きのう=18日、大阪・ミナミの繁華街「道頓堀」で消防隊員2人が死亡した火災。
なぜ火はここまで燃え広がったのか、そしてなぜ、消防隊員が死亡したのか。
元消防士と現場を取材して見えたのは、「繁華街の雑居ビル」ならではの火災の恐ろしさでした。

■「繁華街の雑居ビル」の消火活動の難しさを元消防士語る
現場のビルで火災について解説してもらったのは、大阪市消防局で救助隊員として、約5年間勤務していた兼平豪(かねひら・つよし)さん。
まず、兼平さんが着目したのは「繁華街の雑居ビル」だという点です。
火災が起きた現場は交通量の多い繁華街で、さらに複数のテナントが入る「雑居ビル」であったことが消火活動を一層困難にさせたと話します。
【元消防士 レスキューハウス・兼平豪さん】「乗用車の交通量も多いので、初期の消防車を止めるのも難しかったと思う。難しい危険なエリア」
そして看板の多い雑居ビルで出た火が「建物に打たれている看板や広告をつたって一気に延焼が拡大したんじゃないか」と指摘します。

■「壁面の看板」「1つの階段」…最も難しい火災の1つ
火災が起きる前の現場を見ると、ビルの壁面に大きな看板が備え付けられているのが確認できます。
出火当時の映像を見ても、看板をつたって、火が上層階まで燃え広がっているように見えます。
燃えた後、看板はすべて剥がれ落ちていました。
さらに、兼平さんは「建物の構造」も消火活動の妨げになった可能性があると話します。
【兼平さん】「この建物は出入口が1カ所、なおかつ1つの階段。そこの1つの階段の経路が延焼で被害がでかくなると逃げ遅れだったり、退避が難しくなる。火災現場でも最も難しい火災の1つ。
避難経路が1つしかないにも関わらず、屋外階段・避難経路に酒場の瓶がいっぱい置かれていたり、非常階段の鍵がロックされていたりとか。全国的な雑居ビルで危険度がかなりあると感じているので。
消防設備がしっかりされていたか今、調査が入っていると思うが、1つでも欠けていると中に取り残された方であったり、活動してる消防隊員の命の危険度がかなり増す」

■死亡原因の1つは建物の「崩落」か
では、なぜ消火活動にあたっていたとみられる消防隊員2人が死亡したのか。
その原因の1つとして指摘されているのが、5階と6階部分の「崩落」です。
雑居ビルの「崩落」の危険について兼平さんは…
【元消防士 レスキューハウス・兼平豪さん】「老朽化したビル・建物がいつ崩落するか分からないんです。3階が崩落するのか、4階がするのか全く分からないので。崩落原因は『火災』と『老朽化』のかけ合わせが最悪な結果につながったじゃないかなと」

■空気ボンベの音は「死の時間が迫る」合図
発生当時の映像には、亡くなった2人が発見された6階付近で煙が立ち上がる様子が確認でき、兼平さんは「中での消火活動はかなり過酷なものだったのではないか」と話します。
というのも、消防士が担いでいる空気ボンベの使用できる時間は通常”10分”ほど。
その時間内で消火活動にあたり、その後ビルから退避することが必要となります。
【元消防士 レスキューハウス・兼平豪さん】「そもそも、昼間の火災でも1メートル先は見えないんですよ。窓を探そうとなったとしても(空気ボンベの)タイムリミットがあと3分5分とかで、音が鳴る。『ここにいると空気がなくなりますよ』と音が鳴る。
その音を聞くと自分の死の時間が迫られているので、余計パニックになる。冷静に判断する訓練はするんですけど、その中で活動すると窓を見つけること自体がすごく難しい」
今回の火災を受け、兼平さんは「まずは私たちが、日々の防災意識を高めることが必要だ」と話します。
【元消防士 レスキューハウス・兼平豪さん】「火災をなくすのは平時の皆さんの安全確認・防火管理体制・火災予防に対する意識。ここに繋がっていく。火事は私たちの生活の真横にあると思っていてください。防火管理だったり火災予防に対して真剣に目を向けないといけない状況かなと思います」

■5年間で10人死亡 消火活動の過酷な現実
総務省消防庁によると、おととしまでの5年間の「消防士団員の消火活動中の被害」は、10人死亡、1501人がけがをしています。
【ジャーナリスト・浜田敬子さん】「古い雑居ビルの過酷さが特によくわかりました。まず古いビルなので中階段しかなくて、今回の外への非常口、別の階段がなかった。そして古いビルって中で色々手を加えられているケースもあったりするので、多分入ってみないとどういう構造になっているか分からない。そこに煙が充満してるということで、本当に難しい消火活動だったんだろうなと思います」
死亡した背景の1つにも、この建物の構造問題があるのではないかと指摘されています。
この建物は過去に法令違反が指摘されていたことが明らかになっています。
【ジャーナリスト・浜田敬子さん】「(建物の決まり)を守ることが、結果的に働いてる人や、店のお客さんもそうだし、消防士の命を守ることになるのはすごく重要な指摘だと思います。思ったのは、外に看板があって、それをつたって火が燃え移ったということですよね。つまり看板で窓を塞いでるってことですよね。今回は人が多分いらっしゃらなかったと思うんですけども、塞がれていると窓から逃げようとしても逃げられなかった可能性もあるなというのも感じました」
この火災をめぐっては、21日に事故調査委員会が立ち上がる予定です。
(関西テレビ「newsランナー」8月19日放送)
