突然の「撤回」表明

宮城県の村井嘉浩知事が2024年から検討を進めていた「土葬墓地」について、9月18日の県議会で「撤回」を表明した。
背景には外国人労働者の増加、とりわけイスラム教徒の土葬需要への対応があったが、全市町村長が「受け入れられない」と回答したことから、事実上白紙となった。

【囲み取材】村井知事の発言全文

議会途中に行われた報道陣の囲み取材では、知事が判断に至った経緯や「撤回」と「断念」の違い、多文化共生への考え方などを詳しく語った。
以下、ほぼノーカット映像とともに、全文を掲載する。
(※読みやすいよう文章を整形しています)

「不安の声」と意思決定のプロセス

じつはかなり前から悩んでおりました。県民の皆さんから非常に不安に思うという声は直接聞かされておりました。

ただ私としてはプロセスとして、これはこの土葬問題に限らず全てそうなんですが、まず情報収集する。そして内部でよく検討する。そして関係者に少しずつ当たっていって、最終的には一番ご迷惑をおかけする、意思決定に関わる人たちにしっかり相談をする。そういうプロセスをどの政策もやっているわけですよね。

今回もまずはいま情報収集中。土葬墓地を作って運営されている方に県職員が直接行って話を聞いている、まだその段階でした。やるかやらないかは何も決めていなかったんですが、これだけ「不安だ」という声が大きくなってきた以上、最終的に市町村長さん方に聞こうと思いました。

全市町村長が「受け入れ困難」

この間の土曜日からきのうまで、全ての市町村長さん方に連絡したところ、皆さん一様に「受け入れはできません」「お断りします」と明確におっしゃいました。

ということは、いくら検討しても前に進めない。最終的に門が開かない以上、県民の皆さんが不安に思っていることを継続するのは良くないのではないか、そう判断したということです。

「撤回」と「断念」の違い

私はマニフェストに載せないと前々から言っておりました。そもそも争点化するのはおかしいと思うんですよ。

「選挙が近いからやめた」というのは関係ありません。もともと選挙で信を問う問題ではない。たまたま今が選挙前だっただけです。

私は前々から「やる」とは一言も言っていません。「検討します、どうなるか分かりません」と言ってきた。それを止めたわけですから、「検討を撤回した」という表現が正しいと思います。

ネットなどで「断念」と言われていますが、断念は「やる意志があってやめる」こと。私はやる意志を全く持っていませんでした。だから断念ではなく撤回です。

外国人と土葬の現実

外国人が増えてくるだけでなく、日本人でも土葬墓地を必要とする方がいる。それも動機の一つでした。

ただ日本にはまだ10カ所近く土葬墓地がありますから、それを有効活用するのが現実的ではないかと思います。

今回の議論を通じて、県民の皆さんが相当不安に思っておられることをひしひしと感じました。県民の不安を払拭するのは非常に重要です。これは宮城だけでなく全国で同じような状況になると思います。

将来の可能性と国の責任

私は宮城県知事として「やらない」と申し上げました。市町村長さん方も全員が否定しました。しかし、将来別の市長や町長が前に進む可能性はあります。

また、技能実習生の多くは帰国されますが、永住する外国人も増えていきます。その時に「亡くなった方の尊厳をどう扱うか」は、一自治体の問題ではなく国全体で考えるべき課題だと思います。

「反発」ではなく「不安」

反発を受けたからやめたのではありません。私はいつも反発を受けているので気にしません。問題は「不安の声」です。

市町村長の誰一人として理解を示さなかった。これ以上検討しても、結果として県民の不安を募らせると判断しました。

「排外主義ではダメ」

私は排外主義・排他主義は間違っていると思います。日本人は「和をもって尊しとする」という精神でやってきた国民です。

世界では紛争が絶えませんが、その根本原因は「お互いを理解しようとしないこと」だと思います。
外から来る人を排除すれば、長い目で見れば紛争につながる。だからこそ外国人を抱き込む考え方が必要です。

「反グローバリズムではダメだ」私はそう思います。

住民理解の壁

議会からも「不安だ」という声が上がりました。議会の声は県民の声です。しっかり受け止めるべきだと考えました。

ただ、その「不安」が具体的に何かははっきりしません。漠然と「不安」という声が膨らんだのです。
宮城県には外国人労働者が必要です。技能実習生や特定技能の方に来ていただかないと、仕事が回りません。だからその施策は継続していきます。

仙台放送
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