人口減少が進み、様々な業種で人手不足が深刻化するなか、とりわけ「病院薬剤師」の不足が地域医療の現場に大きな課題をもたらしている。富山県朝日町の「あさひ総合病院」は、14年ぶりに新人薬剤師を採用することができた。その背景には、病院の積極的な採用活動と町独自の支援制度があった。

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10年以上新規採用がなかった病院の転機

「だいぶ慣れたと思う。調べても分からないことも結構多いので、ベテランの先輩ばかりで逆に安心してなんでも聞ける」と話すのは、あさひ総合病院薬剤科の広瀬永愛さん(25)。昨年、14年ぶりの新人薬剤師として採用された。

県内の公的病院における薬剤師不足は深刻だ。昨年度、県内23の公的病院で43人を募集したが、実際に採用に至ったのは22人にとどまった。薬局やドラッグストアの増加により、多くの病院が人材確保に苦戦している。

病院薬剤師ならではの仕事の魅力

広瀬さんの日常業務は多岐にわたる。処方箋に基づいた調剤だけでなく、注射液の成分から抗ウイルスの目薬を生成するなど、市販にはない薬を医師の指示のもと病院内で調製する「院内製剤」も担当。また、医師や看護師とチームで治療方針を議論するカンファレンスにも参加している。

「直接、患者としゃべれること、医師や看護師がいること、カルテを直接見られることが(病院薬剤師の)メリット」と広瀬さんは語る。「患者に対してもっと薬を減らしてあげたり、もっと先生に良い提案ができるのではと思う時がある。患者のこと、病気のこと、薬のこと、全部知識が必要だと思う」

下澤副科長は「当院には6年制の薬学部卒業の薬剤師はいなかった。広瀬さんが入ってくれたこ

とで良い意味で薬剤科の空気が変わった」と新人採用の効果を評価する。

町独自の奨学金制度が後押し

朝日町の独自支援制度も新人薬剤師確保の大きな要因となった。2021年に町が始めた奨学金制度は、月12万円を最大6年間貸し出し、あさひ総合病院で働いた年数分の返済が免除される仕組みだ。広瀬さんもこの制度を活用した一人である。

「ちゃんと勉強できる環境を整えたくて奨学金を借りた。(就職活動で)目につく一つになると思う。(学生から)関心が向けられる可能性はあると思う」と広瀬さんは制度の魅力を語る。

下澤副科長も「6年制の薬学部生はかなりお金がかかると聞いている。就職して、まずお金を返そうと給料が良い調剤薬局などに行ってしまうのではという懸念も長らくあった。そういう面ではありがたい制度だと思う」と評価している。

あさひ総合病院の野口正人事務部長は「たくさんの病院からたくさんの募集がある。そのなかで当院のような病院に目を向けていただくには、メリットを複合的に伝えて、当院に来ていただきたい」と話す。

地域医療を支える人材確保のために、経済的支援と職場環境の魅力、そして医療従事者としてのやりがいをどう伝えていくか様々な工夫が求められている。

富山テレビ
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