ここ数年、子どもたちの部活動やスポーツ教室のあり方が変わろうとしている。現場を取材した。

体罰が当たり前!? 昭和の部活動

昭和の時代、中学校や高校で部活動に励んで汗や涙を流した人たち。バレーボール部に所属していた男性(60代)は「『俺について来い』みたいな指導が、まだ残ってる時代だったから、レシーブ練習だとボンボン、ボールを投げつけられて、立てなくなっても投げつけられていた」と当時を振り返る。また別の男性は「野球部とか体育会系の人が、殴られてるの見たことあるし…」と目撃談を話してくれた。

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世代的に体罰が色濃く残っていた昭和の部活動。一方の、若い世代。部活動経験のある20代の男性は「厳しかった。でもそれは愛のある怒りだなと思っていた」とプラスのイメージで話す。

変化しつつあるものの、まだ厳しい指導の名残がある状況に「一石を投じたい」という取り組みが福岡から全国に広がっている。バレーボールの元日本代表、益子直美さんが中心になって開催されている『監督が怒ってはいけない大会』だ。

高校時代に往復ビンタを21連発

このイベントは、益子さん自身の辛い経験をもとになっている。「最大で高校時代は21連発の往復ビンタ。どんな心理状態だったかというと、とにかく怒られないように、ミスしないように、言われた通りにやらないといけないと思った」と衝撃的な過去を打ち明ける。日本代表になるほどの実力があったにも関わらず「バレーボールが嫌いで辞めたい」とまで思い詰められたという。

そんな指導のあり方を変えたいと決意した益子さん。この大会を10年前に始めた。「昭和のように怒らなくても勝てる。そっちの方がカッコいいですよね。そんなチームが小学生だけでなく中学生、高校生、全日本とか代表クラスも同じマインドで揃えばいいなと思います」と大会の意義を語った。

“怒らない指導”で日本一に輝く

『監督が怒ってはいけない大会』に参加している飯塚市の小学生のバレーボールチーム『幸袋ジュニア』。淡々と練習が進んで行く。監督の堀田祐司さんは、しっかりとプレーを見守り、いいプレーには拍手を送る。

堀田さんは「大きな声を出すこともあるけど、アドバイス的なことを言うだけで、あとはとにかく子どもたちに考えさせたい。指導者のエゴだけでヤーヤーと自分の気分を晴らすために言うんじゃなくて、子どもたちを伸ばすために、愛の鞭じゃないけど、それはいいと思う」と指導に対しての思いを語る。

幸袋ジュニアは、堀田監督の指導で2024年、初めて全国大会に出場。初出場にもかかわらず、優勝までしたのだ。

監督のことを選手たちはどう思っているのか? 選手の1人は「時に厳しく、時に優しく。大変やけど、みんなを上手にするために頑張ってくれる監督です」と信頼し、また別の1人は「自分のやるべきことをやったら、きちんと褒めてくれる監督です」と話す。

怒らない指導でもチームを強くすることができる、そんな実績ができたことで益子さんの大会にも賛同してくれる人が増えたという。

“怒らない指導” いざ実践…

大会に参加した監督たちは早速「怒らずに指導」を試合で実践。しかし、ミスをしてしまう子どもたち。思わず指導者の怒号が体育館内に響く。

また、腕を組んで見守る姿勢も子どもには威圧的に受け止められることもある。参加した監督は「私としては優しく声かけたんですけど、もう少し前向きにヤル気が上がるような声かけをした方がいいですねって…。難しいですね」とこの大会が、気づくきっかけになったと話す。

また、益子さんは応援している保護者にも気をつけてほしいと話す。「帰り道に『何であそこで外したんだ』と怒る保護者さんが多くって…、試合で負けて落ち込んで、監督に怒られて、また車で親に怒られて家族は味方になってほしい」。

子どもの数が少なくなり、学校の部活動を民間に委託する流れが進むなど、子どもたちを取り巻くスポーツ環境はいま、大きく変わろうとしている。

「子どもたちも、子どもたちだけで出来るんですよ。言われなくても。でもずっと言われてると、それがないと動けなくなってしまうんで、そこが危険で、私自身は言われないと動けない大人になってしまってたんで、それをなくしたい」と語る益子さん。この2年ほどで、ようやく世間に認知されてきたという『監督が怒ってはいけない大会』。これからも注目していきたい。

(テレビ西日本)

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