東海テレビニュースONEでは、シリーズで「SNSな人々」をお伝えします。いまや“社会そのもの”といっていいほど私達をとりまいているSNS。そんな時代を「うまく生きる」ヒントをさまざまな人の声から探ります。
SNSを通じていま、気軽にプロの指導を受けられるようになり、子供たちの可能性が広がっている。
■“ボルト超え”目指す3年生が師事する「SNSコーチ」
名古屋市の小学3年生、青島達器くんはこの日、リビングの壁に手をついて「腿上げ」をしていた。

達器くんの夢は、人類最速のスプリンター、「ウサイン・ボルト」を超えることだ。

近所の公園にも全速力で向かい、さっそく練習と思いきや、ベンチに座ってスマホを見始め、そして、LINEの画面を見ながら体を動かす。

母親のLINEに送られてきたのは、いつでもどこでも「速く走るためのアドバイス」をくれる「SNSコーチ」からのメッセージと動画だった。

達器くんの母 瑞希さん:
どうやってやれば近づく?膝どうなってる?
達器くん:
曲がってる。
達器くんの母 瑞希さん:
曲がってるよね、着いてるよね、床にね、ほぼほぼね。
そして、動画でお手本が送られてきた「ランジ」という下半身の筋肉を鍛えるトレーニングを実際にやって送り返すと、およそ20分後、SNSコーチから返信が来た。

SNSコーチ:
上手くできています!次はもう少し足を高くあげてみましょう。
■対面よりもそれぞれにあったアドバイスができるSNSコーチ
達器くんの練習をLINEでサポートしていたのは、名古屋在住の現役陸上選手、長谷川大竜(たつる)さんだ。

「俊足塾」の長谷川大竜さん:
動きだったりとか癖だったりとか見て、走りの改善ができるんじゃないかって始めたのがきっかけですね。
対面での教室「俊足塾」を運営しながら、いまは広島、鹿児島など各地に散らばる30人ほどの子供たちを月々1500円で指導している。

長谷川さんはSNSには対面の教室と違って、ひとりひとりに合ったアドバイスができるメリットもあるという。

「俊足塾」の長谷川大竜さん:
入っているクラブチームでは、どうしても人数が多くて、その子に合った走りがなかなか教えてもらえない。環境がちょっと難しいというところで、その子に合った走りを実際にアドバイスをしたいなと、オンライン指導を始めた。
“ボルト超え”を目指す達器くんは、対面の指導も受けながら、1年で50mのタイムが1秒縮まった。

達器くんのように、SNSをコーチとして頼りにする子供たちが増えている。
■指導者不足の競技ではそれぞれにメリット
埼玉県川口市の「川口東高校」の弓道部でも、SNSコーチが悩みを解決している。

顧問の鈴木三奈美先生は、もともと弓道の経験がなかったことから、指導法についての悩みがあったという。

川口東高校弓道部の顧問 鈴木三奈美先生:
私自身が技術面の指導があまりできないことを、普段からどうしようかなと考えていた。そもそも私は弓道を学生時代にやっていなかったんですよ。
学生時代は吹奏楽をしていたという鈴木先生。この学校には、弓道の経験を持つ指導者がいなかったため、これまでは上級生が後輩を教えるなどしていたが、2024年10月から「SNSコーチ」が加わった。
部員同士で矢を射る動きを撮りあい、矢が刺さった的の写真も撮影し、LINEで「コーチ」に送信すると、返事が送られてくる。

川口東高校弓道部の上原奏人部長:
(評価は)それぞれの動作の出来具合。弓を持つ時の手の形が、回した時にずれてしまう癖があって、それでまだ直しているところで、☆☆になっている。

「足踏み」「弓構え」などの項目ごとに5段階の評価と、手の動かし方などのアドバイスが送られてくる。
川口東高校弓道部の上原奏人部長:
弓を持つ時の手の形の改善方法を指導してもらって、結構変わりました。

生徒が、技術の悩みを送ることもある。「弓を上手に持つのが難しい」とメッセージを送ると、SNSコーチから、画像と共に「手の形はこうしてみましょう」と返事があった。

川口東高校弓道部の鈴木ゆうなさん:
詳しく写真で見られるので、自分でも見返せるし、また意識できる。

競技人口が少なく、指導者不足に困る子供も多い。この弓道に特化した「SNSコーチ」のサービスを始めたのは、名古屋市のスタートアップ企業「Beat me(ビートミー)」だ。

社長の小原田和恵(こはらだ かずえ)さんは、中学、高校、大学で全国優勝した実力者で、引退後は弓道に関わる機会がなかったが、同じような6人の経験者とともに3カ月6600円から、全国の個人やチームを、SNSで指導するサービスを考案した。

「Beat me」の小原田和恵社長:
スマホ一つで自分が空いた時間に指導ができる。私達の方にもそうですし、学生さん、顧問の先生3者にメリットがある。
■元プロならではのアドバイスやアスリートのセカンドキャリアにも
Jリーグの「モンテディオ山形」でフォワードとして活躍した根本亮助さんも全国の子供たちに“プロならでは”のオンラインレッスンをしている。

元Jリーガーの根本亮助さん:
プロ選手でしかわからないような、セオリー外でも「こういうプレーが生きるよ」みたいな。実際プロで点を取ってきた経験を伝えているので説得力はあると思う。

元Jリーガーの指導を、全国の子供たちに届けられるSNSの活用は、アスリートのセカンドキャリアの選択肢も広げている。
元Jリーガーの根本亮助さん:
せっかくなので、いろいろな方に自分のサッカー選手時代の経験をお伝えしていきたいので、日本全国の子供たちにサッカー指導できるっていうのがいい点だと思いますね。セカンドキャリアとしても十分成り立つ。
■親には不安も…子供は学びにYouTubeを活用
スポーツだけではない。ボルト超えを目指す陸上少年、達器くんの姉、楓さんは「デザイナーになる」という夢に向けてSNSを活用している。

達器くんの姉 楓さん:
美術の絵の描き方をYouTubeで調べたり。描き方を真似してどんどん描いていく。
YouTubeをお手本に、鉛筆とカラーペンで丁寧に描く。1年前に描いた絵と比べると、影や立体感の表現が上達していた。

楓さん:
(学校の)美術の先生とかは、会えない時とかあるから動画で見られることはいいなって。
ただ、母親には少し心配もあるという。
達器くんの母 瑞希さん:
キッズ(用の設定)にしてしまうと陸上が見られなかったりとか、やっぱりそういう差があるので一般のを止めるわけにいかない。グロ系な動画も流れてちゃうんですよね、YouTubeで。そういうのを見るのは「うーん」って。どうなんだろうなって。

上手な付き合い方を試行錯誤しながら子供たちはSNSコーチとつながり、可能性を広げているようだ。
2025年4月16日放送
(東海テレビ)