパンを作っていけたらいいな」