雪を夏まで残して天然の冷蔵庫「雪室」として活用したいと、大学と企業がタッグを組み大野市で実証実験を行っています。開発しているのは雪を効率よく保存する「ゆきむろシート」。その効果を取材しました。
「はーい、みんな!雪だるま作る人いる?みんなで丸めてー」
最高気温が29.4度を記録した6月7日の大野市。環境に関するイベントが開かれ、子供たちが冷たい雪に触れて楽しむ姿がありました。
この雪を保存してきたのは、福井大学カーボンニュートラル推進本部と産業用包装資材メーカーの酒井化学工業です。
雪を効率よく保存するための実証実験が始まったのは、深い雪に包まれていた2025年2月。大野市阪谷地区で、福井大学と酒井化学工業が共同で「大野名水ゆきむろプロジェクト」をスタートさせました。
福井大学では、屋外で雪を貯蔵するためのシートを2024年から開発していましたが、様々な課題に直面していました。そこで、建設用の遮熱シートを長年手掛けている酒井化学工業に共同開発を呼びかけました。
福井大学の寺崎准教授は「今回は雪を7月にある阪谷の夏祭りまで残すという実験。シートを厚くして雪を残せば残そうとするほど、重くて扱いにくくコストもかかるので、安くて手軽で扱いやすい膜材を開発している」と話します。
研究者や社員らが、小分けになったシートを広げて三角形の突起を組み立てています。シートをマジックテープで止めると1枚の大きなシートになり、「ゆきむろシート」の層が出来上がります。
ゆきむろシートは、雪の上にアルミシートと気泡シートを組み合わせた遮熱効果で雪の冷気を保てるだけでなく、遮光シートで太陽光を反射します。そのシートの間にある三角形のスペーサーが空気層をつくり、断熱効果を高めるという仕組みです。
このゆきむろシートは現在、特許を出願中です。
酒井化学の佐野さんは「今回、遮熱層と断熱層という2つの機能を持ったシートになっていて、空気層をどれだけ設けるかで断熱性能が変わってくる。なるべく分厚く、でも収納時は省スペースという相反する機能を兼ね備えたものになっている」と胸を張ります。
200トンの雪山にシートを順番にかぶせていくのですが、2024年は重機を使っての作業でした。しかし2025年は、メンバーが手で引っ張りながらかぶせることができました。“重くて扱いにくい”というシートの課題を解決したのです。
それから3カ月以上が経った6月、80トンの雪山にかぶせたシートを外していくと―
雪山は3割ほどに小さくなっていたものの、しっかりと雪が残っていました。
この雪を市民にも楽しんでもらおうと運び込んだのが「おおの環境フェア」でした。雪の塊を入れたテントを2つ用意し、片方のテントをゆきむろシートで覆いました。どちらのテントが涼しいか比べてもらおうというものです。
保冷シートに入った人は「涼しい!気持ちいい!」と思わず声を上げます。通常のテントの中は、28.5度ありましたが、ゆきむろシートのテントの中は23度でした。
酒井化学の松田さんは「人間が体感できる温度で違いが出るということは、やはり効果があるんだと思った。我々の遮熱シートは、今まで建築資材として売られていたが、今後はコンクリート養生や雪室にも使えるということを広めていけたら」と期待を込めます。
今回のプロジェクトのもう一つの大きな目標は、雪を活用した地域活性化です。
福井大学の寺崎准教授は「今は試験的に雪の中にコメや酒、ソバなどを入れているが、大々的にPRし、たくさんの食品を入れて付加価値をつけたり、イベントでもっと雪室のことを知ってもらって親しみを感じてもらいたい」と話します。
現在も残る雪山は、7月にスターランドさかだにのヒマワリが満開になるころにシートを外し、祭りを盛り上げることにしています。また、さらに多くの雪を貯蔵できるシートを、今後も共同で開発していくということです。