石川県は能登や南加賀地域では医師が不足しているとされているが、実は県全体でみると全国で9番目に医師の数が充実している「医師多数県」だ。つまり医師の数に偏りがあるのだが、これを解決するために県が各地域に派遣しているのが若手の医師だ。
医師不足の地域を支える若手医師たち
厚生労働省は医師の偏り具合を表す「医師偏在指標」を全国で300以上ある二次医療圏で公表している。県内を能登北部・能登中部・石川中央・南加賀の4つの地域に分けると、金沢市が含まれる石川中央は328。これは全国で28位と高い値である一方で、能登北部は151.7と下位3分の1に含まれる低い値となっている。

能登半島の中央に位置する志賀町。人口約1万7千人のこの町の医療を支えているのが町立富来病院だ。診療科目は8科目で、1日あたりおよそ140人の患者が訪れるが、常勤の医師はわずか5人のみ。外科や耳鼻科は週に2日、皮膚科は週に3日のみなど、診療日も限られている。

医師が少ない病院を支えているのが金沢市出身の若手の2人だ。彼らは県が派遣した医師で2025年4月から常勤の医師として働いている。医師7年目の魚谷雄太郎さんは、出勤するとまず診察予定の患者の情報を事前に確認する。「どれぐらい、どういう人が来るかっていうのは何とも言えないですね。ちょっとそこが読めないんですよ」

金沢大学医学部の地域枠を卒業し、医師免許を取得した魚谷さん。能登町や金沢市の公立病院に1年ごとに派遣され、経験を積んできた。今の目標は糖尿病などの専門医の資格をとることだ。「今、自分がやってる内分泌とか糖尿病の分野というのは患者さんに対する声かけであったりとか指導みたいなものもすごい大事だったりするので。そういったところは昔から興味がある」
地域の病院にとって欠かせない存在
この日2人目の患者の診察中に緊急の連絡が入った。 「先生、ドクヘリ要請かけてもらいますか?」 と看護師が声をかけると魚谷さんはすかさず「かけて」と答えた。運ばれてくるのは36歳の男性。意識不明の状態だということだ。救急車が到着すると「ランデブーポイントにこのまま向かいたいので、そこで待つようにドクターヘリに伝えてください」と素早く指示を出した。

救急車のなかで処置を続けながら、ドクターヘリとの合流地点に向かう。到着するとすでにドクターヘリが待っていた。ヘリのスタッフと連携し、できるだけの処置を行う。救命救急センターがある能登総合病院へ速やかに搬送した。「尋常じゃなかったので、その情報が入った時点でドクヘリを先に呼びました。そこの判断は第一は僕がするんですけど。今回はこれで良かったかなと思います」

彼らが医師不足の病院で働く理由。それは県が学費を負担する代わりに医師免許を取得した後は指定する病院で9年間働く制度を利用しているからだ。こうした制度によって、医師不足の地域の医療体制は支えられている。富来病院の竹村健一院長は「能登の公立病院の大部分といったら言い過ぎですけど、特に内科に限ってだと8割9割は自治医科大学の卒業生と金沢大学の特別枠・地域枠の卒業生の派遣で補充してもらってるのが現状で。それがないと成り立たない」と話す。

医師4年目の新川季紗さん。自治医科大学を卒業し、2年間研修を受けた後、2024年は輪島病院、そして2025年4月から富来病院で働いている。この日は午後から訪問診療を行うため介護施設に向かう。「私が週に1回、月曜日で月に4回。院長先生が木曜日に月に2回行ってくださっているので」

午後の準備を終えると食堂へ。「外来日のときは隙間を見て今なら食べれるかなと思った瞬間にバッて食べに行って、『良かった食べれた』みたいな結果論になることが多いですね」新川さんが診療に訪れたのは特別養護老人ホーム「はまなす園」。介護が必要な高齢者が約100人暮らしている。高齢化が進む地域にとって介護施設への訪問診療は無くてはならないサービスだ。
地域医療の未来は
医師不足の地域で働くことについて新川さんは「多分まっすぐな道ではないと思います。大学病院とか金沢の大きい病院とかで勤務していれば、そのまま最短で専門医が取れたりとかもちろんあると思うけど。でも医者人生のなかでそれが回り道かと言われると無駄なことではないと思うし、今経験したからこそ見えるものもあると思うので」と話す。

その一方で新川さんたちのように自治医科大学や地域枠を卒業した医師が、9年間の義務が終わった後も医師不足の地域で働き続けるかというとそれは難しいという。「それこそ自分が40代50代とか医者として最後どこで過して働くかみたいなところを考えると、やっぱり自分の地元でというのは自然な流れなんですよ。金沢に元々の生活の起点があるという人が奥能登に長期的に働くのが難しいという問題はそう。直接的に本当にそうだとは思います」

能登地域で起きている医師不足に根本的な対策が難しいなかで、地域の病院のあり方はどうなっていくのであろうか。竹村院長は「医者の数はもちろん今よりは減るかもしれません。できる検査も処置も減るかもしれませんけど。そういったものはもう少し大きな病院に行っていただくという。今までできたものができなくなるのは負担になってしまうんですけど、病院を無くしてはだめなので。その辺はうちもなんとかこの病院を守っていかなければと思っています」と話した。
(石川テレビ)