2020年7月の豪雨災害からの復興を見つめる、中原丈雄さん主演の映画『囁きの河』の全国公開が11日に始まりました。映画解説・研究者の上妻 祥浩さんに映画の見どころを聞きました。
『囁きの河』。2020年7月の豪雨で球磨川が氾濫し、甚大な被害が出た人吉球磨地域。22年ぶりに戻った男が失われた過去と現実に向き合う物語です。球磨川とともに生きる人たちの思いや日々の営みが静かに、穏やかに描かれます。
人吉市と熊本市では先行上映が行われ、多くの人たちが全国公開に先がけて鑑賞しました。
【熊本先行上映会の来場者】
「人間の苦労とかがじっくり描かれていて、結末が予想と違ったので、びっくりしました」
「応援したいです。この映画を広めたいと思いました」
【映画解説・研究者 上妻 祥浩さん】
「中原丈雄さん演じる主人公が22年ぶりに地元に帰ってきたら、地元は本当あの水害でひどいことになっていて、久しぶりに近所の人とか旧友とかに会うと、それぞれに被災して大変な状態になっている。ある人たちは農業をやっている。ある人は温泉旅館を経営している。息子は球磨川下りの船頭見習いをしている。人吉球磨の特色、名物みたいなものを絡ませて、それぞれ努力している。私も熊本地震で被災した経験があるので、見ていて思うのは、被災したことで親しい人たちと仲がちょっとおかしくなったり、メンタル部分での〈被災〉みたいなものも味わっている。でも、それを乗り越えつつ、やっぱり前を向いていかなきゃならないというのがすごく描かれていて。復興というのは本当に難しくて、先が見えない。その〈先が見えない感〉がすごく出てるのが、やっぱりこうズシッとくるんです。〈被災した人たち自身の再生が被災地の復興につながっているんだ〉ということを見ていて感じるストーリーになっていたと思います。いわゆる人吉球磨の観光名所とかは全然出さずに、街並みとか球磨川とかの自然な風景をポンポンポンと、それがまた絵になっていて、風景の捉え方がすごくいいなと思います。人吉球磨の魅力がきちんと捉えられていて、なおかつ抱えている復興への問題もきちんと描かれているというところがやっぱりうまいなと思います。こういう災害がらみだと災害のシーンが入ったりするんですけど、そういうのが全然なくて、こんなひどいことがあったというのを見るお客さんに想像させる演出も素晴らしいなと思いました。〈見る人に考えさせる〉こういう演出の力と役者の力でいかに水害がひどかったかを見る人たちに想像させる持っていき方が、やっぱりいいなと」
【映画のセリフ】
「また一つ、居場所がなくなっちゃった」
映画中原さん演じる主人公をはじめ登場人物たちは多くを語らず、その一方で、映画では球磨川の音が強調されています。
【映画解説・研究者 上妻 祥浩さん】
「やっぱり映画館で映画を見る時って、アクション物は大音響というのもあるんですけど、こういう映画みたいに、自然の音とか静けさを劇場の中で感じるという感じ方もあると思うんです。せせらぎの心地良さというか、まさに囁きかけているんだろうなと。あの音に包まれるという感じ方は劇場じゃないと多分できないと思うので。あの音を聴きに行くだけでも、すごく価値がある映画になっていると思います。これは本当に映画館でご覧になるべき映画だと思います。災害のひどさや、そこから復興していくことの難しさを淡々と描いている映画だと思うんです。被災体験された方にも心に響くと思うんですけれども、そういう体験がない方もご覧になって、いろいろ考えさせられる。〈ああ、なるほど〉というところがある映画に仕上がっていると思います」
【映画のセリフ】
「居場所ば失くしたら、自分で取り戻すしかなか。それしかなかよ」
映画『囁きの河』は7月11日に全国公開されました。熊本県内では、熊本市西区の熊本ピカデリーと嘉島町のイオンシネマ熊本で上映中です。