95歳の「アイリスおばあちゃん」の思いです。長野県千曲市で35年、ジャーマンアイリス園を守ってきましたが、今シーズン限りでその歴史に幕を下ろします。長年、支えてくれた人たちへの「感謝」を胸に愛する地に別れを告げます。
黄色や紫にオレンジなど色とりどりの花。千曲市の「ジャーマンアイリス」が咲く観光花園です。
鮒田さん:
「ほら、きれいでしょ」
整備するのは、鮒田智子さん95歳。人呼んで「アイリスおばあちゃん」です。
今シーズンは、5月20日ごろ、見頃を迎え、畑一面に色鮮やかな花が広がりました。
今は、ピークを過ぎましたが、連日、県内各地から客が訪れています。
その目的は、鮒田さんとの触れ合いです。
客:
「最後だっていうから顔を見に来た。春はきれいなの咲いて、おばちゃんが一生懸命耕してやってて、もっと若かったらやってもらいたいですね」
実は、「アイリス園」は今シーズン限り。35年の歴史に幕を閉じます。
多くの人に慕われてきた「アイリスおばあちゃん」。「感謝」を胸にラストシーズンを迎えています。
ジャーマンアイリス観光花園・鮒田智子さん(1995年):
「始まりはね、40種類くらいから始めたんです。うちの主人は何しろ新しいことが好きだったの。知っている人が、これ(ジャーマン)をやらないかって」
ジャーマンアイリスは1990年、夫の繁利さんと植え始めました。
ここは元々、水田だった場所で、アイリスが育つ水はけが良い土地にするため、夫と二人で土を盛り、改良を重ね、株を少しずつ増やしていきました。
ジャーマンアイリス観光花園・鮒田智子さん(2017年):
「何でも勉強でしたよ、いろいろ。難しいといえば難しいし、楽といえば楽な仕事でした。ちゃんとやっていればできるからね」
最初は40種類ほどでしたが、450種類に増え、「アイリス園」は人気の観光スポットとなりました。
鑑賞目的だけでなく、鮒田さんの人柄にひかれ、続々と客が訪れるようになりました。鮒田さんのためにと、親しみを込めて歌までできました。
♪「アイリスおばあちゃん」:
「信州千曲の倉科で 今日も元気に働くよ アイリスおばあちゃん」
「アイリスおばあちゃん」と呼ばれ、多くの人に親しまれるようになった鮒田さん。
しかし、8年前、一緒に苦労を重ねてきた夫・繁利さんが亡くなりました。
鮒田さん:
「寂しいなんて言ってられない、忙しい時だから。娘にも、『ばあちゃんよかったな、ボケ防止に。じいちゃんに(アイリス)残してもらって』って」
「亡き夫と育ててきたアイリス園を守る」。そう決意しましたが、3年後に新型コロナの影響を大きく受け、客は大幅に減少。
しかし、持ち前の明るさと友人たちの手も借りて、苦難を乗り越えました。
規模は縮小しましたが、2025年も1500株ほど花を咲かせました。
ただ、鮒田さんの仕事の役割に変化がありました。
2024年までは花の手入れや、販売する球根の掘り出しも鮒田さんが中心にやってきましたが、2025年から力仕事は親戚が手伝うようになりました。
鮒田さんの役割は客のお出迎えに。
鮒田さん:
「もう年です。ちゃんと決まりをつけないといけないと思って、やめることにしました」
2025年、95歳になった鮒田さん。
足腰の衰えや耳が遠くなったことから、今シーズン限りでの閉園を決めました。
この日、閉園を知った、なじみの客がアイリス園を訪れていました。
長野市から:
「素晴らしいね、色合いと姿・形。せっかく買っていくから、もし増やしたら他の人にも譲ってあげたいなって思っています」
長野市から:
「それこそ私らに負けないくらい掘ってくれたり、すごかったね」
すでに花の見頃は過ぎていますが、多くのファンが訪れ、球根を買い求めていました。
客:
「寂しいよね、来年は来られないとなると。これほどじゃないけど増やして」
「みんなに楽しんでもらいたいよね」
もう「アイリス園」で鑑賞することはできません。
「おばあちゃんとの思い出を」。来年は、自宅で花を咲かせ、楽しみたいと考えています。
客:
「おばあちゃんに会いたくて来たんだけど、おじいちゃんの頃から付き合っていて」
鮒田さんとおしゃべりをしたいと訪れる客も絶えません。
客・坂城から:
「おばあちゃんの顔見たくて」
鮒田さん:
「そうですか、こんな顔でも?(笑)しわだらけ」
ほとんどの時間、屋内で接客などの仕事をしていますが、いてもたってもいられないようです。
鮒田さん:
「ほら、きれいでしょ。これを買って行ってもらえばいいから」
畑で花を見ながら、客と接すると、自然とハツラツとした表情に変わります。
客:
「うちの母親も97歳まで生きたからおばちゃんも、もうちょっと頑張ってね」
客:
「元気でね、ありがとう。寂しい」
鮒田さん:
「みんなそう言う、だから思い出に」
客:
「大事に育てるね」
夫と始め、育ててきた「アイリス園」。長年、支えてくれた人たちへの「感謝」を胸に「アイリスおばあちゃん」は愛する地をあとにします。
ジャーマンアイリス観光花園・鮒田智子さん:
「私に会いにだけ来るって人もいるの。今になってみればね、何十年もお付き合いしているお客さんもあるしね。それが楽しみでした。悩みませんでした。もうやり遂げたと思っています」