生涯にたった一度。3歳世代の頂点を決める競馬の祭典、G1・日本ダービー。
ことし、その頂点に立ったのは、クロワデュノールと北村友一騎手。
北村騎手は、この栄冠を掴むまで想像を絶する道のりを歩んできました。
【北村騎手】「ここに至るまでの過程すべてに意味があったんだなということを感じています」
騎手人生を脅かす大けがと闘った日々。10年来の友人・吉原功兼キャスターが、栄冠の舞台裏を取材しました。
■4年前は馬にまたがる姿すら想像できず…
日本ダービー4日前。北村友一騎手はクロワデュノールとのレース前、最後の調教の日を迎えていました。
【吉原キャスター】「おはようございます」
【北村騎手】「おっ、功兼さん。朝早くからありがとうございます。うれしいですね」
【吉原キャスター】「僕も嬉しいですよ。友一君」
【北村騎手】「すごいですね。ダービーの1番人気に乗れるジョッキーに復活したって」
4年前は日本ダービーを勝つどころか、馬にまたがる姿すら想像できませんでした。
■2021年の落馬事故で背骨が潰れるなど10か所以上を骨折する大けがを負う
2021年5月、突如襲った落馬事故。背骨が潰れるなど10か所以上を骨折する大けがをした北村騎手。
寝返りを打つこともできず、11日間はただ天井を見つめることしかできませんでした。
【北村騎手】「自分はもう1回ジョッキーになって復帰したいのか、これから先どうなりたいのか、どうあるべきなのかっていうのを凄く自分の中で考えさせられましたね」
それでも“もう一度馬に乗りたい”その一心で、先の見えないリハビリ生活を歩みだしました。
■「自分自身の101パーセントを使い切りたい」
【吉原キャスター】「落馬して最初の数日、本当に苦しかったですよね」
【北村騎手】「本当に何もできなかったので。苦しさから逃れる方法もなかったので。でも、苦しい時だからこそ、いま何をどう考えて、どう思考していくかが、今後生きてくるんじゃないかと思ったので」
【北村騎手】「自分自身の持っている全ての“101パーセント”を使い切りたいなと思って日々を過ごしています」
【吉原キャスター】「限界をちょっと超える?」
【北村騎手】「101パーセントを超えた頃に子供に(遊ぼうと)来られると限界かなあと思いますけど」
【吉原キャスター】「これ以上勘弁して~って?」
【北村騎手】「今日無理~って思うときはありますけど」
■苦しい時も心の支えになったのは、家族の存在
苦しい時も心の支えになったのは、家族の存在でした。
【北村騎手】「すごくバランスが取れたご飯で、なんでもおいしいんですよ」
【妻・愛美さん】「付き合ってすぐ勉強して。資格を取って、資格とったよーって報告しました」
【北村騎手】「すごいですよね」
【妻・愛美さん】「ちょっとでも寄り添えたら。競馬のこととか、何も知らなかったので」
■落馬事故が起きたのは、結婚してわずか5カ月後だった
落馬事故が起きたのは、結婚してわずか5カ月後のこと。妻の愛美さんは、ずっと側で寄り添い続けました。
【北村騎手】「結婚していなかったら、妻がいなかったら、もっとネガティブに一人で考え込むこともあったかと思うんですけど、そばで笑顔で明るく笑ってくれる存在がありがたかった」
【吉原キャスター】「ずっと変わらず笑顔でいてくれたということが支えになった?」
【北村騎手】「かけてもらう言葉というよりも、自然に隣で笑ってくれる存在が大きかったなと思います」
【吉原キャスター】「そういうことって伝えたりしてます?ありがとうとか」
【北村騎手】「してないですね」
■1年1カ月ぶりに復帰もブランクに苦しみG1勝利から遠ざかる
長く苦しいリハビリを乗り越え、1年1カ月ぶりに復帰した北村騎手。しかし、そのブランクは大きく、G1勝利からは遠ざかっていました。
【北村騎手】「正直努力しているとは思っていたんで、こんな努力して報われなかったら自分自身がかわいそうやと思ってたんですよ。自分自身を裏切らないために結果を出さないといけない」
そうしてもがき続ける中、去年、クロワデュノールに巡り合いました。
【北村騎手】「こんなおとなしく走る馬、みんな乗りたいですよね」
■去年12月にはデビューから無傷の3連勝で、G1・ホープフルSを制覇
去年12月にはデビューから無傷の3連勝で、G1・ホープフルSを制覇。北村騎手にとって、実に4年ぶりのG1勝利となりました。
【北村騎手】「またG1を勝つ事ができました。本当にたくさんの人に助けていただいて、ここに導かれたんだと思います」
■G1勝利をもたらしてくれたクロワデュノールとともに初のダービー制覇に挑む
再びG1勝利をもたらしてくれたクロワデュノールとともにに、初のダービー制覇に挑みます。
【吉原キャスター】「どんなダービーにしたい?」
【北村騎手】「僕自身というよりも周りの方々が本当に応援して下さっているのが実感できるので、その方たちのために頑張りたいですし、何より馬のために本当に勝ちたい、勝ってあげたいなという気持ちの方が大きいです」
■クロワデュノールと北村友一騎手には、「1番人気」の支持
自分一人では歩めなかった、騎手としてのリスタート。
日本ダービー当日。けがをしているときは、想像すらできなかった「大一番」です。
クロワデュノールと北村友一騎手には、「1番人気」の支持が寄せられました。
■落馬事故から1491日。苦難を乗り越えて人馬一体で掴んだ栄冠
誰もが待ちわびた瞬間でした。
【実況】「渾身のムチが一発!抜けるものなら抜いてみろ!北村友一先頭だ、北村友一!北村友一!悲願達成なるか!ついにかなえた、クロワデュノール!やった!やった!ついに導きました!」
あの落馬事故から1491日。苦難を乗り越え、人馬一体で掴んだ栄冠でした。
■日本ダービー制覇 けがをしていた時には「想像もできてない」
【吉原キャスター】「(日本ダービー制覇は)けがをした時に描いていたことの1つにはあった?」
【北村騎手】「想像もできてないです。大きな夢もなかったですし、1つ1つ歩んできた過程が今日に至るので。自分がやってきたことは間違いじゃなかったんだなあと思ってもいいのかなあと思います」
【吉原キャスター】「ご家族に何か伝えたいことはありますか?」
【北村騎手】「この1か月はすごく気が張っていて。ありがとうって気持ちを素直に伝えたいなと思います。またゆっくりご飯に行きましょう」
【吉原キャスター】「勝ったね」
【北村騎手】「勝ちましたね」
■取材した吉原キャスター「奇跡だと思っていない。必然だったんじゃないか」
取材した吉原キャスターは、落馬事故の直後、北村騎手にどう言葉をかけていいか分からなかったと振り返りました。
【吉原キャスター】「北村騎手は自分自身と馬を信じ切って、最後まであきらめなかった」
また、北村騎手が大けがから日本ダービーを制したことを『奇跡』と言われていることに「僕は奇跡だと思っていない」と吉原キャスターは語ります。
【吉原キャスター】「一日一日を大切に生きて、周りの皆さんの支えを受け止めて、最後まで戦い抜いたからこその必然だったんじゃないかと感じました」
(関西テレビ「newsランナー」 2025年6月12日放送)