相次ぐクマの出没
北海道内で相次ぐクマの出没。
今回は、札幌市のヒグマ防除隊隊長の玉木康雄さんにお話をうかがう。
―連日の市街地へのクマ出没、かなり危険ですよね?
「私たち最前線にいる者としても、ここまで状況が悪化してくるとはあまり想像していなかったのが正直なところ」(札幌市ヒグマ防除隊隊長 玉木康雄さん)
―江差町などでは毎日のようにクマが出没し、緊張状態が続いていますが。
「クマは“日和見雑食性”といい、自分が一番得られやすい食べ物の方に嗜好が簡単に切り替わる。例えば、家庭菜園を荒らしているクマがどれぐらいリスクがあるかは即断できませんが、このクマがいきなり人を襲ってくるかと言われれば、そういった可能性が必ずしも高いと考える必要はないようにも思う」(玉木さん)
「比較的リスクなしに、自分が食べたいものが食べられるだけ食べる。これは満足感ですから、その中であえてリスクを冒して他のものを狙うことは現段階ではないのでは。ただ、何かきっかけがあれば別です」(玉木さん)
―そして我々人間が食べて美味しいものは、やっぱりクマも美味しい?
「もちろんです。人間が人類の生存のためにいろんなテクノロジーを費やして作られてきた食べ物というのは、当然消化もよく高カロリーなもの。クマにとっても本当に最高の食料だと思います」(玉木さん)

江差町の駆除体制
現在、江差町は箱わな6基を設置し、ハンター9人の態勢で臨んでいる。ハンターの出動状況など、詳しくは明らかにされていない。
―この態勢で十分と言えるのでしょうか?あるいは、もっと対策が必要でしょうか?
「これを一概に適正かどうか、私は判断できません。なぜかというと、地形がわからない。ただ単純に距離感だけで『このエリアの中に何基あれば大丈夫』というものでもない」(玉木さん)
「ハンターの動きやすさ、例えばクモの巣のように縦横に道路がある地域と、大きな峰に遮られてわずか数キロ先に行くにもぐるっと迂回しなければならないところとでは、全然状況が違う。ですから、地域の方々はおそらく全力でこの被害対策防止のために努力されていることだけは間違いないと思います」(玉木さん)

福島町と江差町のケースの比較
その他の町がどういった態勢だったのか。
7月に男性が死亡した福島町では、6日後に駆除された。箱わな5基、ハンター5人の態勢だった。駆除されたクマに関しては、町の中心部で約2キロの範囲に渡って主に行動していたとされる。
一方で、8月に入って食害が20件以上確認されている江差町。出没範囲は南北10kmに及び、複数のクマが出没している可能性も考えられている。

福島町のケースでは夜間の発砲で駆除された。今回の江差町のケースでは…
―現時点で撃つという判断はまだしていない、ということですか?
「いまの映像を見た感じでは、夜にしか出ていないんじゃないかなと。例えばこのクマが、家庭菜園で夜間食べ続けて日中も居座り、人が横にいてもその状態が続くようであれば、人間の気配に鈍感になっている問題個体だと思います」(玉木さん)
「ただ、夜間しか出ていないということは、少なくとも自分たちが有利な条件下でなければそこで安心して餌を食べない、というふうにも見られます」(玉木さん)
「夜間に発砲するとなると、相当ハードルが高い。おそらく警察官職務執行法でなければ対応できませんし、致命傷を負っても逃走する可能性がある。手負いの状態で夜間に茂みへ突入されると、もっとリスキーな状態になってしまう。簡単に夜間発砲はできない状況かもしれません」(玉木さん)

―このままクマが山に帰るのを待つことがベターな対策でしょうか?
「必ずしもそれがベターとは思いませんが、これだけ家庭菜園の被害が出てくると、おそらく皆さんは収穫を早めるため、クマが自由に餌を食べられる状況がどんどん狭くなってくる」(玉木さん)
「要するに、皆さんが対策をすることでクマが自由に餌を食べられなくなれば、クマがいる理由もなくなってくる。そういった形で自然解消的に山へ戻ることは考えられます」(玉木さん)
―クマの習性から考えて、今すぐに撃つよりも、自然にクマが山へ戻ることの方が望ましいのでしょうか?
「一番の問題は、それほど山からオーバーフローしている個体がいること。いま無理に夜間発砲するかは別として、自然に帰ってくれれば無事、ということではない。山から溢れている個体の多さ、これは調整すべき数だというのは間違いない。撃てるときには撃つべきかと思います」(玉木さん)

改正法と問題点
クマの出没が相次ぐ中、法律の改正により9月から発砲のルールが変わる。
【改正前】
・住宅密集地や夜間の発砲は原則禁止
・危険性高い場合 警察官がハンターに発砲命じる
【改正後】
・自治体の判断で発砲可能に
・弾が人や建物などに当たったら自治体が補償
北海道猟友会が懸念しているのは、「人身事故などが起きた場合、銃の所持許可が取り消される恐れがある」ということだ。

―こちらの新制度も課題がありそうですが。
「改正された鳥獣保護管理法によって、行政の判断で発砲できるようになります。実は、札幌の場合はこれまでの法体系の枠の中で対処してきたことではっきりわかっているのは、法体系が変わっても“やるべきことは変わらない”ということ」(玉木さん)
「住民の方に被害が及ばないように、弾丸の到達距離に人がいないかどうかチェックしながらの対応になる。ただ、今まで以上に形式的要件を整えなければならない。その要件を整えるまでの間、我々が身動きできないような状況に置かれるタイミングが出てきている。そういった部分はこれから行政などと話し合い、改善策を作り上げていかなければならない」(玉木さん)

ヒグマ防除隊隊長の玉木康雄さんにお話をうかがった。
江差町の皆さんが安心して暮らせる日が1日も早く訪れることを願う。