地域に貢献したい一心で、書店経営の経験ゼロから開業

全国的に書店の閉店が相次ぐ中、富山県南砺市の福野地区に新たな書店がオープンした。「かずぽん書店」と名付けられたこの書店を経営するのは、これまで書店運営の経験がなかった食品スーパー「サンキュー」の運営会社である。地域から唯一の書店が消えることを懸念した企業が、異業種に飛び込んだ挑戦の様子を取材した。
地域唯一の書店が閉店、3ヵ月後に同じ場所で再開

南砺市福野地区では、地域唯一の書店が閉店してから3ヵ月。9月2日に同じ場所に「かずぽん書店」が開店した。オープンするとすぐに多くの地域住民が訪れた。

この新たな書店の担い手となったのは、同じショッピングセンター内で食品スーパー「サンキュー」を経営する三喜有だ。中西一夫社長は「新規の本屋を誘致したが、なかなかこのご時世で出店にいたらなかった。畑違いだが、サンキューとして『地域に貢献できるやり方があるのでは』と模索、3ヵ月という短い期間で『やるぞ』と」と決断の経緯を語る。
閉店を惜しむ声は、スーパーに買い物に来る客から多く届いていたという。「地域に育ててもらった企業である以上、しっかりと地域に貢献しなければいけない。地域に貢献できる本屋を作りたいと思った」と中西社長は話す。
食品スーパーのスタッフが書店員に転身

オープン一週間前から開店準備が始まった。店内に並べる書籍は1万5000種類、文房具も合わせるとおよそ2万種類にのぼる。
書店スタッフを務めるのは食品スーパーのスタッフだ。普段は食品を扱う石浦春美書店長は「種類がわからない、未知の世界の職種」と戸惑いを口にする。「普段使っているのはカッター。専用のものではない。全然使い勝手も違う」と慣れない作業に四苦八苦した様子だ。

スタッフたちは2日間の研修を受け、書店運営の基本を学んだ。普段はレジを担当している広岡岬書店チーフは「新刊は手前に必ず、売れるものは平台に」と研修で学んだ陳列のコツを実践した。
地域密着型の書店を目指して
「かずぽん書店」が目指すのは地域密着型の書店だ。書籍を卸す出版専門商社「トーハン」の力を借りながら、地域のニーズに合った品揃えを工夫している。

トーハンの加藤大介さんは「スーパーを利用する高齢者の方に、衝動的に『おもしろそう』と思ってもらえるものを揃えた」と説明する。「高齢者から一番人気の『クロスワードパズル』、パズル誌や免許証の認知症テストをメインに」と地域の客層を意識した品揃えだ。

実際、来店した高齢の客からは「(クロスワードは)まあ楽しいね、これにしようかな」「もう75歳になったからこれが必要になってきて。(本屋がなくなったら)どこに見に行かなきゃいけないのかなと」といった声が聞かれた。
別の客は「(ショッピングセンターには)毎週来ているから、新しいものがあれば趣味の本も含めて利用できたら」と期待を寄せる。

子どもたちの学習サポートにも配慮し、店内には椅子とテーブルを新設。さらに季節やトレンドに合わせた企画コーナーも設置した。
食品スーパーのノウハウを活かした経営
書店経営は「正直なかなか利幅の少ない商売」(トーハンの加藤さん)だが、三喜有はコスト削減のためセルフレジを導入するなど、食品スーパーで培ったノウハウを活かした工夫も取り入れている。しばらくの間は店内にスタッフが常駐し、セルフレジの操作をサポートするという。

親しみやすさを大切にする姿勢は店名にも表れている。「かずぽん書店」は中西一夫社長のニックネームにちなんで命名された。

中西社長は「本屋でも『サンキュー』の"ありがとう"の気持ちを売り場に表現したお店作りをしていきたい」と意気込みを語った。