自身の学歴詐称問題に端を発し、市議会から不信任を議決されたことを受け、伊東市の田久保眞紀 市長は9月10日に議会を解散した。“大義なき解散”と指摘する声も根強く、市役所には多数の苦情が寄せられるなど市政の混乱は続いている。
田久保市長の就任から約3カ月半。これまでの言動を振り返ると、様々な場面において矛盾や撤回が目立つ。
新図書館建設計画
5月:選挙公報に「新図書館建設は中止します!!」と記載し、選挙戦でも同様の訴えを続ける
5月29日:就任会見で、田久保市長が「新しい図書館の建設は中止とここで意思表明させてもらい、速やかにそのような手続きに入っていく」と述べる
7月2日:市民との対話集会で、田久保市長が「温泉カフェという形で温浴施設を造りながら、そこに図書館を併設するといったことを自治体と一緒になってやっている事業体があった。非常に伊東には良いのではないかと思い、伊東で出来ないかどうか実現の方向性を探っている」と述べる
7月31日:会見で、新図書館建設計画について田久保市長が「水面下で激しく動いている」と述べる
8月8日:市幹部からの指摘を受け、田久保市長が市のホームページに“水面下発言”を訂正する旨の声明を掲載
8月15日:市立図書館等の視察後、温泉カフェ図書館構想について田久保市長が「あくまで一案で他の市町でやっている事例として非常に興味深いと思った。ハコモノというのはあくまでもすべての建物を否定するものではない。建てても活用されなかったり、建てたのに費用対効果が見合わないものをハコモノと呼んでいるだけで、すべての建物を否定する、公共施設そのものを否定することではない」と発言
9月3日:新図書館建設事業について、市がホームページで「現在は白紙の状態」との声明を発表し、田久保市長の“水面下発言”を否定
伊豆高原メガソーラー計画
7月31日:会見で伊豆高原メガソーラー計画について、新図書館建設計画とあわせて田久保市長が「水面下で激しく動いている」と述べる
8月5日:県の元副知事で、静岡市の難波喬司 市長が定例記者会見で、田久保市長の発言を念頭に「伊東のメガソーラーがどういう状態にあるのかについて、事実とは異なるような情報が出ているので、事実関係だけはっきりしておきたい」と述べた上で、現状について「河川占用の許可が得られないために橋梁の設置と事業地からの排水が出来る状態にない。従って太陽光発電事業を実施できる状態にないというのが実態。いろいろな情報が流れているが、これが事実」と説明。さらに、「伊東市の職員は立場上こういうことをいま言える状況にないと思うので、当時関わっていた私がしっかりとお伝えしておく必要がある。何か行動しないとこのメガソーラーはまた復活してくるという情報も出ていると思うので、そういうところも踏まえた上でこれをしっかり伝えておきたい。もうちょっと踏み込んで言うと、逆に言うと、市長がいなければメガソーラーは止まらないということはない」とも発言
8月8日:市幹部からの指摘を受け、田久保市長が市のホームページに“水面下発言”を訂正する旨の声明を掲載
8月20日:田久保市長が自身のSNSに「工事は止まっていますが、事業そのものは無くなっていませんし、裁判も続いていて予断を許さない状況であることに変わりはありません。前市長は事業者と秘密裏に確約書を結んだ後、2023年の1月(※21日に2022年7月と訂正)に宅造許可の変更申請を認めて事業を前進させています」と投稿
8月21日:前出の静岡市・難波喬司 市長が定例記者会見で、田久保市長の発信について「事実関係だけ伝えるが、まずメガソーラーについて伊東市は条例を作った。この条例は(大規模な)メガソーラーをやる時には市長の同意がいるという内容になっている。それを作ったのは前市長。宅造許可も県の林地開発許可も同じだが、要件が整ったら許可を出さないといけない。それを出さない、あるいは何か理由もなく引き延ばしたりすると不作為になり、訴えられたら必ず負ける。許可を出すという行為そのものが、事業推進にはならない。それは行政の義務。宅造の許可は条件が整ったから出しただけ」と述べる
9月2日:伊豆高原メガソーラー計画について、市がホームページで「当該事業の実施につきましては、関係法令の許可が必要となりますが、事業者は開発に必要なすべての許可を取得している状況ではないため、現状、工事の進捗は見られません。また、近年、事業者からの連絡もございません」との声明を発表し、田久保市長の“水面下発言”を否定
なお、田久保市長は5月に行われた市長選の選挙公報において、メガソーラーという言葉は自身の肩書きを記すための「伊豆高原メガソーラー訴訟を支援する会代表」として使用した1カ所だけであり、公約の中には含まれていない。
また、市議会6月定例会で行われた所信表明演説でもメガソーラーには一切触れていなかった。
学歴詐称問題及び“卒業証書”
6月初旬:市議全員宛てに「東洋大学卒ってなんだ!彼女は中退どころか、私は除籍であったと記憶している。こんな嘘つきが市長に選ばれるなんて信じられない!議会に真実の追及を求める!※こんな嘘つき、卒業証書の偽造には注意を」と記された告発文が届く
