日本における不登校は年を追うごとに深刻化する中、小中学校で不登校を経験した生徒や長期欠席が理由で高校を中途退学した生徒を支援するチャレンジスクールである、東京都立世田谷泉高校では、2024年10月から不登校の生徒が遠隔授業や通信教育を活用して、学習できる取り組みを導入した。

そのきっかけとなったのは、2024年4月に施行された学校教育法施行規則の改正と関連通知の改正だ。これにより不登校生徒に対して、遠隔授業や通信教育で36単位まで履修できるようになった。このことは、不登校支援が従来の学校復帰を前提とする取り組みから「登校のみを目標とせず、社会的自立や学びを支援する取り組み」に転換した流れに沿ったものといえる。

しかし実施するのは容易ではない。ただでさえ、長時間勤務が多い教職員に、通常の授業のほかにオンライン授業の実施や通信教育の教材の準備や添削などが課されることになる。

本来ならば、こうした取り組みを担う専門の職員の増員がもとめられているなかでのスタートだった。

「すっかり環境が整ってからではなく、いますぐやるんだ、という感覚が大事」そう語るのは、東京都立世田谷泉高校総括校長の沖山栄一さん。

制度改正が示された後でも、多くの学校が導入に踏み出せない中、オンライン授業実施に向けて現場の教職員たちと何度も話し合い理解を求めた。

沖山さんは、不登校の子どもをもつ保護者の会に時折参加して、不登校の子どもや保護者と直接語り合うことを大事にしている。

今回の取り組みも不登校の子どもや保護者と直接対話をし、「学校に行かずに、家にいる生徒でも学習して単位がとれるようにしてほしい」との声があったことがきっかけとなった。

様々な壁にぶつかりながら、ようやくスタートした単位取得を目指す仕組みではあるが、取り組みを開始した生徒の多くが単位取得にはつながりそうもない結果となっているという。

原因は、本来の時間割と異なる時間設定になってしまったこと、出席確認のために画面に顔を映すことに抵抗のある生徒も多いことなど様々だ。

しかし、沖山さんは、2026年度には、不登校の生徒専用の講座を設けるなどこの取り組みをさらに進化させるべく教職員と共に挑戦を続けるつもりだという。

沖山さんは「『個に応じた指導』と言われながら学校には「同調圧力」が残っていたりする。その多くはこれまでの学校と社会が作ってきたものだ。『それが学校(社会)というもの』であり、世界からも再評価される日本の『学校』だというかもしれない。しかし私は、何であれそうした『学校』になじめず、登校できないことを苦しむ子どもがいるという現実が重要なのだと考える。学校にできることがあるとすれば、仮に登校できなくても、自分に合った方法で学びを継続できる仕組みを作ることだ」と話す。

さらに、沖山さんは「既にたくさんの子どもたちが通信制課程の高校を選択しているだけでなく、週1日~5日の登校日を選択できる通信制高校が人気を集めているという現実は、なかなか変わらない学校制度を横目にもっとフレキシブルな学びや、スクールライフを選択したいと思い始めているのだと思う」と語った。

不登校の理由は、生徒の怠惰や無気力ではない。沖山さんは、登校だけが目標なのではなく、学ぶことが目標であり、登校できないことを苦しませない学校に変えることを目指している。

都立のチャレンジスクールが開設された際に掲げていた「生徒が学校に合わせるのではなく、学校が生徒に合わせる」という理念が再び注目されている。

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大塚隆広
大塚隆広

フジテレビ報道局社会部
1995年フジテレビ入社。カメラマン、社会部記者として都庁を2年、国土交通省を計8年間担当。ベルリン支局長、国際取材部デスクなどを歴任。
ドキュメントシリーズ『環境クライシス』を企画・プロデュースも継続。第1弾の2017年「環境クライシス〜沈みゆく大陸の環境難民〜」は同年のCOP23(ドイツ・ボン)で上映。2022年には「第64次 南極地域観測隊」に同行し南極大陸に132日間滞在し取材を行う。