2020年11月3日に迫ったアメリカ大統領選挙。FNNプライムオンライン編集部では、専門家が現地の情勢を本音で語り合うオンラインイベント『ガチトーク』を6週連続で開催中。

9月30日(水)に開催された第1回では、前日に行われたトランプ氏とバイデン氏による討論会の内容を受け、アメリカ政治・外交、国際政治を専門とする慶應義塾大学総合政策学部の中山俊宏教授とフジテレビ報道局の風間晋解説委員の2人がガチトークを展開。その内容をお届けしたい。

アメリカが負けてしまった

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フジテレビ・風間晋解説委員:
トランプ氏VSバイデン氏の討論会が行われた後、米CBSニュースと英YouGovがアンケートを行いました。結果は次のとおりです。

「バイデン氏が勝ったと思った人」48%
「トランプ大統領が勝ったと思った人」41%
「引き分け」10%

あくまでも、リベラルメディアの一つとしてのCBSの調査ですが、中山先生は討論会をご覧になって、どのような受け止め方をされましたか?

慶應義塾大学・中山俊宏教授:
どちらが勝ったかという表現はふさわしくないディベートでしたよね。もともとアメリカの大統領選挙は、政策的に詰めて、きちっとした議論をするわけではないですけれども、それにしても、今回はひどかったと思います。

私の個人的な感想は、「トランプが勝った」「バイデンが勝った」というものではなく、「アメリカが負けてしまった」という感じでした。ディベート一つまともにできないという印象を世界に与えてしまったのではないでしょうか。

風間:
私が思ったのは、トランプ氏は支持率では後ろを走っていますから、ここで挽回して「やっぱりバイデンには任せられないな」というイメージを持たせるのが基本戦略だろうと。

でも、トランプ氏には決定打が出ませんでした。一方で、バイデン氏は最後までファイティングポーズを取り続けていました。そういう意味で、バイデン氏の勝ちかなと思いました。

選択の大きさを考えると楽しめない

風間:
ディベートの間に、中山先生は、Twitterでツイートをされていました。「バイデン、つい『Shut up man』と呟く。」「ハンター・バイデン攻撃がきた」などとツイートされていて、ディベートを楽しまれているなと思ったのですが、いかがでしょうか。

中山:
いやいや、全然楽しくないですよ(笑)。とても楽しむ気分にはなれませんでした。

前回の2016年は、たまたまトランプ大統領が勝ったという面もあるじゃないですか。でも今回は4年間のトランプ大統領を経験した上で再選となると、それは「アメリカの自画像」、アメリカが国際社会からどう見られるかという点で、すごく大きな変化だと思います。その選択の大きさを考えると、まったく楽しめません。

もし仕事でなければ「最終的な結果を見ればいいや」という気持ちになってしまいそうです。自分自身を盛り上げるために、連続ツイートをしていたわけです。

風間:
なるほど。さきほどのCBSニュースとYouGovが行った同じアンケート調査の中で、「討論会を見ていて、どう思いましたか?」という設問もありました。結果は、次の通りです。

「腹が立った」69%
「おもしろかった」「エンタテイメントだった」31%
「悲観的になった」19%
「役に立った」17%

こちらに関してはいかがですか?

中山:
トランプ氏もバイデン氏も新しいことを言ったわけではなく、今回のディベートを通じて、何かを新しく知ったということはありませんでした。討論会が終わった直後の直感的な感想でいうと、特に大きく構図は変わっていない、何も動かなかったなという感じがします。

今回は乗り切ったバイデン氏

風間:
中山先生のツイートで「バイデンは見ていてドキドキする」と書かれているのが気になりました。そのドキドキする理由は、どのようなものですか。

中山:
「いつエンストするかわからない車に乗っている感じ」というツイートですね。

バイデン氏は年齢的に弱ってきています、認知能力や反射神経など、あらゆる点においてです。やはり若いころのバイデン氏と比べると、明らかに切れ味が悪くなっています。話していても、どこかでつかえてしまうのではないか、自分が置かれている状況がふと分からなくなってしまうのではないかと心配になります。

