国内有数のホップの生産地として知られている岩手県遠野市だが、近年は農家の減少に苦しんでいる。
こうした中、地元のホップを使ったビールを造る醸造所が、5月、市内にオープンした。「ホップの里からビールの里へ」ホップ栽培を守るための地産地消の取り組みを取材した。

この春、遠野市に新しいビールの醸造所が誕生した。

5月17日にJR遠野駅のすぐそばにオープンした「GOOD HOPS」は、主に遠野産のホップを使用したオリジナルのクラフトビールを作っていて、ビールをその場で味わえる飲食スペースも併設されている。

来店客からは「遠野に来たなって感じがする。香りがあって」「ホップの香りや ちょっとした苦みとか、すごく感じられるビールが多い」などの声が聞かれた。

「GOOD HOPS」代表の田村淳一さんは「ホップや香りにこだわって造ったものが、お客さんにしっかり伝わってすごくうれしい」と話す。

田村さんは遠野のホップ栽培を守ろうと、この醸造所を立ち上げた。

ビールの原料のひとつで、その特有の香りと苦みのもととなるホップは、そのほとんどは海外からの輸入に頼っている。

こうした中、盆地で冷涼な気候がホップの生育に適している遠野市では、60年以上前からホップの栽培が始まり、いまでは日本一の栽培面積を誇る。

一方で、高齢化と後継者不足から農家の減少が進んでいる。担い手不足により、市内のホップの栽培面積は1980年代のピークに比べ、約7分の1にまで減少している状況だ。

遠野市では地元のホップを使ったビールを生産し、市内での消費を進めることで、ホップ栽培を持続可能な産業にしていこうというプロジェクトに取り組んでいる。

合言葉は「ホップの里からビールの里へ」。
プロジェクトのプロデューサーを務めているのが「GOOD HOPS」の代表・田村さんだ。

GOOD HOPS 田村淳一代表
「私たちは日本産ホップの可能性を広げるため、その付加価値を高めるようなビールを造っていきたい」

醸造所が完成した翌日から、さっそく仕込み作業が始まった。この日はビールの原料となる麦汁を作るため温水に細かく砕かれた麦芽を投入し、さらにホップで香りと苦みを付ける。

醸造の責任者・村上敦司さんは紫波町出身で、大手ビール会社で長年ホップの研究に携わり、遠野産のホップを使ったヒット商品も手掛けてきた。

ビール会社を早期退職した後、活動の拠点を遠野に移しホップの栽培やクラフトビールの醸造をサポートしている。

村上さんは「世界的にも初めてのホップの加工方法と、我々独自の品種開発をしている」と話す。

収穫されたホップは通常、長期保存するために約60度の熱風で乾燥させる。
しかし、この方法では水分と一緒にホップ本来の香りまで飛び、熱で成分が損なわれてしまう。

そこで「GOOD HOPS」では熱風を使わずに自然乾燥させる方法を考案した。
さらにホップの香りや苦みの素となる黄色い粒「ルプリン」だけを取り出すことで、(一般的なホップと比べ)8倍の香りの強度を実現した。

GOOD HOPS 醸造責任者 村上敦司さん
「この新しい加工方法は、ビール造りをする上で我々の選択肢が広がる。今までにないビールを造り出せる可能性が高い」

初仕込みから約2週間後、最初に仕込んだビールが完成した。
使われたホップは、クラフトビールの中では代表的な「カスケード」という品種で、もちろん遠野で栽培されたホップだ。

この日は「GOOD HOPS」のスタッフみんなで集まり、その味を確かめた。

GOOD HOPS 田村淳一代表
「味自体も香り自体もすごくおいしいビールに仕上がっていると思うが、それ以上にこの取り組みを始めて3、4年経てできたビールということに、ものすごい感慨深く感じながら飲んだ」

GOOD HOPS 醸造責任者 村上敦司さん
「ただ『おいしい』ではなく『ええっおいしい』というのを目指してきた。その『ええっ』という声がたくさん聞こえてきたので、すごく満足」

醸造所のオープン当日、「GOOD HOPS」には大勢のビールファンが訪れた。

この日は遠野産のホップが使われた5種類のビールが提供され、「GOOD HOPS」が開発したホップの新品種「アンカウンタブル」を使ったビールもお目見えした。

訪れた人たちは「全部おいしくいただきました。特徴があるビール」「だれが飲んでもおいしいと思うような、そんな感じのビールの気がする」とそれぞれのビールを飲み比べながら、その香りと味に文字通り酔いしれていた。

中には遠野市に移住してホップ農家になった人の姿もあった。

大阪から移住したホップ農家
「おいしいですね。ホップの香りが、かーっと広がってくるのが最高。栽培と加工に関わっているので、感慨深くて、ビールになってうれしさがある」

お客さんの反応に、田村さんは手ごたえを感じている。

GOOD HOPS 田村淳一代表
「実際にお客さんに飲んでいただき、色々なうれしい感想を頂けてすごくよかった。日本産ホップでも遠野産ホップでも、こんなにおいしいんだと、感動していただけるようなビールを造って皆さんを驚かせていきたい」

「ホップの里からビールの里へ」遠野のホップ栽培を守るために「GOOD HOPS」のビールが未来を切り開く。

岩手めんこいテレビ
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