安倍首相の辞意表明からおよそ2週間。憲政史上最長の7年8カ月という連続在任期間の中で、安倍首相は日本、国際社会そして日本人に何を刻んだのか。トランプ大統領と親密な関係を築いた安倍首相の後を受け、ポスト安倍に求められる外交戦略とは。
今回の放送では櫻井よしこ氏を迎え、安倍政権の評価とともにポスト安倍が歩むべき道筋を掘り下げた。

第一次安倍政権時と今回の辞任はまったく異なる「余力のある」形

櫻井よしこ 国家基本問題研究所 理事長(左)、安倍晋三 内閣総理大臣(画面)

松山俊行キャスター:
今回安倍総理は、きちんと後に引き継げる形で辞意表明をされたと受け取られています。

櫻井よしこ 国家基本問題研究所 理事長:
第一次安倍政権時と比べ、今回の辞任は別人のよう。余力を残して辞める形にしている。コロナ対策に関しては、ワクチンを全国民分きちんと確保して、お年寄りや体の弱い人、医療従事者にまず供給して、その後に順次国民の皆様方へという非常にきちんとした優先順まで決めている。
もうひとつは安全保障。陸上配備のイージス・アショアは停止となったが、日本を狙う国に対して攻撃の兆候が見えた際には予防的に攻撃をする敵基地攻撃能力について。これは憲法上何の問題もないが、政治的に議論を起こすことを恐れず大きな枠組みを作った。健康面での日本国民の安全保障と軍事面での日本国の安全保障、この2つにきちんと手を打った上でお辞めになる形。

辞意表明後、内閣支持率が急上昇した背景

松山俊行キャスター:
辞意表明のあとに安倍内閣の支持率が上がるという現象が起きています。

竹内友佳キャスター:
共同通信社の世論調査によれば、先月22・23日の調査では安倍内閣の支持率は36パーセント。第2次安倍内閣発足後2番目の低さを記録していたたが、辞意表明直後の29・30日の調査では56.9パーセントと20.9ポイントも急上昇している。これをどうご覧になりますか。

櫻井よしこ 国家基本問題研究所 理事長:
いろんな意味で後ろ向きに辞めていく総理が多いが、今回の安倍総理は余力を残して後任への道筋をつけ、国民が「よくやった」ということで20ポイントも上がったのだと思う。
記者会見では、安倍総理は非常に丁寧に礼儀正しく説明した一方、内閣記者会の記者たちがあまりにも非礼だった。意見の相違はあれど、7年8カ月も病を押して務めた一国の総理に対し、一人の記者を除き誰一人として「お疲れさまでした」「ありがとうございました」という言葉がない。質問の内容もチマチマしていて、日本を取り巻く国際環境についても聞かない。
この記者たちの姿を日本国民が見た。支持率の上昇には、こういうつまらない記者たちに囲まれてモリカケや桜の話をしていたのか、安倍総理は気の毒だという同情の気持ちもあったと思う。国民はメディアの報道にだまされない、国民の目は節穴ではなかったと思い、ある意味ではすごく希望を持ちましたね。

安倍政権は国際社会での日本の存在感を強めた

竹内友佳キャスター(左)、松山俊行キャスター(中)、櫻井よしこ 国家基本問題研究所 理事長

松山俊行キャスター:
最近まではコロナ対策で批判も集まり、支持率も低下していた。しかし総理が辞意表明をしたとなると、安倍政権の7年8カ月に渡る実績が改めて評価し直され、その結果が急上昇した支持率に表れているのでしょうか。

櫻井よしこ 国家基本問題研究所 理事長:
他の総理大臣を見ても、安倍さんほどに国際社会の中で日本の立ち位置を強くした方はいない。田久保忠衛氏によれば、中曽根康弘元総理は「国にとって一番恐れるべきことは、国際社会で孤立することだ」とおっしゃっていたそうです。

松山俊行キャスター:
国際社会で日本の存在感がなかなか見えない時代が長かったですよね。

櫻井よしこ 国家基本問題研究所 理事長:
安倍さんはそれを見事に克服して、日本の存在感を出し、孤立どころか国際社会が日本の意見を聞いたり日本の動向を考えるようになった。このようなことをできる政治家がほかにいるだろうか、と多くの人が考えたと思いますよ。

