冬の寒い日、江戸時代から庶民の防寒着として親しまれてきた「はんてん」。かつては、生産数日本一を誇った老舗のはんてんメーカーも、安価な輸入品の普及などで、売上げは激減している。しかし、アニメの影響などでアメリカやヨーロッパでは、“日本らしい”ファッションとして受け入れられ、老舗メーカーが海外に販路開拓を目指し挑戦している。
懐かしい温かさ「着る布団」
訪れたのは、福岡・筑後市のはんてんメーカー「宮田織物」。店内には、様々な柄のはんてんが、ずらりと並んでいる。

種類が多いので人気のものを尋ねると、社長の吉開ひとみさんが、「男性用では、藍色を基調とした縞のはんてん」と笑顔で答えた。

袖を通すと、どこか懐かしさと温かみを感じる。正に「着る布団」と呼ばれる所以だ。

はんてんには、昔ながらのデザインはもちろん、新しいタイプのものも増えている。若手スタッフが企画した『袖無しのポンチョタイプ』や『襟幅が広く、ふわっと包まれるような着心地のもの』など、室内だけでなく外にも着ていけるようにスタイリッシュなデザインのものも作られている。

はんてん生産数ピークの20分の1
久留米絣の生地作りからスタートした宮田織物は、1913年(大正2年)創業。昭和40年からは、機織り機の入れ替えに伴い、国産のわたを使用した「わた入れはんてん」の生産にシフトした。

1枚1枚手作業でわたを入れ、針の縫い目の大きさを、縫う場所ごとに変えることで、ふんわりと柔らかく包まれるような着心地になる。昭和56年には、自社だけで53万枚のはんてんを作り、生産数日本一になったことも。

しかし、時代が進むにつれ、ファッションの多様化や、海外からの輸入品にの普及で価格競争を余儀なくされ、売り上げは激減。はんてんの生産数は、ピークの20分の1にまで落ち込んだ。
アニメが浸透 海外の販路拡大へ
令和のコロナ禍で、『巣ごもり需要』による一時的な売り上げ回復はあったが、長くは続かず。新たな販路開拓として目をつけたのが、アメリカやヨーロッパなどの海外市場だ。まずは、海外の人に「はんてん」がどれだけ受け入れられるのか、寄付のお礼として「はんてん」などの商品が選べる購入型のクラウドファンディングで“市場調査”を実施。

いざ、クラウドファンディングを試してみると、当初の目標だった30万円を軽く超え、約8倍近い235万円が集まった。内訳をみると、注文はアメリカを初めとする約16ヵ国から入っており、吉岡さんにとっても予想を超える反響の大きさだった。

宮田織物の海外展開をサポートしている会社は、「アニメから伝わる文化が、海外でかなり浸透しているので、日本文化を味わえるような商品。それが『はんてん』だと思う」と分析する。

実際、パリで着物などの和服を販売している店によると、現地の客は、はんてんを試着すると、「カワイイ!歩いていい?」「温かい」などと高評価だという。日本人と違い、「はんてんは、家の中で着るもの」という固定観念が無いので、海外の人には、『日本らしい新しいファッション』として受け入れられているようだ。

“生地の魅力”で海外展開加速を
宮田織物のはんてんは、既にフランス・パリやイギリス、スイスのセレクトショップに商品が卸され、販売されているが、海外展開を更に加速させるべく、サポート会社から「生地」の魅力をもっと生かすことを提案された。

宮田織物は、久留米絣の生地作りから始まった会社のため、保管している生地のデザインは、6000種類以上にのぼる。これらを海外のデザイナーやファッションブランドと連携することで、海外の人達に更に受け入れられる商品が作れるのではというもの。

海外での反響に確かな手応えを感じた社長の吉開さん。今後は、「布団を着ているような温かさ」「はんてん」という言葉が世界に広がり、独特の着心地を世界中の人達に体感してもらえたら嬉しいと事業拡大に強い意欲を見せている。
(テレビ西日本)