関西テレビに入社して5年目を迎えた橋本和花子アナウンサー。幼い頃から抱いていた夢に向かって、彼女は今、大きな挑戦を始めようとしていた。
「プロ野球中継の実況に挑戦させていただくことになりました!」
橋本アナが語るその言葉には、興奮と緊張が入り混じっていた。
関西テレビの68年の歴史で、プロ野球の実況といえば男性アナウンサーが担当するのが当たり前だった。
その常識を破り、初めて女性アナウンサーがプロ野球実況を務めることになったのだ。
■入社から4年間 夢の実現を訴えてきた
「入社前から野球実況に挑戦したいという憧れがありました」と橋本アナ。
甲子園球場のすぐ近くで生まれ育った彼女にとって、野球は幼い頃から身近な存在だった。小さい頃から高校野球やプロ野球の試合をよく見に行き、家では父親と一緒に野球中継を見る日々。
「漠然とした憧れがずっとあって」と話す橋本アナは、入社後も4年間ずっとその思いを言い続けてきた。
そして今年6月29日、ついにJ SPORTS の「オリックス対楽天戦」で初めてのプロ野球実況に挑むことが決まった。
しかし、その道のりは決して平坦ではなかった...
■「3時間話し続ける」実況アナの技術にたじろぐ
橋本アナが直面した最初の壁は、野球実況特有の技術的な難しさだった。
「色々難しいんですけど、まず野球の試合って、コンパクトに行っても大体3時間ぐらいかかるんです」と話す橋本アナ。
「実況はずっとお腹から声を張り続けなければいけない」
現在5本のレギュラー番組を持つ橋本アナ。普段からnewsランナーのスポーツコーナー「ランスポ」のキャスターを担当し、野球の試合原稿を読むなど野球には慣れ親しんでいるが、3時間も話し続けることは未知の領域だった。
「最初は気合を入れてお腹から声を出しているんですけど、だんだん普通の声になっていって…」
それだけではない。野球のルールについても、意外な盲点があった。
「インフィールドフライがどんなフライでどういう時にそう判定されるのかとか、細かいルールを知っているかと言われると、恥ずかしながら知らなかったんです」
知識があったとしても、実際の試合で突然起こった出来事を即座に説明できなければ実況アナウンサーは失格だ。練習では頭がフリーズして言葉に詰まることも多々あったという。
「とにかく練習を積むことだと思っているので、ひたすらひたすらやっています」
本番まで残り3ヶ月。橋本アナの課題は、声の出し方、喋り続ける体力、そして目の前の状況を瞬時に伝える表現力だった。
■ベテラン実況アナ「今でも日本シリーズの実況にうなされる」
日々の練習を重ねるうちに、少しずつ変化が見え始めた。
先輩の石田一洋アナウンサーとの練習の日。石田アナは橋本アナの成長を感じ取っていた。
「技術的には声がスポーツアナっぽく、この1ヶ月半ぐらいでなってきました」と石田アナ。
「最初はどうしても普段のスタジオ喋りやリポーターとして喋っている時の声の強さだったのが、今聞いているとだいぶ張れる強い声で喋れるようになってきた」
課題の一つだった声の張り方がうまくなってきたという石田アナからの評価に、橋本アナは安堵の表情を見せた。
しかし、新たな課題も見えてきた。
「打った後の描写がちょっと粗い」と石田アナは指摘する。
ファールフライが上がった時など、「ライトへ行っていった後、何を言うのかというところが、まだノープランな感じがする」
試合の臨場感を伝えるための表現力。
それは石田アナも日本シリーズでサヨナラホームランが出た時の実況について「今でもうなされる」と話すほど、ベテランでも難しいポイントだった。
「正解はないから、すごく後で後悔しやすいポイント」という石田アナの言葉に耳を傾ける橋本アナの表情には緊張感がにじむ。
■ホームランのシーンを繰り返し練習
「打ちました。引っ張って、捉えた打球はライトスタンドへ。入っていきました。ホームラン!」
橋本アナはホームランシーンの描写を何度も繰り返し練習する。
石田アナからは「もっともっと張ってもいい」と指導が入る。
「本当にホームランが出る時は『打ちました、大きな当たりだー』ってギャーッと声が上がるぐらいじゃないと、他のヒットと差別化がつかない」
プロ野球実況歴約20年のベテランからのアドバイスは的確だ。
■上達したはずが...声の張りが元に戻ったと厳しい指摘
資料作りにも余念がない橋本アナ。「いざという時に、バファローズの5月の成績がすぐ分かるように」と紙に書いて準備していた。
しかし、順調に見えた準備に暗雲が。
本番まで残り1ヶ月となったある日の練習。
「ちょっと久しぶりに聞くとまた声が、以前に戻った感がある」と石田アナから厳しい指摘が。
上達したはずの声の張りが元に戻っているというのだ。
「ちょっと自覚してました」と橋本アナは焦りの表情。
さらに石田アナからは「苦しそう」という新たな指摘も。
「タイムリーヒットを〇〇が△△して激走を見せました、みたいな。なんか空気の割合がすごく多い」
本番まで残り1ヶ月。上達したはずの声の張りが元に戻り、表現力もまだまだ発展途上。
橋本アナの前には、まだ乗り越えるべき壁が立ちはだかっていた。
■一歩づつ夢の実現に向けて努力
甲子園のそばで育ち、幼い頃から野球中継に憧れていた橋本和花子アナ。
入社してからも諦めず、4年間言い続けてきた夢に、ついに挑戦するチャンスをつかんだ。
声の張り方、3時間喋り続ける体力、瞬時の状況判断と表現力。様々な壁に直面しながらも、彼女は日々練習を重ねてきた。
時に進歩し、時に後戻りしながらも、夢への一歩を踏み出している。
果たして橋本アナは関西テレビ初の女性プロ野球実況という大舞台で、どんな実況を視聴者に届けることができるのか。
6月29日午後1時から、オリックスVS楽天戦のJ SPORTSの生中継で、その成果が明らかになる。