2025年8月14日、北海道斜里町の羅臼岳の登山道で登山客の男性がヒグマに襲われ死亡した事故。事故から1週間経った21日夜、知床財団が事故前後の状況や捕獲したヒグマの特徴などを発表しました。
■事故現場の環境
被害者がヒグマと遭遇したと思われる地点は、岩峰(通称560m岩峰)の南側を巻くように登山道が配置された狭あいな区間に位置する。事故現場は、山頂方面から登山口に向かって進むと岩峰の陰で見通しが悪い地点。
560m岩峰付近は、夏季にはヒグマのエサとなるアリが恒常的に発生する場所であり、アリの摂食を目的としたヒグマの出没が多発する場所として知られている。8月15日の現地捜索時、および20日の事故調査時においても多量のアリの発生を確認している。
■事故発生時の状況
事故発生時、周囲に同行者および第三者はおらず、ヒグマによる被害者への攻撃の瞬間は誰も直接目撃していない。被害者は同行者から離れ、先行して単独で走って移動していた可能性が高い。同行者との距離や被害者の移動速度などは不詳であるが、登山全体の行程から類推してもかなり早いペースで下山していたと推定される。被害者はクマ鈴を携行していた。被害者自身のクマスプレーの携行や使用に関する証拠は確認されておらず、不明。
なお、同行者は「クマよけスプレー」と謳っている商品を所持していたが、ヒグマに対応した製品ではなく、かつ再利用品であった。事故発生時の初期対応において使用を試みたが、噴射できていない。
一方、男性を襲ったと特定されたヒグマと子グマ2頭について、知床国立公園内では2025年だけでも30件以上の目撃情報が寄せられていたこともわかりました。
捕獲したヒグマのDNA情報と外見的特徴からの個体の識別、過去のヒグマ対策記録やDNA調査により把握している個体情報と突合した結果、以下のことが明らかとなったといいます。
・捕獲したヒグマは、2014年(出生年)から知床国立公園で毎年のように目撃されてきた。
・特に、岩尾別地区を中心に活動しており、2025年も5月ごろから同地区を中心に目撃されており、2頭の出生も確認されていた。
・2025年に入り、当該親子グマと思われるヒグマの目撃情報が30件以上寄せられていた。
・特に国立公園内の道路沿いなど人目につく場所で繰り返し姿を現していた。
・道路沿線での最後の目撃は8月8日だった。
・8月10日には羅臼岳の登山道付近でこの親子グマと思われる個体の目撃情報が登山者より寄せられていた。
「人を避けない。人に出会ってもすぐに逃走しない」といった行動段階1から1プラスに該当する行動が度々確認されており、これらの行動を抑止するため、捕獲個体への追い払い対応(忌避学習付け)を繰り返し行ってきた経過があるといいます。
知床財団によりますと、羅臼岳登山道でのヒグマ目撃情報は例年多数寄せられており、2025年度の目撃情報の件数は平年並の水準だったといいます。
一方、8月10日より以下の事例が発生しており、要注意事例として詳細把握に努めるとともに、警戒情報等の発出を行っていたということです。
■8月10日:
岩尾別コースの銀冷水(1,040m)〜大沢(1,120m)間の登山道上で0歳の子グマ2頭を連れた親子グマが目撃される。この親子グマは利用者を気にせず登山道を登ってきたため、登山者(別パーティのガイド含む)がクマスプレーを構えて後退する事態となった(スプレー噴射なし)。
→提供写真による外見上の特徴から、この親子グマは今回の捕獲個体と同一である可能性が高いと推察。
■8月12日:
弥三吉水間(780m)〜銀冷水(1,040m)の登山道上で単独の成獣サイズのヒグマ(外見特徴:濃茶色、体毛長め)が下山中の登山者によって目撃された。目撃者に接近したことからクマスプレーが使用されているが、使用量は微量である。この個体は目撃者から一時離れたものの、遭遇から退避まで約5分間にわたり接近と離反を繰り返す行動を見せた。
→後日、目撃者から「報道で見た8月10日に羅臼岳で目撃されたヒグマの特徴と似ていた」との情報提供があった。