今月18日、大阪・ミナミの道頓堀でビルが焼ける火事があり、消火活動にあたっていた消防隊員の森貴志さん(55)、長友光成さん(22)が死亡しました。

また、ほかに消防隊員4人と20代女性がけがをしました。

ビルの内部ではいったい何が起こっていたのか。

19日放送の関西テレビ「旬感LIVEとれたてっ!」では、東京消防庁で署長を務めた坂口隆夫さんに解説してもらいました。

■繁華街ならではの「珍しい火災」 広告板で一気に燃え広がったか

坂口さんはビルが燃えている映像を見た際、「非常に珍しい火災」だと感じたそうです。

【元東京消防庁 麻布消防署長・坂口隆夫さん】「初期の段階でビル全体を覆ってしまうような炎に包まれた火災というのは、非常に珍しい火災だなと思いましたね。これは繁華街のビルの特徴である外壁に『広告板』が設置されてるんですね。それに着火して、一気に広がった可能性があると思います」

【青木源太キャスター】「火災初期の映像を見ると、外壁が燃えているのは分かりました。でも、その時は内部はまだ炎はまわっていない可能性もあったということです」

【元東京消防庁 麻布消防署長・坂口隆夫さん】「そうですね。燃えているのは出火場所である1階部分だけだと思いますね。2階以上はまだ火が入っていないと思います」

坂口さんは火元が「ビル左側の1階部分」ではないかと推測しています。

【元東京消防庁 麻布消防署長・坂口隆夫さん】「かなり変色していますので。映像を見てもこの部分から火が出ているのがよく分かります」

■「連絡通路」で本来起きるはずのない横への延焼が起きたか

また、消防によると、燃えたビルは2棟のように見えますが、4階が連絡通路として繋がっていて、消防法上は”1棟”という扱いになるということです。

【元東京消防庁 麻布消防署長・坂口隆夫さん】「建物の左側が1階から3階まで延焼した。それから、連絡通路を経由して、向かって右側の類焼建物の5・6階に延焼したと言われてるんですね。基本的には耐火構造のビルは『横への延焼』は無いんです。そのようにできてるんですね。しかし、この建物の場合は連絡通路があったから右側の建物に延焼してしまったと思われます」

■延焼危険の少ない場所で2人が殉職した「不可解」な状況

さらに坂口さんは「なぜ消防隊員が逃げ遅れたのかが非常に不可解だ」と指摘します。

【元東京消防庁 麻布消防署長・坂口隆夫さん】「出火建物の上の階に消防隊員が侵入したということであれば、非常に危険性の高い場所ですから、こういう事故が起こり得るということなんですけれども、そうではなくて、(火が出たのが建物の左側と仮定して)類焼した(右側の)建物の6階で、2名の消防隊員が殉職をされた。

これはですね、延焼危険の少ない建物で、殉職が起きたということは何らかの急激な炎だとか火災の拡大があっただとか。

あるいは、大阪の横山市長がお話ししてましたけれども、部分的に崩落事故があった。消防隊員が避難する経路が絶たれてしまう。そういうことが起きたんだろうと考えられます」

【青木源太キャスター】「今回、鉄筋のビルですよね。燃えてしまって崩落が内部で起きるというのはあり得るんでしょうか」

【元東京消防庁 麻布消防署長・坂口隆夫さん】「私はあまり聞いたことがないですね。ただですね、3時間近く延焼していたということで。ビルもそれほど新しいビルではありませんのでね。部分的にはコンクリート等が落下した、そういうことは考えられるかもしれないですね」

■「消防車、はしご車が接近できない道路状況は致命的」と坂口氏

また、今回の火事では、1階部分からホースで放水している様子が確認できましたが、消防車が道路横に停まったり、はしご車が使用される様子は見られませんでした。

これには、道頓堀という繁華街ならではの道路構造が原因ではないかという意見もありました。

【元東京消防庁 麻布消防署長・坂口隆夫さん】「消防車、特にはしご車が接近できないような道路状況というのは、ビル火災にとっては致命的なんですよね。そうすると、地上部分からホースを上の方に放水してるだけなんです。これは外壁に水をかけているだけで、燃えている実体まで水がかかっていないということなんですね」

【青木源太キャスター】「例えばはしご車などで横から放水できる状況であれば、中での活動ももっとしやすいということですか」

【元東京消防庁 麻布消防署長・坂口隆夫さん】「そういうことですね。はしご車で放水ができる状況であれば、消防隊員が危険な屋内進入をしてまで放水する必要はないんですね。今回は接近できなかったということは、活動としては非常にマイナス要因だったなと思います」

【青木源太キャスター】「私も火災現場取材したことありますけれども、こういった現場でやはり逃げ遅れの人がいないかというのを消防隊員の人は必ず確認するじゃないですか。もちろん逃げてる人とか、通報者に話を聞くということもありますけど。最後は消防隊が自分の目で確認して行くということもあるわけですよね」

【元東京消防庁 麻布消防署長・坂口隆夫さん】「そうですね。まず逃げ遅れ情報を取って。いるかもしれないと言うことで、確認作業はやると思いますね」

■「階段が1カ所だと使えなくなると非常に避難が厳しい」と坂口氏

さらに、現場のビルは危険な建物だったことが判明しました。

消防によると、現場のビルは「特定一階段等防火対象物」だということです。

不特定多数の人が利用するにもかかわらず、避難のための階段が屋内に1つのみしかない建物のことを言います。

火災発生時に階段が使えなくなると逃げ場がなく、非常に危険な建物です。

【元東京消防庁 麻布消防署長・坂口隆夫さん】「階段が1カ所ということは避難するルートは階段、消防隊が屋内進入して活動する階段も同じ階段になってしまうということですから、そこで競合してしまうということなんですね。

特に注意しなければいけないのは、利用している方が2方向に避難できないということ。ビルは階段がもし使えなければ、非常に避難が厳しいという状況になってしまうんです。

利用者がもっと多い時間帯だったら、私は人的被害がもっと大きかったのかなと思われます」

■現場のビルは2年前の点検で6つの法令違反

【関西テレビ 神崎博解説デスク】「実はこのビルが2年前の消防の点検によって、法令違反が6つ指摘されていたんですけども、そこでわずかしか改善されてなかった。いわゆる違法状態、法令違反の状態がずっと続いてたと。今後これは追及されるべきだと思います」

今日=19日も現場では現場検証が続いているということです。

火災の出火原因の検証だけでなく、なぜ消防隊員2人が尊い命を落とすことになったのかという検証も求められます。

(関西テレビ「旬感LIVE とれたてっ!」8月19日放送)

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