地元に親しまれた「ラーメン店」が常連客などに惜しまれ閉店しました。長野県松本駅前で45年間営業してきましたが、店主の体力の衰えなどを理由に9月30日で店を閉じました。ただ、別の企業が引き継ぎ、名物のメニューは残して再オープンする予定です。

野菜炒め定食に。山賊焼きがトッピングされたボリューム満点のラーメン。

客:
「山賊焼きおいしいです。ラーメンと合っていて、汁を吸うとよりおいしい」
「よく飲みに来て、その帰りに来ていました。おいしいです」

ここは松本駅前のラーメン店「若大将」。市民に親しまれている「町中華」の店ですが、9月30日は特ににぎわっていました。

その理由は―。

客:
「最終日だというので、(職場仲間)3人で来ました」
「残念ですよ。できれば、もうちょっとやってほしかったな」


「若大将」は9月30日が最後の営業日。別れを惜しんで多くの客が訪れていたのです。

店主の藤井國廣さんは現在82歳。体力の限界を感じ店を閉じることを決めました。

若大将 店主・藤井國廣さん:
「惜しまれて身を引くのもいいんじゃないかな。(客に)非常にうれしい言葉をかけられた。本当、皆さまに感謝感謝。それしかない」

藤井さんが「若大将」を始めたのは45年前の1980年。市内で食堂を営んでいた義理の父の跡を継ぎ駅前に店を出しました。

「若大将」の由来は、藤井さんが憧れていた俳優の加山雄三さん。主演を務めた「若大将シリーズ」を見て「この名前だ」と決めたそうです。

藤井さん:
「みんなに愛される名前であってほしい。1回聞いたら忘れられない名前にしたい。やっぱり男気。なかなかいい男だなと思って、俺もああいう男になりたいなと思ったけど、ならなかったな。全然だめだ」


自身もラーメン店の「若大将」となり奮闘する毎日。市内の飲食店で山賊焼きを名物にする取り組みが始まった際には「山賊焼ラーメン」を開発し人気メニューとなりまし
た。

藤井さんの人柄も相まって45年間、市民に親しまれてきましたが―。

藤井さん:
「(どうしてお店をやめることに?)老体です、老体。体がついていかない」

2025年で82歳。体力の衰えや後継者がいなかったことから店を閉める決断をしました。


閉店4日前のこの日は―。

藤井さん:
「ありがとう」

客:
「泣いちゃう」

20年通う常連客の女性。忙しくなる前にと営業前に藤井さんに感謝を伝えに来ました。

20年通う常連客:
「まさか閉まってしまうとは思わなくて」

藤井さん:
「根本にはお客さまあって、この店が45年間やってこられた。全てがお客さまの、『ありがとう、うまかったよ』の言葉で苦労も全部吹き飛んでしまう」


9月30日、営業最終日。 

客:
「お疲れさま。大変です」

いよいよ営業最終日。開店してすぐに店内は客で埋まりました。

「若大将」の最後の料理を味わう―。

藤井さんも懸命に鍋を振りつつ、手が空けば―。

藤井さん:
「ありがと、ありがと」

常連客:
「きょうはお疲れさまって言いたくて。寂しいね」
「『お疲れさまでした。おいしかったです』もう本当にその言葉でしょうか」

こちらの親子も常連。父親は30年以上通ったそうです。

30年通う常連客:
「味もそうなんですけど、親父さんの笑顔を見に来る。親父さんとともに、このラーメンを食べるのが一番おいしい。とりあえずは、お疲れさまでしたと」

記念撮影や握手を交わす客も―。


そして午後2時前、食材を使い切り最後の営業が終わりました。

藤井さん:
「疲れた、十分に動いた。(やり切りました?)やりすぎた(笑)」

藤井さん:
「(若大将は)自分のふるさとというか、心のふるさとというか、そんなところもある。やり遂げた満足感もないわけではないし、寂しさもあるし、両方だね。本当はもっとお客さまと接していたいと思ったけど、ここでさようならするのも人生の区切り」

「若大将」45年の歴史に幕―。


閉店から1日経った10月1日。藤井さんと妻・ミチ子さんは松本信用金庫へ。実は「若大将」を市内の別の企業が引き継ぐことが決まったのです。

「事業承継」の成約式が行われました。引き継ぐのは、松本市内で3つの飲食店を経営する「GANSO」です。

GANSO 代表取締役・清宮寛久さん:
「地域に愛されてきた店がなくなってしまうのは、私自身も寂しいと思いますし、松本市民の方も寂しい思いをされるのではないか。若大将さんの良さは引き継ぎつつ、さらに愛されるニュー若大将として、頑張って営業していきたい」

2025年12月から「ニュー若大将」として再オープンする予定です。人気だった「山賊焼ラーメン」などは引き継ぎ、新たなメニューも用意するということです。

成約式では藤井さんの妻・ミチ子さんから、ねぎらいの言葉も。

藤井さんの妻・ミチ子さん:
「『寂しいね、残念だね』と言って泣いてしまうお客さまもたくさんいらして、家では見たことないお父さんの人柄を見ることができ、驚きました。皆さんにこんなにも愛されていたのですね。本当に本当に長い間、ご苦労さまでした」

藤井國廣さん:
「幸せです。『若大将』を継いでくれるという一言だけで大満足。少しでも皆さんに愛される店、新しいお客さんをどんどん引き入れていただけるような温かいお店になってほしいな」

長野放送
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