ロン・ヤス、小泉・ブッシュ以上だった安倍・トランプの関係

安倍晋三 内閣総理大臣(左)、ドナルド・トランプ 米大統領

竹内友佳キャスター:
アメリカのトランプ大統領との親密な関係は、2016年11月、世界の首脳に先駆けて次期大統領への就任が決まったトランプ氏を訪問したことから始まった。当時の安倍総理の行動を櫻井さんはどのように評価されますか。

櫻井よしこ 国家基本問題研究所 理事長:
次期大統領をすぐに訪ねて人見知りせず話すことは、なかなかできることではない。しかもトランプさんについて知り、有効なアプローチを頭に入れた上で行っている。会話の運び方まで研究していたことはさすがだと思います。

松山俊行キャスター:
過去の日米首脳の関係では、例えば中曽根総理とレーガン大統領のロン・ヤスの仲、あるいは小泉総理とブッシュ大統領の仲も非常に緊密だったといわれる。それらと比較しても、安倍総理とトランプ大統領の関係には相当特殊なものがあったか。日米関係や日本の他の国との関係で恩恵を得た部分はあったと思いますか。

櫻井よしこ 国家基本問題研究所 理事長:
ブッシュ大統領と親しかった小泉総理はクロフォードの別荘に招かれたが、中国の江沢民主席はそれ以前に招かれていた。アメリカは日米関係も米中関係も重視していた。それに比べると安倍・トランプ間の関係の方がはるかに日本の国益を増進していると思います。
辞任表明後の日米の電話首脳会談でも、トランプ大統領は社交辞令のレベルを超えて「悲しい」と繰り返し述べたといいます。世界最強の国とこのような関係を結ぶことができているということ自体が大事。

菅氏が次の総理となれば日米関係は引き続き強固に

石破茂 自民党元幹事長(左)、菅義偉官房長官(中)、岸田文雄 自民党政調会長

松山俊行キャスター:
安倍政権の外交・安全保障政策の成果や課題を引き継ぐポスト安倍の対米関係は。最有力といわれる菅義偉官房長官は去年5月、自らアメリカに行ってペンス副大統領らと会談をした。しかし外交手腕は未知数だという意見が多い。

櫻井よしこ 国家基本問題研究所 理事長:
菅さんは第二次安倍政権の官房長官。安倍さんを支える一番太い柱です。それをずっと大過なくこなし、色んなところに睨みを利かせて凄みのある官房長官としてやってきた。安倍さんとまた違う形で強固な日米関係を築くことができると思います。またアメリカも、安倍政権を支えたのは官房長官のこの人だということをしっかり見ている。

松山俊行キャスター:
菅官房長官は安倍総理がよく使う「戦後外交の総決算」という言葉を使い「特に拉致問題の解決に全力を傾ける」と発言。新政権では拉致問題にどう取り組んでいくべきか。

櫻井よしこ 国家基本問題研究所 理事長:
北朝鮮の現状を見ると安倍政権の拉致問題解決への政策は正しかった。北朝鮮への密輸・送金を止めるところから始まり、国際社会に働きかけて国連決議をしている。この経済的圧力の結果、金正恩(キム・ジョンウン)政権は困っている。この困っている状況の中から解決に向けた話し合いの余地というものが生まれる可能性がある。今までの政策の延長線上で揺らがずにいけばよいと思います。

松山俊行キャスター:
安倍総理が外交に非常に強いというイメージは世界的に広まっている。今後の役割については。

櫻井よしこ 国家基本問題研究所 理事長:
トランプ大統領や他の国の首脳たちも、日本の政治家に何かアドバイスを求めようとすれば安倍さんに電話をかけてくることも多くあると思います。これからの外交・安全保障について菅さんは安倍さんとの意見交換を積極的になさるはず。安倍総理の辞任後のポジションというものは何も言わなくてもあると思うのがよいと思います。

BSフジLIVE「プライムニュース」9月8日放送