6月4日:市議会の正副議長(当時)に田久保市長が“卒業証書”とされる資料を“チラ見せ”するも複写には応じず
6月25日:市議会の質問戦で議員から「東洋大学法学部を平成4年3月に卒業していますね?」と問われるも、田久保市長は「すべて代理人弁護士に任せているので、あとのことは弁護人から公式に発言のない限りは私からの個人的な発言は控える」と発言
6月26日:田久保市長が7月2日の会見に“卒業証書”を持参する意向を示す
7月2日:会見で、田久保市長が東洋大学除籍を認め、“卒業証書”も持参せず。一方で「私の中では本物だと思っている。一度卒業という扱いになって、なぜ除籍になっているのかはきちんと事実関係に基づいて確認していかないと(いけない)」と発言。代理人の福島正洋 弁護士も「あれ(“卒業証書”)は普通に考えて偽物とは思わない」と断言
7月7日:“卒業証書”について、会見で田久保市長が「私の中では本物だと思っている」と述べる。代理人の福島正洋 弁護士も「私の目から見てあれが偽物とは思っていない」と強調
7月18日:記者から「“卒業証書”は偽物ではないか?」と問われた田久保市長が「いえ!」と語気を強める
7月31日:会見で田久保市長は「6月28日に大学へ出向いて除籍処分との事実を初めて認識した」と従来の姿勢を崩さなかった一方、“卒業証書”が本物という認識に変わりはないか聞かれると「守秘義務に抵触する範囲ということで明確な回答は今の時点では控えたい」と述べる
8月6日:東洋大学がホームページ上で「本学学則では、卒業した者に、卒業証書を交付することとしており、卒業していない者に対して卒業証書を発行することはありません」との声明を発表
8月13日:百条委員会の証人尋問で、田久保市長が6月4日の出来事について「報道であるようなチラ見せといった事実はありません。私の方としては、こうやって提示をしまして、約19.2秒見ていただいたと記憶しております」と発言。委員会終了後の取材でも「会話は録音の記録を持っていて、ストップウォッチで計った。持っている記録上では19.2秒提示して、『もっときちんと見せてほしい』といった発言はなく、最終的には『いいじゃん』ということで私としては肯定してもらったと受け取れる発言があった。私としては見せて19.2秒ちゃんと提示したと認識している」と強調
8月14日:東洋大学の声明を受け、田久保市長が「卒業できていない人間に卒業証書を渡さないのは当然だと思うので、そこはきちんと確認するべき」と発言
8月15日:取材に対し、“19.2秒”の音声データについて、田久保市長が「要であれば公開する準備があるので、週末に相談したい」と発言
8月19日:取材に対し、“19.2秒”の音声データ公開について、田久保市長が「公開は差し控えた方がいいと思っている」と前言を撤回
9月1日:東洋大学から提出された記録などを基に「田久保眞紀 氏(伊東市長)が、東洋大学を卒業しておらず、正規の卒業証書が授与された事実はないということが正式に判明した」「田久保眞紀 氏(伊東市長)が、4年次に卒業できる見込みがなかったことが裏づけられることとなり、田久保眞紀 氏(伊東市長)が、卒業していたものと勘違いしていたとの主張は明らかに無理が生じる状況であることが確定するとともに、田久保眞紀 氏(伊東市長)は、6月28日以前から自身が除籍であったことを知っていたものと断定できることとなった」などと記された百条委員会の結論が市議会で報告される。また、百条委員会は“19.2秒”発言は虚偽と認定している。
進退
7月7日:会見で、田久保市長が“卒業証書”を在籍期間証明書や上申書と共に検察に提出する考えを明らかにした上で、「地検への上申が済んだら極めて短期のうちに辞任をする。改めまして市民の判断を仰ぐために私は再度市長選に立候補したいと考えている」と辞意を表明
7月18日:取材に対し、田久保市長が月内にも辞職する意向を示す
7月28日:会見で、田久保市長は「31日に開く会見で進退を明らかにする」と繰り返すばかりで、辞職の2文字は頑なに口にせず
7月31日:会見で、田久保市長が「私の任期、みなさまの負託が許される限りは元々の皆様との約束である新図書館建設事業の中止と伊豆高原メガソーラー計画の完全白紙撤回、この2つについて最善の努力をしてまいりたい」などと辞意を撤回
教育長人事
9月10日:田久保市長が「(事務方と)連携が取れていないとは決して思っていない。現場の状況も大切なので、現場との調整を図りながら、(市議会9月定例会の)最終日には教育長人事が上がるように(上程できる)ということで私の方では進めていた」と強調するも、その後、取材に応じた西川豪紀 教育部長が不在となっている教育長の人選について以前から市長と相談していたことは認めつつ、複数人に就任を打診したものの断られていたことを明かし、「現時点で誰に教育長に就いてもらえるかまったく決まっていない状況」と全くの白紙の状態であるとの認識を示す