2018年までオリックス・バファローズに在籍していた吉田雄人さん(30)が、故郷の北海道・森町に戻り、森高校野球部を復活させ監督に就任しました。
引退後、紆余曲折を経て第2の人生を歩み始めた吉田さん、野球部を復活させるまでの歩みを追いました。
■エリート街道を歩んだ高校時代とプロの壁…「野球から離れたいと思っていた」
吉田さんは北照高校時代、俊足好打の外野手として甲子園に出場、松井裕樹選手(サンディエゴ・パドレス)や、森友哉選手(オリックス)らと共に、高校野球日本代表にも選ばれました。高校球界のエリート街道を歩んだ吉田さんは2013年にオリックスからドラフト5位に指名され入団しました。
将来のレギュラー候補として期待された吉田さんでしたが、当時のオリックスは吉田正尚選手(レッドソックス)、糸井嘉男選手など日本を代表する外野陣ばかり。「プロはフィジカルも技術もすごい、同期もポテンシャルが高くて、『どうやって生きていこう』と思いました」と、プロのレベルの高さに苦しむ日々を送りました。
そして、プロ通算1安打に留まり2018年に引退。
吉田さんは当時を振り返り、「心が折れ、野球から距離を置きたいと思っていた」と語り、その後、関西のテレビ制作会社で働く事になりました。
■オリックス優勝で動かされた心、「ゼロから復活したら面白い」野球部復活を目指し帰郷
吉田さんがテレビ制作会社で働いていた2021年、オリックスがリーグ優勝を果たします。所属していたチームの大躍進に「勇気をもらえました。『自分も腐っていたらダメだ』と思いました」と、心を動かされ北海道に戻りました。
その後、札幌でパーソナルジムのトレーナーや、母校・北照高校のコーチをしていた時に森高校野球部が2021年に廃部となった事を知り、「ゼロからの復活に挑戦するのも面白いのでは」と一大決心。森町の地域町おこし協力隊となり野球部復活を目指しました。
■存続危機の高校の起爆剤に。町の人たちが野球部復活の取り組みをサポート
とはいえ、少子高齢化で人口が減り続けている森町。森高校の入学生徒数は2024年、初めて20人を切りました。
吉田さんから野球部復活の相談を受けた脇澤潤一教頭は「高校が存続できなければ経済的にも町の活力が失われる。何かしなければならないと高校も思っていた」と野球部復活の活動を歓迎しました。
地元の企業も荒れ放題だったグラウンドを無償で整備してくれました。
吉田さんの中学時代に所属していたチームの先輩も生徒たちを受け入れる寮作りを手伝ってくれるなど、様々な人たちが吉田さんの活動をサポートしてくれました。
■町外から4人が森高校に入学 「甲子園で勝つことを目標に」吉田監督が夢舞台目指す
そして2025年4月。野球部に入るために4人の生徒たちが森高校に入学してくれました。4人は町外からの入学。吉田監督の活動を知り、森町での生活を決意しました
隣接する八雲町から入学した管井裕哉くんは朝6時に起きて通学。札幌からやってきた三上陽斗(ひなと)くんは「吉田監督は元プロで知識も豊富、少しでもレベルの高いところで野球がしたかった」と入学した理由を語りました。
選手たちは、八雲町から通う管井くん以外は寮生活。
去年長男が生まれたばかりですが、吉田さんは寮監として、ほぼ毎日寮で寝泊まりをします。
「早いうちに森高校の単独出場をしたいと考えています」と、目標を語った吉田さん。
メンバー4人の森高校は、春季大会で八雲高校との連合チームで出場しました。
「来年度も新入生に入部してもらい、甲子園で勝つことを目標に活動していきたいです」と自身も出場した甲子園を目指します。
■第2の人生で向き合った過去 「いずれは森町に来てほしい」尊敬する先輩との再会目指す
現在、オリックスには吉田さんと同学年の若月健矢選手(2013年・ドラフト3位)や、宗佑磨選手(2014年・ドラフト2位)など”年齢の近い”主力選手が多数います。
元チームメイトの活躍に「現役時代はライバルだったので、純粋に喜べない部分がありました」当時の感情を明かしました。
ただ今は違います。「新しいチャレンジを始めて、素直に彼らに負けたくないと思えるようになりました。ステージは違うけど、彼らには胸を張って話ができるような取り組みをしていきたいと思います」
特にオリックスで仲が良かった選手について聞くと「T-岡田さん(オリックス・球団アンバサダー)には入団直後から可愛がってもらいました。食が細かったので、何度もごちそうになりました」と2024年に引退したスター選手との思い出を語りました。
T-岡田さんとは引退後も家族ぐるみの付き合いが続いていました。「色々な相談をさせていただきました。プロ野球のコーチは技術的なことを教えてくれるけど、人間的なところは言われることはあまりないけど、T―岡田さんはそこもしっかり教えてくれて、怒ってくれました」
「いずれは森町に来てほしい」と、尊敬する先輩との再会を心待ちにしています。