元交際相手の女性の遺体を 遺棄した疑いで男が逮捕された事件。
ストーカー被害を訴えていたという女性を救うすべはなかったのだろうか。
去年12月、行方不明となり4月30日、川崎市にある白井秀征容疑者(27)の自宅から遺体で見つかった、岡崎彩咲陽さん。バッグに入れられ一部、白骨化した状態だった。
その3日後、警察は行方をくらましていた白井容疑者がアメリカから帰国したところを任意同行し、死体遺棄の疑いで逮捕した。
神奈川県警によると、岡崎彩咲陽さんは去年9月、「白井容疑者から殴られ、蹴られ、ナイフのようなもので脅された」と被害届を提出したものの、翌月には一転、「大げさに話した」などとして被害届を取り下げていた。
行方が分からなくなる直前、彩咲陽さんは警察に9回に渡って、「白井容疑者がうろうろしている」と通報するなど、ストーカー被害の相談をしていた。
なぜストーカー行為は認められなかったのだろうか。関西テレビ「旬感LIVEとれたてっ!」では、元検事でもある住田裕子弁護士、ジャーナリストの岸田雪子氏、関西テレビの加藤さゆり解説デスクが、ストーカー事件の特徴や被害にあった場合の対応などについて解説した。

■警察への通報9回も警察は「ストーカー被害の相談を受けてない」
彩咲陽さんから警察への9回の通報内容
・去年12月の9日、午後6時35分そして午後7時7分 「家の周りをうろついている」
・10日 午前5時6分 「元交際相手に自転車を盗まれた。返してほしいが電話に出ない」
・11日 午後0時49分 自転車の盗難に関する内容だったのではないか
・12日 午前4時14分 「元交際相手がうろうろしているので怖い。自宅周辺をパトロールしてほしい」
・16日 午後2時7分 自転車盗難に関する被害届を受理、その手続きに関することか
・19日 午前10時10分 受理した被害届に誤りがあり、警察からの電話に対し折り返し
・19日 午後9時52分 署内に生活安全課員がいるかを確認
・20日(彩咲陽さんが姿を消した当日) 午前7時10分 署内に生活安全課員がいるかを確認
これに対し、警察の対応は、彩咲陽さんの自宅周辺に警察官を派遣。そして容疑者である元交際相手がいれば、職務質問すると説明されていたようだ。また危ないので自宅に居るよう防犯指導し、パトカーで捜査や警戒を実施しますということだ。
「元交際相手がうろうろしている」という通報を受け、出動はこの1回のみ。この時、不審者の発見には至らず。
これまでの一連の対応について、警察発表によると、「被害者からストーカー被害の相談を受けたという認識はない」
青木源太キャスター:警察の認識と、被害者家族の皆さんの認識が違う部分でもあります。

■「うろつきがあったら署に来るように」…「むしろ警察官を派遣するべき」では?
ジャーナリストの岸田雪子さんは警察の対応について「むしろ危険なわけでありえない」と指摘した。
岸田雪子さん:ご家族とおっしゃっていることとは事実関係そのものが食い違ってる点かと思います。被害の相談を受けて無いと言っても、『うろついてる』という通報が複数回あったことは実態なわけですよね。
我々この映像(白井容疑者がうろつく姿)を見てますけれども、これ警察にどういうふうに提出されたのか、してないのかわかりませんけれども、もしこの時には警察は、『署の方に来るように』と彩咲陽さんに話をされていたようなんですが、うろつきがある時に外出をするってことは、むしろ危険なわけでありえないと思うんですよね。
対処の1つの大きな間違いは、ここにもあると思うんですが、警察官をむしろ派遣するべきだったし、そうすればこの映像なども、もっと詳しく情報も得られた可能性があるんじゃないかなと。
そういう意味では『ストーカー被害です』っていう明確な言葉が、もし本人からなかったとしても、『もしかしたらこれストーカーなんじゃないか』という疑いを持って、より踏み込んだ関わりをもっとできた部分があったんじゃないかなというのは、非常に悔いが残ると思います。

