岩手県九戸村に間伐した木材を加工して販売する「KUNOHE木工女子部」という3人組がいます。森林の保全と木の新たな価値の創造に取り組む3人を取材しました。
九戸村に住む女性3人組「KUNOHE木工女子部」。
木くずと蜜ろうを混ぜてつくった着火剤「こっぱ玉」や、ユニークな形で子どもに人気の「うんこつみき」など、ぬくもりが感じられるこうした木工製品を3人が作っています。
木材の調達を担当するリーダーの上野早紀さん(31)は、神奈川県出身で2024年までの3年間は村の地域おこし協力隊として林業に従事してきました。
KUNOHE木工女子部リーダー 上野早紀さん
「素材の調達から加工まで一貫してやっているということで、環境を破壊しているセクションが全くない。『環境に配慮して作った商品だ』と言えるところがいいところ」
デザインを担当する福島多恵さん(27)は、東京都出身で上野さんと同じく元・地域おこし協力隊です。フリーペーパーやポスターなどを制作し、村の情報発信に関わってきました。
KUNOHE木工女子部 福島多恵さん
「『うんこつみき』だったりとか、わくわくするものだったり、オリジナリティーを出せるものとか、使う人が楽しい気持ちになれるものが作れたらいいなと思っている」
そしてレーザー機器の操作など加工を担当する水上千文さん(35)は、九戸村出身で看板の制作などを行う村内の会社に勤務した経験を生かし、木にデザインを刻み込んでいきます。
KUNOHE木工女子部 水上千文さん
「せっかく切ってきてくれた木材を余すところなく使えるよう隙間隙間にデザインを入れるとか、捨てるところがないよう心がけている」
2023年4月、上野さんが福島さんと水上さんに声を掛け活動を始めたという「KUNOHE木工女子部」。
3人の得意分野を生かしてつくられる木工製品の材料には森林保全のために間引かれた木「間伐材」が使われています。
現在(2025年5月)会社を立ち上げ林業に従事している上野さんは、村内の山で日々間伐作業をしています。
いつも山の中で1人で作業をしているという上野さん、こうした間伐作業は森林を守っていく上でも大切だと話します。
KUNOHE木工女子部リーダー 上野早紀さん
「間伐をすることによって、木一本一本に栄養が行き渡って、将来的に森の価値が高まっていくと思う」
九戸村が行っているアンケートによりますと、2025年3月末時点で村内の山の所有者のうち約4割が高齢などの理由により間伐ができないなど、山の管理が困難と回答しています。
間伐されない山では何が起こるのかーー。
まず木と木の間隔が狭まり地面に日光が当たりづらくなります。
すると下草が育たず雨水が地面にしみ込みやすくなって土砂災害のリスクが高まってしまいます。
個人所有の山の面積が約7000haと村の52%ほどを占める九戸村にとって所有者が山を管理できないことは深刻な課題なのです。
こうした状況を受けて村では3年前から山を管理できなくなった所有者と林業の事業者をマッチングする制度を始めていて、上野さんはこの制度を活用して間伐作業にあたっています。
上野さんたちの木工製品づくりは村の課題の改善にもつながっているのです。
上野さんは真っすぐ伸びている形の良い木は主に丸太として販売しています。
一方で自分たちで木工製品に加工するのは、根元から複数に分かれて茎が伸びる「不良木」と呼ばれる木です。
本来、燃料として低価格で取り引きされるはずの不良木を商品化し、付加価値を高めているのです。
KUNOHE木工女子部リーダー 上野早紀さん
「売れない不良木を自分たちで商品化することで価値が付く。そうすると私がやっていることにもお金がつくから、継続的にこういう活動ができるのではないかと思う」
3人によって作られた木工製品は、これまで県内を中心にイベント会場などで販売されてきました。
2024年に県庁で行われた販売会はオリジナルの名札をオーダーする職員でにぎわっていました。
活動開始から3年目に突入した「KUNOHE木工女子部」、3人に今後の展望を聞きました。
KUNOHE木工女子部リーダー 上野早紀さん
「継続して森林整備を少しでも広い範囲でやって、それを価値のある商品に変えていくというところと、色々と企画も考えているのでお楽しみください」
KUNOHE木工女子部 福島多恵さん
「最近オーダーメイドで看板(製作)もたまに受けている。一人一人に合わせたデザインをさらに上手にできるようになりたい」
KUNOHE木工女子部 水上千文さん
「3人でこれからも話をしながら『こういうの面白いね』とか『ああいうのがあればいいね』と作っていこうと思っているので楽しみにしていてください」
九戸村の森林が持つ可能性を探り続けている3人。
地元の間伐材に新たに命を吹き込み木の温かみを多くの人に広めています。