5月19日、タワーマンションからの転落に巻き込まれ、男性が死亡する事件が発生。
さらに、
「泥団子直撃で記憶力低下」
「包丁を投げ捨てたか」
高所から物が落下する事件やトラブルが相次いでいる。
一方、「うっかり」で、誰でも加害者になるかもしれない。
「物の落下」による想像を超える衝撃について取材した。

■たまたま通りかかったら… タワマン43階からの転落が招いた偶然の犠牲
事件が起きたのは、5月19日だった。
記者リポート:大阪市北区の現場です。こちらのタワーマンションの100メートルを超える高さから人が転落し、自転車で走行していた男性が巻き込まれました」
大阪市北区にあるタワーマンションで、43階に住む男性(70)が自宅から転落。下をたまたま自転車で通りかかった男性(59)が巻き込まれ、2人は死亡した。

男性が転落したマンションのベランダから下を見てみると…(※転落した階層とは異なります)
記者リポート:人通りもあって、車も多く通っている状況です。
マンションの住人は…。
マンションの住人:びっくりしましたね、本当に。結構、通るんですよ人が。

■繰り返される「空からの悲劇」 防止策の限界と向き合う現実
高所からの転落に通行人が巻き込まれたケースは、過去にもあった。
2020年には、大阪梅田の商業施設「HEP FIVE」の屋上から男子高校生(17)が飛び降り、路上を歩いていた女子大学生(19)が巻き添えとなって死亡した。
建築基準法では、2階以上にあるバルコニーなどには、一定以上の高さのある柵や手すりを設置することを定めているが、専門家は、対策にも限界があると指摘する。
仙台大学 田中智仁教授:(転落を)ゼロにすることはできないと考えています。リスクをゼロに近づける努力は必要だと思うが、いわゆる想定外、完全に防ぐことは無理だろうと思う。

■「空からの凶器」 防カメが捉えた命の危険と紙一重の瞬間
さらにには5月21日には、路上に刃物が落ちてくる事件もあった。
関西テレビが独自入手した、防犯カメラの映像には、道路を歩く3人組が写っている。突然、後ろを振り向き、さらに上を気にする様子がみられる。
実はこの時…、【通報】「ナイフが落ちてきた」。
警察によると、落下してきたのは、全長29センチ、刃渡り16センチの包丁。何者かが、投げ落とした疑いがあるということだ。
記者リポート:包丁が落ちたとみられる場所は、道を歩いていた3人組からわずか10メートルほどしか離れていませんでした。
現場近くで働く人:物騒やなと思いました。まさかこんな近くで、こんなことが起きるとは思わなかった。

■泥だんごが招いた悲劇 男性に記憶障害の後遺症
また、思いもよらぬものの落下が、重大な結果を招いたケースもある。
4月15日、熊本市のマンションで、50代男性の頭を直撃したのは、「泥だんご」。
小学生の男の子が投げたということで、男性は頭を大けがをした。さらに、記憶力の低下もあるということだ。
相次ぐ、避けようのない「物の落下」について、街で聞いてみたところ…。
(Q.普段、気をつけて歩く?)
街の人:しません、しません。高いなとかね、たまに見るぐらい。
街の人:難しいですよね、上から落ちてくるっていう分には。ずっと上見とくわけにもいかないし。
一方で、
街の人:(子供が)おもちゃ持ってるんで、手を出してみたりとかするんで、ちょっと危ないからという感じで止めたりはする。
街の人:窓から外見てたりしたら、結構スマホ落としそうになったり。
一瞬の“うっかり”が、大きなトラブルを招いてしまう恐れもある。

■たった276グラムが44キロの衝撃に 科学が証明する“うっかり落下”の恐怖
取材班は、衝撃工学を専門とする立命館大学の渡辺教授をが訪ねた。
立命館大学理工学部 渡辺圭子教授:衝撃力は質量、衝突速度に比例して大きくなる。
仮に、スマートフォンを落としてしまったら、その衝撃力はどうなるのだろうか?
立命館大学理工学部 渡辺圭子教授:スマートフォンの質量を276グラムとして計算します。
ビルの15階ほど50メートルの高さから落とした場合。
立命館大学理工学部 渡辺圭子教授:(高さ)50メートルのところで衝突速度が時速56キロ程度、衝撃力を質量で考えると約44キロが上から落ちて、ぶつかったことになる。
276グラムのスマートフォンが、160倍のおよそ44キロの衝撃を与えるという結果になった。

■実験映像が暴く落下物の破壊力 “うっかり”では済まない法的責任
実際に、「落下物」の衝撃力を示す映像がある。
40メートルの高さから、水の入った2リットルのペットボトルを落とすと、コンクリートに激しくぶつかり一瞬で破裂。落下地点から11メートル離れた場所まで飛び散ったた。
さらに、厚さ5ミリのベニヤ板に落下させると。真っ二つに割れた。
渡辺教授は、「泥だんごやスマートフォンなど、小さなものでも硬さなどが影響し、想像以上の衝撃を与える可能性がある」と指摘する。
立命館大学理工学部 渡辺圭子教授:質量と衝突速度だけで考えがちなんですが、硬いか柔らかいかもすごく(衝撃力に)影響します。
思いもよらぬものが、“凶器”になりかねない「落下物」。
「“うっかり”では済まないケースもある」と専門家は指摘する。
上原総合法律事務所代表 上原幹男弁護士:民事事件として不法行為損害賠償責任を負うことは十分にあり得る。重いけがになってくると、(賠償額が)100万円単位を超えることも。
危険な落下物で加害者にならないために、日ごろから注意が必要だ。

■物を落としてけがをさせると「過失傷害」に問われる可能性も
被害者になることも加害者になることもあり得る危険な「落下物」。“うっかり”であっても罪に問われる可能性もあるという。
マンション管理士の山崎一成さんによると、バルコニーから植木鉢を落としてしまったという例などがあるということだ。
上原幹夫弁護士によると、物が落ちて下にいる人がけがをした場合、「過失傷害」に問われる可能性があり、30万円以下の罰金または過料が課される。ただしベランダにあるものを固定するなど対策をしていれば、過失傷害にならないケースもあるということだ。
高いマンションからの落下物の衝撃は、落ちたものの重さの100倍以上にもなることがあるということだ。

■「社会問題、都市問題だ」と鈴木哲夫さん
マンションの落下物の問題について、ジャーナリストの鈴木哲夫さんは、「社会問題、都市問題だと思う」と話した。
ジャーナリスト 鈴木哲夫さん:大げさな言い方かもしれないけれども、僕は社会問題、もっと言うと都市問題だと思う。なぜかというと、大阪も、東京も、地方の主要都市でも、いわゆるタワマンがたくさん立っているわけです。そうなれば当然上から物が落ちてくることが出てくるわけです。
ジャーナリスト 鈴木哲夫さん:建築基準法の話もありますが、例えば災害があったときの避難経路の問題。非常階段があるけれど、一人暮らしの高齢者が上の方の階に住んでいると、非常階段をおりてこれません。そういう意味で建築基準法を変えて、例えばスロープにするとか。
ジャーナリスト 鈴木哲夫さん:高層マンション、タワーマンションの時代に入ってきている、だから気をつけなきゃいけない落下物とか構造上の問題とかは、本当に社会問題ですよと、僕は提言すべきだと思うんです。これやっぱり行政が取り組まなきゃだめです。
高層マンションが立ち並ぶ今の時代に合わせた意識改革、ルール作りが必要になるのではないだろうか。
(関西テレビ「newsランナー」 2025年5月28日放送)