■警察の対応は適切なのか? 「現認するのが警察の仕事」と厳しく指摘
住田裕子弁護士は警察の対応について「生活安全課のパトロールは仕事、なぜやらなかった」と疑問を呈す。
住田裕子弁護士:私が関与して来た案件であれば、1回うろうろしてるところを見たら、もう連日順番に日々、時間帯を変えてパトロールしてくれるんですよね。ですからこれがないこと自体、うろうろしている姿をビデオで出す前に、録画する前に、警察は現認できるような状況、『今来てます!じゃあすぐ来てください』って、やらなくてはいけなかった。
青木源太キャスター:なぜ警察はそのような対応しなかったのでしょうか?」
住田裕子弁護士:不思議ですね。っていうのは、その前に警察というのは、どういう形で被害届を受けたかっていう。生活安全課であればストーカーとか、それから刑事であれば、『傷害事件がありました』、『DVで怪我をしました』、『脅迫されました』という被害届をしっかり出していて、それに対しての動きという両方あるわけです。
生活安全課だったらパトロールに関して、やるのが仕事です。私から言わしたら。それをやらなかったっていうことが、不思議でならないですね。

■被害届の取り下げが警察の判断に影響か
青木源太キャスター:被害届に関しては、去年の9月に提出されて10月にいったん取り下げられています。この取り下げたということが、警察の動きに何か影響を与えたことありますか?
住田裕子弁護士:これが逆に大きかったと思うんです。要するに、この女性被害者がいい加減なこと言ってる、本気じゃないのかっていう、『本気ではない』という心証を与えてしまった可能性があるんです。
ですからやはり被害届を出した後は、取り下げるんだったら脅されたのかとか、今どういう状況なのかっていうことについても、警察は注視すべきだったと思います。実際その後エスカレートしたわけですから、この被害届が被害者の真意からだったのかどうかっていうのは非常に疑わしい案件だと思います。
関西テレビ 加藤さゆり報道デスク:警察にとってみれば、被害届が取り下げられたこと、しかも復縁をしてるじゃないかという所をだけを捉えられてしまうと、結局、男女の“通常の痴情のもつれ”じゃないかと判断をされてしまったかもしれません。
一方で、私が取材してるDV被害者のお話を聞いてると、男女間の間にも色々あるわけで、例えば男に女性が支配関係にあるとか、もうすでに何も言えないような状態になっていたりすると、被害届を出したことがバレた時点ですごく怒られたりとか、それによって報復を受けることを恐れると、『じゃあなかったことにします』みたいな形で、取り下げるケースって少なくないんですよね。

■警察は「取り下げさせられた」可能性を視野に対応を
青木源太キャスター:取り下げさせられている可能性がある?
住田裕子弁護士:ストーカーとかDVの被害者の1つのパターンは、相手の言いなりになる、従順になってしまうんですね。ですから“社会的な目”じゃなくて、“男の目”を見てそれに対応してしまうっていうことなんで、逆に警察はそういう目で『彼女が本気で被害届は取り下げたんじゃないんではないか』という、別の観点から調べるべきで、そこらへんの認識が、非常に甘いと思います。
関西テレビ 加藤さゆり報道デスク:日頃から本当にたくさんの案件扱ってるから、大変なのは分かるんですけども、一方で、もう1つ踏み込んで、その人たちの間に何があるかっていう所まで、向き合う姿勢があったかどうかっていう所も今回、問われるんじゃないかなと私は思います。
青木源太キャスター:容疑者への取り調べと並行して、警察の対応がどうだったのか、通報に対してどう動いたのかとか被害届が提出された時、取り下げられた時にどういうやりとりがあったのかっていうのを、ちゃんと説明して欲しいですよね。
住田裕子弁護士:そして今後のためには、被害者に対してどういうケアをするかっていうことをやらなくてはいけなくて、警察が動いてくれなかったから、親族は一生懸命やってらしたんですけど、あと第三者的なそういう意味で、DVの被害者がどっかに逃げるとか、シェルターとか、そういう所は色々ありますから、そういう心理の専門家もよく話を聞いていただいて、もういっぺん『被害届があるなら出す』と毅然とした態度が欲しかったですね。

■もし被害に遭ったら「1人で抱え込まないで」
ストーカー被害に遭ってしまったら、どういう対応ができるのだろうか。
関西テレビ 加藤さゆり報道デスク:まず被害があった場合、例えばたたかれたみたいなことがあったら、これは暴行ですから、その時点で警察に通報していただきたいですが、中には『やっぱりまだ怖いな』とか、警察に言うこともはばかられるという方がいらっしゃれば、法務局の方で女性の人権ホットラインとか、民間のシェルターもありますので、色んな人の手を借りてもいいと思います。ご自身で一人で抱え込まないで、とにかく色んな所に通報窓口があるっていうことを覚えておいていただきたいと思います。
被害の深刻・援助の申出:110番通報または最寄りの警察署へ
女性の人権ホットライン(ストーカー・暴力などの相談):0570-070-810
民間シェルター:一時保護、相談への対応など被害者の援助を行う施設
(関西テレビ「旬感LIVEとれたてっ!」2025年5月6日放送)
