【酒類】道内の地酒専門店の先駆けとして、多くの左党に親しまれてきた老舗「銘酒の裕多加」。運営する「裕多加ショッピング」(札幌)代表取締役の熊田理恵さんに、世界が関心を示す日本の酒文化について聞きました。BOSS TALK #109

――今、振り返って、どういうお子さんでしたか。
「札幌生まれの札幌育ち。家が酒屋。学校から帰ってきたら、『ただいま』と店にランドセルを置き、お外で遊ぶ元気な子でした」
――お店とお家が一緒。家業を理解した上で子ども時代を過ごしたわけですね。
「仕事に打ち込む父の背中しか見ていなかったのでは、というぐらい見ていました」


柔道で培った体当たり精神 カナダ留学で、英語と格闘しながら世界を学ぶ

――進路はそういう方へ?
「父が柔道を教えており、小さいころから柔道を続けて高校を卒業しました。進路では柔道で実業団に行こうか、留学しようかと迷いましたが、商業を勉強しようとは思いませんでした。世界中の人が何を考えているのかを知りたくて、カナダに留学しました。世界で一番普及している英語が分かれば、それが分かるのではと思いました。ただ、英語はめちゃめちゃ苦手で、必死でした。コミュニケーションをとり、何とか相手の言っていることが分かる程度。自分からはイエス、ノーを伝えられるレベルです」
――体当たり精神がすごいですね。
「柔道で身につけたのかもしれません」
――留学から戻って、家業を継ぐ方向になったわけですか。
「その前に自分でどこまでできるのか、挑戦したくなり、昼は酒屋、夜はバーの店を開きました。私は当時、20代。同年代、同性の方、日本酒を飲まない方々に日本酒を広める店を目指しました。日本酒好きな人がお友達を連れて来られ、そのお友達が『日本酒が苦手なので、ビールを』と言われると、ビールを出しつつ、ちょっと日本酒も出す。その人が日本酒にハマった瞬間がたまらなかった。良い仕事をしたと思いましたね」


店をたためば「人を悲しませることになる」 心に刻んだ貴重な経験

――腕試しのお店の経験が今につながっているのですね。
「家業を継ぐことになり、営業最後の日、お客さまはなかなか帰らず、悲しんでいました。自分で勝手にやって、勝手に閉めるのは人を悲しませることになるのを知ったことが、すごく大きな経験になりました。実家のお店がそうなったら、歴史の深みが違うので、どれだけの人を悲しませるだろうか。その思いはずっとあります」
――「銘酒の裕多加」に入られ、どういうチャレンジをされましたか。
「いろいろなイベントを試みました。異業種さんとコラボし、着物の着付け、書のパフォーマンス、日本舞踊など、日本文化体験を行いながら、日本酒の魅力を紹介するイベントを、神社の境内をお借りしてやらせていただきました。他業種の方とコラボすると、他業種の方がお客さまを呼んでくださり、日本酒に出合える機会を作ることができると思いました」
――家業は家族との距離が近いからこそ、難しいところもあると思いますが。
「幸い父と仲がすごく良く、父は私の性格をよく知っていました。私の言ったことで止められることはありませんでした。私が何かをやりたいって言いだしたら、実際にやらないと分からないから、父は止めなかったのだと思います」
――良いレールを敷いてくださった。
「そうですね。ありがたいなと思います」


父親の死後の風当たり 初めて自覚した経営者としての仕事の厳しさ

――経営者を継ぐタイミングや、引き継いだときの思いは?
「2022年に五代目社長に就きましたが、父がいたので、肩書きだけが変わったぐらいで、全然、実感がありませんでした。約1年後に父が亡くなって、さまざまな風当たりを受けて初めて代表の立場、責任を自覚しました。父の仕事の大変さを見て、分かっていたつもりでしたが、実は全然、分かっていませんでした。亡くなって初めて分かることが、今もたくさんあります」
――ボスとして、どういうところを大切にされていますか。
「もともと猪突猛進型で、思い立ったときは、もう動いていました。今はチームでしっかり動けるよう、みんなに自分の思いを伝えることを大事にしたいと思います」
――今、力を入れていらっしゃることは?
「日本酒を伝えるには知識、歴史、背景にあるものをお伝えすることが大切だと思います。そういう無形のものにも取り組んでいます」
――伝える対象はどういう方ですか。
「主人は米国人で、母国語は英語、日本語も流暢にお話しができます。実は国内外のお酒を審査するお酒のプロフェッショナルでもあります。彼が酒の造りやテイスティング、マリアージュについて日本人の方にも、外国人の方にもお伝えしています」


外国人が驚く日本酒のフルーティーな風味 今後は新たな酒造りにも挑戦

――日本酒に海外の方は興味がありますか。
「外国の方は、お米から造るのにフルーティーな香りがすることに驚き、不思議に思われます。日本食に日本酒が合うことにも興味を持つようです。日本に来られたら、この国の文化のお酒を飲んでいただきたいですね」
――思い描く未来のビションは?
「農家さんの全面協力で、お米を作らせてもらい、お酒を委託醸造していただいています。そうすることで、小売店では分からない酒蔵さんのご苦労を知ることができました。酒蔵さんの立場に立ったら、その気持ちがもっと分かり、小売りの商売にも生きると考えると、酒造りをやりたくなりました。今までにない酒を造ろうと思います。何かを新たに生み出すことが好きなので、興味を持ってくださる方には飲んでほしいです」

北海道文化放送
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