フジ・メディア・ホールディングスの株主総会で新たな取締役11人が選任されました。
企業のコンプライアンスに詳しい、中央大学法科大学院の野村修也教授と見ていきます。
青井実キャスター:
フジテレビは当事者でもありますから、野村さんには中立的な立場から見ていただきたいと思います。
25日の株主総会で最大の焦点になっていたといえるのが、取締役候補の選任という部分。
フジ・メディア・ホールディングスが11人、ダルトン・インベストメンツ側が12人提案をしていました。
そして今回、議決権がある株主は5万6215人です。
取締役を選ぶ採決は過半数の賛成を得られれば選任されます。
なお、取締役の定員は最大18人となっています。
そして今回の株主総会での議決の結果、新たな取締役に選任されたのが11人の面々です。
フジ側が提案した取締役候補11人、清水賢治社長のほか、元ファミリーマート社長の澤田貴司氏など社外取締役が過半数を占めていますが、11人全員選任される結果となりました。
一方でダルトン側は、SBIホールディングスの北尾吉孝会長兼社長など12人の取締役候補を提案していましたが、過半数を獲得せず否決されました。
青井実キャスター:
野村さんに伺います、まず率直にこの結果はどう見ましたか?
中央大学法科大学院教授・野村修也氏:
株主総会というのはほとんどの場合、会社提案が通るというのが一般的な形になっています。なぜかといいますと、実は欠席されている株主が圧倒的多数なんです。この方々に対して招集通知を出す際に、議決権行使書といって、書面であらかじめ投票するいわゆる“不在者投票”みたいなことができることになっているんです。この結果が、ほとんど会社提案に賛成してくるのが一般的傾向なので、株主総会当日にそれがひっくり返るのはめったにないという状況ではあります。ある程度、予想された結果なのかなと思います。
株主の割合を見ていきます。
東宝8.83%、ダルトン系7.19%、野村絢氏5.78%、レオス5.12%、文化放送3.70%、NTTドコモ3.66%、関西テレビ2.92%、個人株主など29.4%、ほか33.4%。
青井実キャスター:
大株主がどう動くのか注目を集めていたわけですが、結果はどう分析したらいいですか?
中央大学法科大学院教授・野村修也氏:
今回、提案をされている株主の方々は、どちらかというと短期的な利益を追求するタイプの会社。ダルトンというのはそういう会社なんですね。それに対して、他に大株主の中には長期的に会社を支援していこうと考えている株主がいるわけです。ここは実は同じ株主でも求めているものが若干違うわけです。どちらかといいますと、長期的な利益を追求する側は、安定した会社経営や改革が見えるような体制を求めているという部分があって、今回は会社提案の方がそういう方々の心を捉えることになったのではないかという気がします。
青井実キャスター:
同じ考え方だったら連携する可能性もあるけれども今回はとらなかったと。
中央大学法科大学院教授・野村修也氏:
他の投資家の中に連携はあまり見られなかったので、むしろ会社提案の長期的な視点が支持されたということかなと思います。
青井実キャスター:
パックンはこの結果をどうみますか?
SPキャスター パトリック・ハーラン氏(パックン):
野村先生がおっしゃった制度的な有利も会社側にあったかもしれませんけど、大株主とか機関投資家はしっかり内容を見て投票していると思います。今回は普通の取締役を選ぶ時の選挙とはちょっと違って、普通はそれぞれの方々の経歴とか考え方を精査して誰に入れるのか考えると思うんですけど、今回は、ダルトンチーム対フジテレビチームという個人戦ではなくてチーム戦のような構造になっていると思いますね。人数も似ているし、ダルトン社に入れるならフジテレビをのっとるみたいな、そういうイメージを持っている方が多いと思います。ダルトン側には優秀なプレーヤーがいっぱいいらっしゃいます、北尾さんをはじめ。でもプレーヤーではなくチーム、どっちを選ぶのかというふうに多分票が動いたんじゃないかと思います。
そして、「人事」以外の株主総会のポイントでいうと、例えば、企業のガバナンスやフジ・メディア・ホールディングス側は“都市開発”と表現しているいわゆる“不動産事業”の扱いというものがありました。
これについて清水社長は株主総会で、「人権尊重を経営の中心に置く揺るぎない企業文化の構築に取り組む」と強調しました。
一方ダルトン側は、フジテレビ経営陣を外部から招へいするなどしガバナンス改革を行うことを主張していました。
また、不動産事業を巡っては、会社側は「コンテンツ事業は不動産があるから伸びていないというわけではない。両方を伸ばしていきたい」として分離しないとしている一方で、ダルトン側は「放送事業と不動産事業の分離」を主張していたわけです。
企業の危機管理に詳しい桜美林大学の西山守准教授は今回の結果について、「ダルトンの提案は1~2人選任されるかと予想していたがフジ側が株主総会は乗り切った感じ」「ただ、今後も安泰ではない。コンプライアンスのアピールをしていくことは必要」と話をしていました。
青井実キャスター:
野村さん、会社側の方針が株主から評価されたことはどのように見たらいいでしょうか?
