滋賀県の病院で入院患者が死亡したことを巡る冤罪事件。
服役後に無罪が確定した女性が国と滋賀県を訴えた裁判で、大津地方裁判所は県に対しおよそ3100万円の賠償を命じた一方、国に対する訴えは退けた。
冤罪事件で無罪になった西山美香さん(45):県側に勝てたことは嬉しいですけど、国側が認めてくれなかったことは、やっぱり国に勝つのは難しいのかなという気持ちになりました。
無罪判決から5年、会見で悔しい思いを語った。

■入院患者「殺害」自白は「刑事に好意持ちうそ」有罪確定し12年服役
滋賀県の湖東記念病院の看護助手だった西山美香さん(45)。
2003年、入院患者の人工呼吸器のチューブを外して殺害したとして、逮捕・起訴された。
当時の逮捕の決め手は西山さんの“自白”でした。
西山美香さん(2017年取材):(患者が)亡くなった時の写真を机に並べられて、『これを見て何も思わないのか、責任を感じないのか』と。この人(刑事)のいうことを聞いておかないと痛い目に合うからと思って自白した。
取り調べが続く中で刑事に好意を抱いてしまったという西山さんは、うその自白をしてしまい、殺人の罪で実刑判決を受け、12年間服役した。

■やり直しの裁判で無罪判決 その後確定
しかし西山さんが冤罪を訴えて、裁判はやり直しへ。
やり直しの裁判で大津地裁は、西山さんに軽度の知的障害などがあることに加え、取り調べに迎合しやすい傾向があると指摘。
滋賀県警が西山さんからうその自白を引き出したことを認定し、無罪判決を言い渡し、その後、確定した。

■国と滋賀県に約5500万円の損害賠償求め提訴
無罪確定を受け、西山さんは国と滋賀県におよそ5500万円の損害賠償を求め提訴。
これまでの民事裁判で弁護団は、滋賀県警が見立てに沿った調書を作成したり、検察に患者が病死した可能性に関する捜査資料を送らず、事実上「隠ぺい」したりしたと主張。
一方で県側は、西山さんに対する取り調べに違法性はなく、国側も捜査に問題はなかったとして、いずれも訴えを棄却するよう求めていた。

■「警察官が不当な誘導および働きかけ」捜査の違法性認めるも国側の責任認めず
きょう=17日のの判決で大津地裁は、「警察官が不当な誘導および働きかけをして原告に虚偽自白をさせこれを維持させた」などとして警察の捜査の違法性を認めた。
また、「滋賀県警が痰のつまりによって患者が死亡した可能性があるとした捜査資料を検察に送っていれば、判決が変わっていた可能性がある」などとし、滋賀県におよそ3100万円の賠償を命じた。
一方で、国側の責任については、検察の捜査の違法性を認めず、西山さん側の訴えを退けた。

■判決受け西山さん「控訴して最後まで戦い続けたい」
判決を受け、記者会見で西山さんは次のように述べた。
西山美香さん(45):不当な取り調べが違法だったと言ってくれたことに対してはすごくうれしかったです。あとは国も起訴した違法性とかもあるのに、認められなかったことに対しては、すごく悔しい。でも、控訴すると決めたので、控訴して最後まで戦い続けたいと思っています。
西山さんの代理人弁護士:結論として県の違法のほとんどを認めたことと、かなりの金額を認めたことは評価しますけれども、全く納得しがたい、承服しがたい点がいくつもあるので。国に対しては控訴する。
一方、判決を受け滋賀県の三日月(みかづき)知事は、「判決の内容を精査した上で今後の対応を検討したい」とコメントしている。

■菊地弁護士「検察が自白の変遷に疑問なぜ持たなかったか 踏み込んでほしかった」
警察の捜査の違法性を認め、滋賀県に対する賠償は命じる一方、検察の捜査の違法性は認めなかった今回の判決について、菊地幸夫弁護士は次のように述べた。
菊地幸夫弁護士:問題は検察、つまり国なんですけども、検察の捜査っていうのは、警察の捜査がこれが基本で行われて、通常は、それのまとめ的な捜査をやるんですね。だから、警察の捜査に対して、指導したり、指揮したりと。
菊地幸夫弁護士:だから、『警察が違法・不当な捜査をやっていることを見抜けなかった』っていうような責任の取り方が多いんですね。だから当然、『直接やった警察』と『見抜けなかった検察』っていうことで、『見抜けなかった方』の責任を問う方が、ハードルが高くなるんです。
菊地幸夫弁護士:でも無罪になった再審(=やり直しの裁判)、これの開始決定をした大阪高裁は、この事件は相当、自白が変遷していて、『認める』『認めない』『認める』『認めない』と。
菊地幸夫弁護士:そういうのを『ちょっと不自然でしょう』っていうな指摘もされているんで、そういう証拠が揃っているこの事件を起訴する時点で、『これはちょっと問題があるんじゃないかな』、と疑問をなぜ持たなかったんだという点に、今日の判決はもっと切り込んで欲しかったなと思います。
(関西テレビ「newsランナー」2025年7月17日)