結果として、今日はそういう大事故はなかったのですが、見ている側はずっとハラハラドキドキしながら見ていたと思います。

風間:
中山先生がツイートされていた「あと5分強」。あと5分、大丈夫かな?というこの感覚は、私も時々時計を見ながら、同じように感じていました。

司会者のクリス・ウォレス氏に助けられたバイデン氏

風間:
バイデン氏は司会者のクリス・ウォレス氏に助けられたと思うのですが、いかがでしょうか?

中山:
そう思います。クリス・ウォレス氏は、FOXのキャスターで、FOXはトランプ氏に近いメディアです。トランプ氏としては、数多くいる司会者の中では、やりやすい方だと思っていたでしょう。

しかし、トランプ大統領は途中から歯止めが利かなくなり、バイデン氏の発言にどんどんかぶせてくる状況がありました。クリス・ウォレス氏はしつこいくらいに止めて、バイデン氏は精神的な余裕みたいなものが出てきました。ウォレス氏は民主党員なんです。それは露骨に出ないようにはしていましたが。

風間:
ウォレス氏は、やはりニュートラルにやろうとしていた部分はあると思います。ニュートラルであろうとすることが、トランプ大統領の割り込みを止めたり、軌道修正をしたり、結果的にトランプ大統領のペースではなく、バイデン氏に余裕をもたせたと思います。

中山:
やはりトランプ大統領は“規格外”な人ですから、大統領がやりたいことを、そのままやらせてしまうと、大変なことになってしまいます。ニュートラルにやろうとすると、トランプ大統領のほうに介入せざるを得なくなります。トランプ陣営は、「なんだ、クリス・ウォレスはバイデン陣営の味方をして」と思ったのではないでしょうか。

視線の戦略

風間:
もう一つ、先生のツイートで、二人の視線がどこにあったか、そこに戦略の違いがあるというご指摘がありました。

中山:
たぶんトランプ氏はディベートに自信があり、緻密な組み立てはしていないと思います。事前の予行演習もそれほどやっていないようでした。

それに対してバイデン氏は、かなり綿密に、どうしたらトランプ・ワールドに引き込まれないかということを計算したと思います。そこでバイデン陣営が考えたのが、とにかくトランプ氏が居ないかのように振る舞うということです。ディベート中は、ほとんどトランプ大統領のほうを見ていなかったですよね。クリス・ウォレス氏に向かって話していました。

風間:
バイデン氏は、新型コロナにより選挙キャンペーン中に外を飛び回ることがほとんどなかった分、討論会の戦略をきっちり練ることができ、ラッキーだったかもしれないですね。

風間:
さて、まとめに入りますが、本日第1回の討論会が終わりました。大統領候補の討論会はあと2回残っています。2人の今後の戦略はどのようになるのでしょうか。

中山:
今はバイデン氏が数字的には少し有利です。ですので、どうなるとバイデン氏の数字が落ちるのかを考えてみます。ポイントは「コロナ」「人種問題」「バイデン氏のパフォーマンス」の3点です。

コロナをめぐる状況について、トランプ氏はそれほど悪い状況ではないという方向に持って行こうとします。それから、ブラック・ライブス・マターをはじめとする人種問題の動きにも注目する必要があります。この動きが急進化すると、トランプ氏は「法と秩序」を脅かすという形で、問題を意味づけるでしょう。そして、あと2回のディベートでバイデン氏に「この人は年齢的に無理だろう」と思わせるパフォーマンスが出てしまうかどうか。

3つのうち1つであれば、インパクトは少ないかもしれません。ただこの3つが同時に来ると、バイデン氏にとっては結構厳しいのかなと思います。

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第1回「アメリカ大統領選2020 ガチトーク」 中山俊宏VS風間晋

プライムオンライン編集部
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