10年前、長野県佐久市で当時中学3年生の男子生徒(15)が車にひかれて死亡した事故の裁判。「ひき逃げ」の罪に問われている男について、最高裁は、無罪とした二審判決を破棄し、懲役6カ月とした一審判決を支持した。事故後、救護する前にコンビニ店に立ち寄った行動を改めて「ひき逃げ」と認定した。

卑劣な行為に妥当な判断

裁判の後、記者会見を開いた和田善光さんと真理さん夫婦。

亡くなった和田樹生さんの父・和田善光さんは「救護義務違反という卑劣な行為に対して極めて妥当な司法判断が下された」と述べた。

亡くなった和田樹生さん(当時15)
亡くなった和田樹生さん(当時15)
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息子の樹生さんの命が奪われた事故からまもなく10年。

最高裁が下した結論は夫婦が望んでいたものだった。

コンビニ立ち寄り…事故直後の行動

2015年3月、佐久市で当時中学3年生の和田樹生さん(15)が車にはねられ死亡した事故。被告の男(52)が、過失運転致死の罪に問われ、有罪判決が確定した。

しかし、両親は納得できず検察に控訴や、「ひき逃げ」での起訴を求めてきた。

被告は事故直後、飲酒運転を隠すため近くのコンビニ店で口臭防止剤を買い、服用していたのだ。

その後、検察は時効を前に「ひき逃げ」の罪で被告を在宅起訴した。

事故現場(2015年3月)
事故現場(2015年3月)

一審は事故後の行動が「ひき逃げにあたる」として懲役6カ月の実刑判決を言い渡したが、二審は「口臭防止剤の購入・服用に要した時間は1分余りで、人工呼吸もしており、直ちに救護義務を怠ったと評価できない」として「逆転無罪」を言い渡していた。

二審の判決後、母・真理さんは、「被害者の生命や身体の保護を全く無視した判決、最低の判決。『こんな国に産んでごめんね』としか言えない」と悲痛な思いを語った。

母「加害者に懲役刑を」

東京高検の上告を受けて最高裁は2024年12月、判決を見直すのに必要な「弁論」を開催。

検察側は「道交法の解釈を誤り、被告の行動を過小評価している」と主張した一方、弁護側は二審判決を支持し、改めて「無罪」を主張していた。

息子の墓に手を合わせる母・真理さん
息子の墓に手を合わせる母・真理さん

2025年1月、判決を前に母の真理さんは、「救護措置義務違反、報告義務違反が認められること、加害者に懲役刑が宣告されること、それを見守っていてほしいとお願いした」と樹生さんに裁判への思いを改めて伝えた。

最高裁で“ひき逃げ逆転有罪”

迎えた2月7日の最高裁判決。

岡村和美裁判長は、事故後、被告がコンビニ店に行った行動を「救護の措置を講じなかったと言え、道交法の義務に違反したと認められる」とした。

最高裁(2月7日)
最高裁(2月7日)

その上で、「法令の解釈適用を誤った違法があり、破棄しなければ著しく正義に反すると認められる」として、無罪とした二審判決を破棄し、懲役6カ月とした一審判決を支持した。

これで、被告の実刑判決が確定することになる。

母「涙があふれました」

判決を受け、母・真理さんは「私は加害者に救護義務違反が認められること、反省の機会が与えられることをずっと樹生にお願いしてきました。その判決が最高裁の法廷で聞くことができ判決を聞いた瞬間、涙があふれました。ようやく被害から回復に向けた一歩が踏み出せる気持ちです」と長年の思いを語った。

和田樹生さんの母・真理さん
和田樹生さんの母・真理さん

父・善光さんは、「事故後、樹生の目は見開かれていたということです。その開いていた目に事件後の被告の行動が映っていたのではと、つい考えてしまう。もし車で人をはねてしまったら、直ちに被害者を救護しなければいけないと徹底されて、今後一つでも多くの命が救われる社会になってほしい」と、今回の判決の意義を語った。

和田樹生さんの父・善光さん
和田樹生さんの父・善光さん

一方、被告の弁護人は、「コメントは控える」としている。

専門家「最高裁として初の判断」

今回の最高裁判決について、刑事訴訟法と交通犯罪に詳しい東京都立大学・星周一郎教授は「『直ちに救護義務を果たさない』ということの意味について最高裁判所として初めての判断。そのこと自体、重要な意味を持った判決。事故の状況によってやらなければいけないことは少しずつ違ってくるわけですけど、いずれも救護に関係のある行動をとり続けなければいけないという判断が示された」と、救護義務についての重要な判断が示されたと解説する。

東京都立大学・星周一郎教授
東京都立大学・星周一郎教授

今後の捜査にも影響か

また、今後の交通事故捜査にも影響があると指摘する。

星教授は「『被害者の救護とは関係ないような行動をとって、ひき逃げと言えないのか』という一般的な感覚を踏まえた解釈になっているので、それを含めた、より丁寧な捜査が求められる。来月で10年ですから、ここまで時間がかからざるを得なかったということで、遺族の方が頑張らないと、こういう判断が示されることもなかったという要素もある。最初からもう少し慎重で丁寧な認定、評価が求められる」と分析した。

(長野放送)

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