TSSライクでは、被爆80年の8月6日を前に、「つたえるつなげる」をテーマに特集をお伝えしています。
3日、上演された原爆投下後のヒロシマを描いた舞台。そこには、広島の人々が葛藤を抱えつつ「8月6日」と向き合う姿がありました。
【プロデューサー・源秋策さん】
「ゆっくりでいいから原爆ドームに向かってゆっくり歩いてもらっていい」
今年4月、その舞台はすでに動き出していました。
【源秋策さん】
「原爆ドームの存在感を(ポスターで)出しすぎるのはやりたくない。原爆の舞台しますよっていうのを誇張しすぎているのかな…」
平和公園で撮影していたのは「8月6日」をテーマにした舞台のポスターです。
「めっちゃいいね。めっちゃいいかも」
舞台の題材は原爆投下後、放射能の体への影響に不安を感じながら復興にもがく人々を描いた漫画です。
オーディションを経て決まったキャストのほとんどは広島出身です。
主人公の姉を演じるのは浅枝由紀さん、28歳。
プロとして活躍する俳優が名を連ねる中、浅枝さんは広島市内の小学校で教壇に立つ現役の先生です。
舞台は初挑戦。原爆症で亡くなる女学生を演じ、歌のソロパートもある重要な役どころです。
広島で生まれ育った人たちの手で被爆地「ヒロシマ」を描きたい。
演じるにはこれまで見聞きしてきた被爆者の思いを背負う覚悟が求められます。
【出演者】
「幼少期から平和学習だったり戦争の学習をしているうちにやっぱり「慣れ」って出てきてしまうんですよ。中学生になるとまわりの友達も「だるいな」とか「何回もやっとるけ」みたいなのがあるのが怖いなって思って」
【出演者】
「人の意識が薄くなってきている中、この舞台の重要性を考えた時に(舞台に)出てもいいのかな今でも怖い気持ちがある」
この日、キャストたちの姿は原爆資料館にありました。
この街で暮らし被爆者となった人たちを演じるため8月6日に起きたことだけでなくその思いに、向き合います。
【浅枝さん】
「私も先生なので(先生たちは)子供を助けてあげたかっただろうなと想像して、すごく苦しい気持ちになりました。原爆が落とされて悲しかっただけじゃなくて、そのあと希望をいただいて、明るい未来にがんばっていく人の姿も残していきたいし、(舞台で)見ていただきたいとすごく思います」
失われた多くの命。
そして、希望を失わなかった被爆者たちの思いを胸に自分たちだからこそできる「継承」の形を目指します。
「じゃーん!」
待ちに待ったポスターが完成しました。
530席のチケットも完売。
期待感の高まりとともに本番に向け稽古に熱が入ります。
被爆者の怒り・悲しみを背負い、表現する苦しさ。
キャスト一人ひとりがそれを乗り越え舞台を作り上げていきます。
本番当日。
初めての舞台がまもなく幕をあけます。
【浅枝由紀さん】
「思いっきり笑顔で頑張ります」
原爆で、大切な人や日常を失いながらも懸命に生き抜いてきた人々がいます。
「原爆を落とした人は私を見て『やった、また一人殺せた』とちゃんと思ってくれてる?」
「みなみ、みなみ!」
【浅枝由紀さん】
「難しいテーマだったんですけど、役になりきって「伝える」ことの大切さはみなさんに伝わったと思う。広島の人だからこそ伝えられる熱があるんじゃないかと思います」