菅新政権が発足して1週間。4連休が明けて本格的に政策課題に向き合うことになる。
どのような政策にどう取り組んでいくのか、その行方を探った。

1週間の発言から見えてくるもの…

言うまでもなく、国の政策変更は多くの関係者に影響を及ぼす。
だからこそ、方向性が示されても、結論までには一定の時間をかける。
刹那の「一発ギャグ」というよりは、じっくり聴かせる「落語」のようなものだろう。
菅政権の“目玉政策”…携帯電話の通信料金もそうだ。
なにせ、最後に「サゲ(落ち)」が必要なのだから。

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担当大臣として連日ニュースになった武田良太総務相のこのところの発言も、そういう意味では、落語で言えば「マクラ(導入部)」に当たるのだろうか。
考えてみれば、まだ政策検討の枠組すら明らかになっていないのだ。ただ、就任から1週間の発言を子細に眺めてみれば、何かしら見えてくるものがあるやも知れない…

武田総務相の“原点”

武田総務相:(9月16日)
過去において携帯電話っていうのは、ある意味でぜいたく品である時代もあった。
しかし今となっては、携帯電話は全国民、世界の人々にとっての生活必需品となっており、災害・急病、そうした時に本当に役に立つものになってきている

就任当日、初閣議後の深夜の記者会見。ほぼ自分の言葉と思われる武田総務相の“携帯電話観”は、その後も一貫して語られている。
その“原点”とも言える経験は、翌日の大臣交代式で明かされた。

武田総務相:(9月17日)
内閣府防災(担当相)で、去年1年間(のうち)約4か月弱、防災服を身にまとう年を送った。これが日本の実情。
災害に対しては役所だけでなく、国民が対処していかねばならない。
被災者はまず、水より電気を求める。明るさよりも、電話が通じないことに不自由を感じている方々が多かった。
それだけの時代になってみれば、我々が社会で生きていく中で、通信網は人生にとって生活にとって、切っても切れないものになったと

過酷な災害が続いた前職・防災担当相の任期中、被災地で目にした光景が脳裏に。「だからこそ」の思いがあるのだろう。

武田総務相の“角度”

「ユーザーにとって納得のいく料金かどうか、ユーザーが果たして利用しやすいシステム・制度なのかどうか、そうしたことをしっかり検証するのが我々の仕事」(9月16日 就任会見)

「国民の目線で見た時に、安くわかりやすい、そして利便性・納得感が出てくる料金体系がいま一番求められている」(9月17日 総務省での初会見)

「しっかりとユーザー、そして事業者、双方から意見を聞きながら、正しい折衷点を見い出していきたい」(9月18日午前 菅首相との会談後)

「還元率を上げるということは、ユーザーに対する還元率を上げるということでしょ。それは料金を下げるということです」(9月18日午後 閣議後会見)

携帯電話をめぐる政策においては、「国民=ユーザー」。
もちろん、政権がこれをテーマとして取り上げた時点で“ユーザー目線”は念頭にあるわけだが、武田大臣が繰り返し強調するのは「ユーザーの納得感」、そして議論の過程で「ユーザーの意見を聞く」という点だ。
一般的には、有識者会議などで出した方向性を「パブリックコメント」にかけるという手順だが、ここに大臣ならではの“角度”の入ったユーザーの意見表明の場が設定されるのかどうか。

武田総務相の“立ち位置”

武田総務相:(9月18日 閣議後会見)
私の考えとしては、もっと健全な市場競争が果たされれば、1割以上の値下げが可能だと踏んでますから

今回の議論の“起点”が元総務相である菅首相であることは論をまたないところ。
武田総務相も
「総理ご自身の会見で、値下げするべきとの方向性を示された」(同日)
と、ことあるごとに強調している。

それもあってか、発言の表現に「私」が顔を出すことは極端に少ない。前掲の発言も、本格的な検討に入る前の「マクラ」として、業界や事務方にあえて投げかけたものだろうか。
この発言を境に、大臣の一人称に変化が生じる。

武田総務相:(9月20日 NHK番組)
健全な競争の下で価格というのは決められるのが正しいルールですから、我々がいくらいくらという風に数字を並べるんではなくて、国際水準に近い値下げというものを目標に努力していただきたいと申し上げている

この場合の「我々」は、おそらく「菅首相と閣僚」という意味ではないだろう。
切れのある「マクラ」で聴衆の耳目を集め、本題の「噺(はなし)」に入っていく。ここからは総務省としてのチーム戦に入りますよ、という意思表示ではないだろうか。そう、噺家が羽織を脱ぐタイミングのような。
そう考えると、報道陣のグループインタビューで示した、現時点での「最新」の下記の発言に、ここからの方向性が凝縮されている、と考えるのは穿ちすぎだろうか。

武田総務相:(9月23日)
過去においてはぜいたく品だった携帯電話も、現代においては生きてくうえで必要な生活必需品になった。日常生活におけるコミュニケーションに加え、急病や災害の時にはしっかりとしたライフラインになっているわけで、その重要度は増すばかりだろうと思う。
その中で、現在のわが国の料金について冷静に見た時に、諸外国と比較した時に大容量プランの分野では特に、かなり高い水準となっているというのはみなさま方にもご認識いただけ、また多くの国民からも是正の声を寄せられている。
まずは国民、そして事業者、さまざまな意見を聞いて、利用者にとって安く、納得できる、使いやすい、また利便性がある、そうしたものになるための料金サービスというのはいったいどういうものなのかをしっかり見極めていきたいと考えている。

武田総務相:(9月23日)
なお総務省としては、料金が高い安いという議論もさることながら、健全な市場競争が行われる環境をいかにして作り上げていくかということを真剣に考えていかなくてはならない。
いま大手3社が寡占状況にあるわけで、新規のやる気のある技術力のある事業者が市場に参加して、健全な競争原理が働いて国民のためになる安価な料金が設定される、これが一番我々として理想とするところなので、その環境に今から積極的に取り組んでまいりたい。
またいろいろな制度、乗り換えの手数料の問題とか、複雑なプランの問題とか、そうした問題にも我々は積極的に取り組んでいって、総合力で目的を果たしていきたいと考えている

(フジテレビ 報道局 髙島英弥)

高島 英弥
高島 英弥