別の国から入り込んだ生物である外来種。
中でも「地球上最悪」との異名を持つ水草が、猛威を振るっています。
その脅威と私たちの生活への影響を取材しました。
■外来植物の侵略
川の真ん中に密集する水草。
一見、涼しげに見えますが実は、この草…。
【ナガエツルノゲイトウの専門家 丸井英幹さん】「世界最悪の外来植物。もうめちゃくちゃ増えてます」
驚異的な繁殖力から付いた異名は「地球上最悪の侵略的植物」。
さらに侵略は世界遺産にも!日本の生態系に一体何が起きているのか―。
■南米原産の外来種「ナガエツルノゲイトウ」 驚異的な繁殖力
兵庫県の加古川で見つかった水草、「ナガエツルノゲイトウ」。
南アメリカ原産の外来種で、生態系に悪影響を及ぼすことから「特定外来生物」に指定されています。
【ナガエツルノゲイトウの専門家 丸井英幹さん】「全面を覆ってしまうので、小さな植物が覆われて消えてしまう。これ一色の世界になる」
駆除の方法の研究する丸井さんによると、加古川では2009年から確認されていて近年、爆発的に増加。
2年前には水門に絡まり、緊急で取り除く必要に迫られたこともありました。
【ナガエツルノゲイトウの専門家 丸井英幹さん】「ナガエツルノゲイトウが引っかかると、ゲートの操作ができなくなる。水位の調整ができなくなる」
特に脅威なのが、その「繁殖力」。
(Q.下流に向かって生息域を増やす?)
【ナガエツルノゲイトウの専門家 丸井英幹さん】「そうです。海へ行っても枯れない。海水で枯れないというのは、普通(淡水に生える)植物では考えられない」
茎の一部が残っていれば増殖するというタフさから、「地球上最悪の侵略的植物」と呼ばれているのです。
この植物、1989年に兵庫県尼崎市で、国内最初の定着を確認。
おととし2月時点で、全国25都道府県にまで広がりをみせていて、自治体も対策に乗り出しています。
■3年前から対策するも根絶に至らず 恐るべき生命力
関西テレビでは3年前に対策をとる農家を取材していました。
【記者リポート(2022年)】「見てください。池の中の一角だけ、明らかに異常な量の水草が生えているのがわかります」
淡路島の洲本市にある池に、一面広がっているナガエツルノゲイトウ。定期的な駆除では追いつかず、30人がかりで3日間かけた大規模な駆除作戦を決行。
さらに光合成をさせないために、光を100%遮断できるシートを設置して、成育を阻害する対策もとっていました。
3年たって効果はあったのか、再び訪れてみると…。
【淡路米山ため池保全ネットワーク 岡本賢三さん】「雨水とか流れてくるんですけど、ちょうどそのあたりに1本。シートの上の土嚢からも1本。2本見つかった」
恐るべきその生命力!“侵略的植物”は3年たっても根絶に至らず、生き残っていました。
【淡路米山ため池保全ネットワーク 岡本賢三さん】「やっぱりなかなか長い戦いですね。来年こそは収束宣言をしたいです」
■「米が取れない」川一面に広がる“侵略的植物”
その脅威は我々の食生活にも迫っています。
加古川に流れ込む「西川」沿いで農家を営む男性が、「もしや」と思って撮った写真には川のほとんどを覆うほど植物が生い茂る様子が写っていました。
【加古川市の米農家 弓削弘さん】「農林水産課が『ぷかぷか浮いているのがそうや』と(言ってた)」
(Q.もしかしたらナガエツルノゲイトウじゃないかと?)
【加古川市の米農家 弓削弘さん】「うん、うん」
実際に丸井さんに確認してもらうと…。
【ナガエツルノゲイトウの専門家 丸井英幹さん】「ほぼ全て、ナガエツルノゲイトウです」
川一面に広がる“侵略的植物”の姿。
川から水を引く田んぼへの侵入を心配する男性。指摘されたその危険性は…。
【ナガエツルノゲイトウの専門家 丸井英幹さん】「栄養をナガエに取られる。稲とナガエが競争するとナガエが勝つので、最悪、稲を倒しますから、収穫ができなくなる」
さらに駆除するには、稲作を一度ストップさせる必要があります。
【加古川市の米農家 弓削弘さん】「(侵略されると)米が取れないということやから、結局、放棄田みたいになってしまうのちゃう。みんな高齢なので、『もうやめじゃ』となってしまう」
■根本から掘り起こせず 駆除できない世界遺産の制約
観光客にも人気の世界遺産「姫路城」。
戦国時代には「難攻不落」と称されましたが、ここにも外来植物による侵略が…。
【姫路市観光経済局 上田博之さん】「一本ありました。頭出てますね」
【記者】「ヤシの木みたいな形で」
【姫路市観光経済局 上田博之さん】「はい」
扇状に拡がった葉が特徴の、この植物は「シュロ」。
中国を原産とする外来植物で、ナガエツルノゲイトウのような危険性はありませんが…。
【記者リポート】「これもじゃないですか。姫路城の目の前、植木の中に外来植物シュロが生えています」
風で種子が運ばれたのか、植木の間からもひょっこり。
また、在来種と競合するセイヨウタンポポやニワウルシなどが確認されたこともありました。
これらは放置すると、枝が屋根を傷つけるほか、根っこが石垣に入り込んで、内側から損傷させるリスクなどがあり、姫路市は伐採を試みていますが、世界遺産ならではの制約も…。
【姫路市観光経済局 上田博之さん】「ここは史跡地ですので、根元から掘り起こすことできませんので、切っても根元が残ってしまうということで、そこから成長しますので。一進一退を繰り返すしかない」
■1000種類以上の外来植物が野生化
対策が難しい外来植物は、どれくらい日本で増えているのか。
植物園を取材すると…。
【姫路市立手柄山温室植物園 朝井健史副園長】「やはり増えてると思いますね。(外来種は)性質が強いものが多いので、従来日本の植物っていうのはやっぱりちょっと性質が弱い。要は弱肉強食なので」
園によると、日本では1000種類以上の外来植物が野生化していて、四葉のクローバーでおなじみシロツメクサもヨーロッパ原産の外来種です。
【姫路市立手柄山温室植物園 朝井健史副園長】「皆さんの意識をやはり高めていただいて、日本の在来植物を守っていくことが、良い生態環境であるといえる」
侵略する外来植物に対して、私たちができることはあるのでしょうか。
■「見つけた場合は自治体に連絡を」持ち去ると違法に
甲南大学の今井博之教授によりますと、「まずは早期の繁殖防止対策がキモ」ということです。「ナガエツルノゲイトウなどの特定外来生物は、持ち去ると”外来生物法”違反になります。見つけた場合は、自治体に連絡を」と言います。
兵庫県では通報用の専用フォームもあるということです。
大阪で知事、市長経験のある橋下徹さんは「知事、市長時代、全く頭にすらなかった。もちろん現場の職員の皆さん、一生懸命対応してたと思うんですけども。大阪の行政やる時に、外来植物の対策は考えてなかったですね。でもこれ早期に食い止めないと、あっという間に広がってしまうんだよね」
稲作を止めなければならない場合については、「それをストップさせると、やっぱり補償問題とかそういうことにもなるから、行政としては、恐らくできるところからやっていくというスタンスになってしまう」と話しました。
(関西テレビ「newsランナー」2025年8月13日放送)