およそ50日後に迫ったアメリカ大統領選挙を大きく左右しかねないファクターが、「郵便投票」だ。新型コロナウイルス感染対策のため、前回の2倍近い8000万人の有権者が、11月3日に投票所に行かず、事前に郵送で投票を済ませると予想されている。

郵便投票の開始と締切り、開票は州ごとに違う上に、手作業での開票となる。投票用紙の郵送や回収の遅延も含めると、混乱は避けられない見通しだ。また、郵便投票が増えると不利になると見られているトランプ大統領は、「郵便投票によって不正な投票が増える」と批判的だ。

そもそも、郵便投票とはどういうものなのだろうか?私たちは、全米で最初に郵便投票がスタートした、ノースカロライナ州に向かった。激戦が予想される州のひとつだ。

9月4日に投票用紙の発送が開始されているが、これまでに州内での申請は75万人を超えていて(11日時点)、4年前の15倍にあたる。予想より多くの人が申請したからか、発送にはかなり時間がかかっているようで、まだほとんどの人の手元には届いていない。こうした中、投票用紙が届いた女性が取材に応じてくれた。

コロナ禍で・・・「確実に投票できる方法を」

州内最大の都市、シャーロットに住むリサ・エルズワースさん。自宅の前に「バイデン・ハリス」と書かれた看板を立てている。バイデン大統領とハリス副大統領の誕生を望む、野党・民主党のコアな支持者だ。

これまでの選挙では投票所に行くことを欠かしたことはない。選挙日当日は投票所でボランティアをすることが多いため、事前に不在者投票をしたことはあるが、「郵便投票」は初めてだ。

エルズワースさん:
「本当は投票所に行くほうが好き。愛国心を感じられるし、国民の義務を果たしていると感じられて、わくわくするの」

そう語るエルズワースさんのマスクには「VOTE(投票しよう)」の文字がデザインされていて、首元にも「VOTE」のチャームがついたネックレスが輝いている。ミシェル・オバマ前大統領夫人も民主党大会で、同じ「VOTE」のデザインのネックレスをつけていた。

マスクとネックレスには「VOTE」の文字

郵便受けに“リターン”?「自宅完結型」投票

実際に、投票がどのように行われるのかを見せてもらった。選挙管理委員会から届いた封筒を開くと、投票用紙と、郵便投票のルールが書かれた説明書が数枚。投票用紙は「大統領」だけでなく、「上院・下院議員」「知事」「司法長官」など選ぶ項目がずらりと並ぶ。

すべてマークシート形式で、学生時代に受けた試験を思い出した。わからない問題があると、「さっきから①ばっかり選んでいるから、②にしておこうかな」などと当てずっぽうで回答した記憶がわき上がったが、頭から振り払う。これはアメリカの大統領を選ぶ投票用紙なのだ。

ノースカロライナ州の郵便投票用紙

説明書を隅々まで読んだエルズワースさんは、「隣に証人を座らせなければいけない。しかし、その証人は、記入した投票用紙を見てはならない」というルールをきちんと守り、夫を呼んで、その通りに記入していた。(同じ部屋に証人以外がいてはいけないということで、我々取材クルーはその間、一度退室した)

記入が終わり、封をする。そして本人と、証人である夫が署名をするが、これも一回ずつだ。つまり、「マークシート」を記入する以外は、本人署名と、証人の署名のみでそれ以外に記入するところはない。州によっては署名は事前の登録が必要で、開票の際には本人のものかどうか照合し確認するところもあるという。作業はものの数分で終わった。55セント(およそ58円)の切手は自分で用意しなければならない。

記入直前、真剣に考えるエルズワースさん

さて、投函だ。封筒を持ったエルズワースさんについて行くと・・・自宅の郵便受けに“戻して”いるではないか。

「この地域は、郵便受けに入れておけば、郵便物を回収してくれるシステムなの」という。

アメリカの郊外の自宅のポストは、自分宛のものが配達されるだけではなく、他人宛の郵便物も、郵便職員が回収してくれるため、郵便投票は文字通り、「自宅の敷地から一歩も出ずに完結」することができる。これは外出を控える“コロナ時代”に向いている仕組みだといえよう。

自宅の郵便受けに”投函”すれば投票完了

不正は起きるのか?20年以上「郵便投票のみ」の州も

非常に簡単な郵便投票ではあるが、冒頭で述べたように、トランプ大統領は「不正が起きかねない」と再三懸念を示している。考えられる理由としては「他人へのなりすまし」が可能なことや、郵便投票を済ませた人が投票日に投票所に行き、“投票済み”が確認されない場合、「二重投票」の恐れがある。

しかし、あまり知られていないが、コロナ以前から「100%郵便投票のみ」を採用していた州もいくつかある。その一つがオレゴン州で、1998年以降選挙の方法は郵便投票のみ、というやり方をとっている。州の担当者に取材すると「オレゴン州では不正投票を防止する高いセキュリティ対策をとっていて、不正投票が起きるケースは非常に稀」と自信を示した。

一方、ノースカロライナ州の郵便局で取材をしていると、ある女性が答えにくそうに、こう話してくれた。
「私は郵便投票しないつもりなんだけど・・・実は郵便局に来たついでに、同僚の郵便投票用紙を投函しにきたのよね。頼まれて。」

実はこれは違法行為。州の選挙管理委員会のHPを見てみると、投函を他者に依頼していいのは、家族か近しい親族のみだ。「郵便局行くの?ちょっとついでに出してきてよ」という程度で故意ではないだろうが、こういった違法ケースはおそらく多いと予想される。

共和党支持者も「苦渋の決断」で郵便投票

同じ郵便局で取材していると、別の年配女性に出会った。郵便投票の“申請用紙”を投函しに来たという。

「理由はコロナよ。私も夫も高齢だから、家から投票することに決めたの」

ーー郵便投票の申請は、もっと前からできたと思うんですが、なぜ今申請したんですか?

女性:
「投票日に直接投票するかどうか、かなり悩んでいたの。だって、郵便投票って不正が起きるでしょう?私はアメリカのいろんな州に住んだ経験があるってけど、絶対、不正が起きると思っているの!でも、今回は健康のことを考えて・・・仕方なく郵便投票にしたわ」

ーーちなみに、あなたは誰を支持していますか?

女性:
「私たちは共和党支持者よ!もちろんトランプ大統領に投票するわ」

共和党支持者の女性も”しぶしぶ”郵便投票を選択

なるほど。前述の民主党支持者・エルズワースさんは「不正があっても、選管のシステムがきちんと機能する。不正が多いというのはデマだ」という信念を持っていたが、この共和党支持者の女性はトランプ大統領の影響か、「郵便投票=不正の温床」という真逆の認識を持っている。

投票所に行くよう求めるトランプ大統領の呼びかけにもかかわらず、彼女は郵便投票をするという“苦渋の決断”をした。それくらい、「コロナ」を懸念する有権者が依然多いのが実情だ。「共和党支持者で郵便投票を選択する人は、比較的少ない」という仮説は、蓋を開けてみるまでわからないかもしれない。

新型コロナウイルスの影響で、不確定要素が目立つ今回の大統領選。郵便投票という、人々の投票行動そのものを変える選択は、トランプ大統領とバイデン候補のどちらに風を吹かせるのか。そして、結果判明の遅れなども含め、波乱の11月はすぐそこだ。

【執筆:FNNニューヨーク支局 中川真理子】
【撮影・取材:ムローザ敏男/ディエゴ・ベラスコ】