中央大学法科大学院教授・野村修也氏:
普通は会社が旧態依然とした提案をしているのに対して、改革を求める投資家の側から「社外の声をたくさん取り入れろ」というのが出てくるのが一般的な構図なんです。しかし今回は、きっかけが不祥事もあったこともあって、会社側がガバナンスについて新しい方針を出しているんですね。これが若返りであるとか多様性であるとか、あるいは社外の目というところも先んじて取り入れてしまっていたところが、ある意味では株主の方の共感を得た部分があったんだと思います。ただ問題は、ガバナンスというのは手段なんですね、どういう経営をしていくのかについて本当に株主の方々とコミュニケーションがとれたのかどうかというのは、これからのポイントになると思います。
25日の株主総会は午前10時から始まり、約4時間半にわたって行われました。株主からは全部で55の質問や動議がありました。
詳しく見ていきます。
「一連の問題や改革について」が10問、「取締役候補の選任」が4問、「今後の企業の在り方」についてが10問、「今後のコンテンツ戦略」が7問、「日枝氏について」が3問、「社員のオンラインカジノ問題に関して」が1問、「その他に関して」が20問、合わせて55の質問・動議があったということです。
さらに、ドラマやアニメなどコンテンツを巡るフジテレビの今後の戦略についても質問が挙がりました。
青井実キャスター:
野村さん、こういった質問内容を見るとどんなことが分かりますか?
中央大学法科大学院教授・野村修也氏:
大きく分けて2つに分かれていると思うんです。今回の件など若干後ろ向きな、これまで起こったことに対する質問というのと、前向きにこれからどうやって稼いでいくんですかという質問に分かれています。どちらかというと株主側の関心は、今後の企業の在り方、それから今後のビジネスの在り方ですね。特に不動産事業部門をどうしていくのかということへの関心が高かったと思います。ガバナンスも将来的に向けて、新しいビジネスを支える体制になっているかという関心が多かった感じがします。
青井実キャスター:
パックンは総会の中で注目したことはどういったところですか?
SPキャスター パトリック・ハーラン氏(パックン):
今、野村先生のお話にもありましたけど、これからをどうするのか。ここまでは様々な問題が起きました。最近だとオンラインカジノ問題まだ続いているところもあります。改革も道半ばなところもあります。しかし、走っている車が壊れた、今、直してきたところで、これからはどこに向けて走らせるのかという、今後の戦略がやっぱりみんな気になってると思うんです。ダルトン案よりフジテレビ案になったということは、メディアカンパニーとして考えていきますけど新しいメディアの環境の中でどう戦っていくのかとか、やっぱり株主も、多分視聴者の皆様も気になっていると思います。
青井実キャスター:
野村さん、今後の焦点ですが、どんなことに注目されていますか?
中央大学法科大学院教授・野村修也氏:
やはり新しいビジネスをやるうえで、たくさん持っている不動産をどうやって生かしていくのかについて、切り離すのか、どうするのか、ここは非常に重要な論点だと思います。さらには、テレビメディアそのものが、全体的にビジネスとして今後どうしていくのかが見えなくなってきているところがあると思います。これに対する新しいビジネスモデルを出すことができるのかどうか。さらには、堀江さんが今日質問されていたと思うんですが、今、持ち株会社の形態をとっています。この持ち株会社の形態のままでいいのかどうか。これが新しいビジネスの足かせになっていないかどうかも今後争点になってくる可能性はあるかなという気がします。