「勝手踏切」、踏切ではない線路を人が行き来する場所のことだ。
広島市とJR西日本は相次ぐ死亡事故を受けて封鎖に動いているが、“地元の同意”という大きなハードルを前に、対策は簡単に進まない。安全と生活が交錯する現場に迫った。

生活に溶け込んだ危険な「近道」 

広島市安佐南区祇園。住宅街の細い歩道の先に、「勝手踏切」は存在する。

広島市安佐南区祇園の「勝手踏切」
広島市安佐南区祇園の「勝手踏切」
この記事の画像(7枚)

警報機も遮断機もない。線路脇のフェンスがここだけ途切れていて、歩行者が簡単に立ち入れるようになっている。

2024年10月、この場所で線路を横断していた男性が列車にはねられて死亡した。事故を受け、通行者は減ったものの、依然として「近道」として利用する住民は少なくない。

この事故の半年前には、安佐南区緑井の別の勝手踏切でも死亡事故が発生。広島市とJR西日本は、事故のあった2カ所の勝手踏切を封鎖する方向で手続きを進めている。

祇園の自治会長に届いた「勝手踏切封鎖」の書類
祇園の自治会長に届いた「勝手踏切封鎖」の書類

広島市から封鎖の説明を受けた祇園の自治会長は、「やむを得んのじゃないですか?また同じような事故があってはいけないのでね」と受け止めている。

危険でも“簡単に封鎖できない”理由

広島県内には中国地方最多となる544カ所の勝手踏切があり、JR西日本は自治体や地元住民と封鎖に向けた協議を進めたい考えだ。
しかし封鎖の実現には、あるハードルを越えなければならず、時間を要している。

勝手踏切の多くは、かつての生活道路(里道)に後から線路が敷設された経緯を持つ。このため、封鎖には地権者や自治会など地元の同意が不可欠だ。

広島市とJRは次の手順で封鎖を進めている。

【勝手踏切 封鎖に向けた手続き】
1 周辺住民を戸別訪問し、同意書に署名を得る
2 自治会長の承認を得るための協議を行う
3 封鎖予定地に看板を設置して周知する
4 最終的にフェンス等を設置し封鎖を実施する

勝手踏切の近くに40年以上住む住民は「ここに住み始めた時には当然のように勝手踏切があった。やっぱり生活道路みたいなもんじゃけえ」と少し複雑な表情も見せた。

住民の同意で“長年の慣習”に変化

長年、生活道路として利用されてきた勝手踏切。“地元の同意”というハードルを丁寧にクリアしながら手続きを進めている。
実際に市とJRが自宅を訪れ、封鎖への同意を求められた住民は「封鎖に賛成するかということで、もちろん賛成しました。やっぱり、いろんな不幸があったりしたから封鎖のほうがいいですもんね」と話す。

小学生の安全確保を担う放課後児童クラブの職員も、封鎖に賛成の立場だ。
「線路に興味を持つ子どももいる。勝手踏切はちょっと怖いので、登下校の時は必ず見守りのために立っています。封鎖には大賛成。何かあってからでは遅い」

住民の多くが封鎖に理解を示したこともあり、「祇園の勝手踏切」は2025年9月中にフェンスが設置される見通し。広島市の松井一實市長は「地域の方々の了解のもとで、これまでの慣例を変えていこうという取り組みが成果に結びついた」と述べた。

法の外の「踏切」 粘り強く説得を

一方、2024年4月に死亡事故があった安佐南区緑井の勝手踏切では、事故から1年以上経った今も封鎖のめどは立っていない。

広島市安佐南区緑井の「勝手踏切」を通行する人
広島市安佐南区緑井の「勝手踏切」を通行する人

通行する人が多く、自治会との協議は難航。「立ち入らないでください」という線路脇の注意書きに目もくれず、堂々と線路を横切る人が絶えない。

広島大学法学部長・吉中信人教授は次のように指摘する。
「勝手踏切は法的には“踏切”ではないんです。だからこそ、地域住民を粘り強く説得して早くなくしてほしいですね」
また、事故現場を取材した記者によると、「いざ勝手踏切の前に立ってみると思ったよりも音が聞こえず、突然電車が現れる印象だった」という。

慣れ親しんだ生活道でも一歩間違えば命を落とす。近隣住民の安全を守るためにも、地元の同意をどう得ていくのか?対策の難しさが浮き彫りとなっている。

(テレビ新広島)

テレビ新広島
テレビ新広島

広島の最新ニュース、身近な話題、災害や事故の速報などを発信します。