5年前の豪雨で被災した球磨川流域の防災力を高めようと、あさぎり町の県立南稜高校の生徒が大学と連携し、最先端の調査・研究に挑んでいます。
テーマは〈森林の保水力〉。雨水をためて川にゆっくり流す森林の働きを球磨川流域の治水に生かします。
【県立南稜高校 総合農業科 環境コース3年 原口 煌人 さん】
「実際に災害を経験した時の球磨川が氾濫して水が迫ってくる時の恐怖は今でも忘れられないので、少しでも被害を抑えられるように今後も活動していきたい」
球磨郡あさぎり町にある県立南稜高校の演習林です。
【東京大学大学院 蔵治 光一郎 教授】
「降ってくる雨の2割くらいはこの上だけで保水されている。この葉っぱとか幹とかで。雨の2割はすごい量」
総合農業科・環境コースの生徒が東京大学や熊本県立大学などと連携してある研究を行っています。
【熊本県立大学 共創の流域治水研究室 一柳 英隆 学術研究員】
「森林がどうやって水を蓄えることができるかというのを(南稜高校の)皆さんと一緒に(研究してきて)今回で4年目」
2020年7月豪雨で甚大な被害を受けた球磨川流域では、熊本県立大学を中心とした産学官のグループが研究プロジェクト〈地域共創流域治水〉に取り組んでいます。
このプロジェクトでは〈流域治水〉による球磨川流域の復興と持続可能な地域の実現を目指しています。
南稜高校はこの一環で、3年前から大学と連携し、球磨川流域の8割を占める〈森林の保水力〉に着目した調査・研究を進めています。
森林には、雨水をため、川にゆっくり流す洪水の緩和効果があります。
この森林が持つ保水力を調べることで治水に役立てるのが狙いです。
今年度は『木の大きさや種類による保水力の差』を調べます。
【東京大学大学院 蔵治 光一郎 教授】
「この木に伝って流れてくる水量を測りたい」
6月3日は、〈樹幹流〉と呼ばれる木の幹などを伝って地面に流れ落ちる雨の量を調べる器具を設置しました。
生徒たちはナタを使って、スギの木の表皮を削りならしていきます。
【生徒】
「まだデコボコしている」「めちゃくちゃ難しい。削れない」
【東京大学大学院 蔵治 光一郎 教授】
「これ今(水が)落ちてきている」
そこにホースを巻きつけ雨水を受け止めます。
【県立南稜高校 総合農業科 環境コース3年 浜崎 美來 さん】
「まず、この地域から防災力を高めていろいろな人に(取り組みを)知ってほしい」
生徒たちは今後、スギとケヤキに設置した器具を使って木の幹を伝って流れる雨水の量を調査。数値を比較し、樹木の種類による〈樹幹流〉の差などについて研究する予定です。
【熊本県立大学 共創の流域治水研究室 一柳 英隆 学術研究員】
「森林というものは非常に多様で複雑だが、やり方によってはかなり水を蓄えることができる。〈高校生が考えている〉ということが地域住民に伝わることが重要」
【東京大学大学院 蔵治 光一郎 教授】
「もちろん木材生産は大事だし、生産性(重視)やコストが低いやり方もあるが、一方で、防災上、大事に森林を使うやり方もあるので、これからは(生産と防災の)バランスをとらなければいけなくなる。この地域の未来を支える若者たちにそのような学びを提供できていることが素晴らしい」
球磨川流域に甚大な被害をもたらした豪雨災害から間もなく5年。高校生たちが地域の防災力を高めるため『流域治水』の最先端の研究に励んでいます。
【スタジオ】
東京大学大学院の蔵治 光一郎 教授によりますと、樹木の幹や枝葉がどれくらいの雨水を受け止めるのか、日本での『樹幹流』の研究はまだ日が浅く、南稜高校生の取り組みは全国でも注目されているということです。