先週末、九州地方に接近した台風10号は、多くの自治体で避難指示・避難勧告が出されたが、発令される時間が日中とは限らない。

「令和2年7月豪雨」では熊本県などを豪雨が襲い、球磨川が氾濫。被害規模の大きかった人吉市では、7月4日午前5時15分に全市民に避難指示が発令された。

この熊本のケースのように、もし夜中や明け方に避難指示が発令された場合、気づいた時点で自宅を離れ、避難場所に移動した方がいいのだろうか。防衛大学校地球海洋学科で気象学を専門にしている小林文明教授に、判断に迷う時間帯の避難について聞いた。

避難するかしないかの判断は「天気予報」の情報を参考に

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「夜間に避難指示が出ることは珍しいことではないと、考えた方がいいかもしれません。過去の事例を見ても、夜中や明け方の豪雨・豪雪は、しばしば発生しているのです」

全国各地で記録的豪雨が観測されている今、住んでいる地域でも、夜中に避難指示が出ることはあると考えた方がよさそうだ。やはり避難指示が発令されたら、すぐに避難すべきだろうか。

「夜間、雨が降っている中での避難は非常に危険なので、まずは自宅で待機するべきです。避難するのであれば、明るいうちに行いましょう。避難の判断は、避難指示が出る前にしたいところです」

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つまり、寝る前の判断が重要ということだ。しかし、避難が必要な豪雨になるかどうか、判断するのは難しいのではないだろうか。

「台風なら上陸の3~5日前、発達する低気圧なら前日には天気予報で発表されるでしょう。気象予報士は局所的な豪雨が梅雨の入り始めや末期、上空の寒気渦に伴うことを経験的に知っていますし、天気予報の精度も上がっているので、『このエリアで起こる可能性がある』と、発表できるのです。また、突然の豪雨といっても、積乱雲の発生・発達には時間的な猶予があります。その間に情報をキャッチすることが大切です」

「ハザードマップ」で自宅の災害リスク・地盤の成り立ちをチェック

情報をキャッチすることに加え、自宅周辺の環境を把握することも重要だという。

「豪雨の可能性が高いとしても、そのエリアの全員が避難しなければいけないわけではありません。マンションの上層階に住んでいれば浸水の心配はなく、避難も必要ないかもしれませんが、崖地に近い住まいであれば、土砂崩れの心配があるのですぐに避難した方がいいですよね」

周辺環境を知るためには、自治体が発行している「ハザードマップ」が有用とのこと。インターネット上でも閲覧でき、住んでいる場所の洪水・土砂災害・津波などのリスク情報がわかる。

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「過去の激甚災害の例を見ても、水害に関していえば、ほぼハザードマップ通りに起こっているといっても過言ではないのです。自宅や職場、学校の住所で調べて、川の氾濫や土砂災害に巻き込まれないか確認することで、避難が必要か判断するポイントになるでしょう」

災害対策においては、自治体が提供している情報やハザードマップから、住んでいる土地の成り立ちを知ることも欠かせない。

「地盤の強さは、歴史をさかのぼらないとわかりません。例えば、かつて泥炭地だった場所は、液状化するリスクがあります。2014年の豪雨で被害に遭った広島県安佐北区は造成地で、水が流れ込みやすかったようです。自宅の立っている土地にどのような歴史があるか、できる範囲で調べてみましょう」

天気予報や気象庁の発表などから情報を得たうえで、自宅が被災する可能性があるか判断し、必要があれば暗くなる前に避難する。その行動が、命を守ることにつながるのだ。

「避難指示は地域ごとに発令されますが、リスクは家ごとに異なります。隣の区画とも違うかもしれません。国や自治体の発表だけを頼りにするのではなく、個人の判断も必要です」

「家族や地域との連携」が冷静な判断を導く

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しっかり情報を得たとしても、災害時は不安に襲われ、冷静に判断できない場合もあるだろう。事前にできる準備などはないだろうか。

「自宅の周辺環境をチェックしたら、家族や同居する人と情報を共有し、避難する基準などを話し合っておきましょう。一度でも話していれば、いざという時に行動しやすくなります。例えば、『夜間に避難する場合は20時までに動く』など、ルールを決めておくといいでしょう」

災害時は、家族だけでなく、隣近所との連携も重要になってくるという。

「普段から近所の人とコミュニケーションが取れていれば、災害時に避難するか、相談することができます。浸水のリスクが低い地域に住んでいて、近所の人も『避難しないで大丈夫』と言っていれば、冷静になれそうですよね。防災対策の三要素『自助・共助・公助』の『共助』に当たる部分で、ある程度の訓練が必要でしょう」

避難が必要になった場合、「家を離れたくない」と感じる人もいるかもしれない。小林教授は、「意識改革も必要」と話す。

「農耕民族の日本人には、『自分の土地を守る』という文化が脈々と受け継がれているので、家を捨てて逃げることに抵抗がある人が多いのです。また、多くの人が水害を経験しているが故に、『この程度で済むだろう』という過信も行動を鈍らせます。命を守るためにはどうするべきか、考えましょう。毎年のように記録的豪雨が発生し、甚大な災害がどこで起こってもおかしくない今、他人事と思わずに一度は真剣に向き合ってもらいたいですね」

国や自治体が提供する情報は増え、気象観測の精度も上がってきている。災害時に命を守るのは、個々人の判断にかかっているといえるかもしれない。
 

小林文明
防衛大学校地球海洋学科教授、理学博士。専門は気象学で、主な研究テーマは積乱雲および積乱雲に伴う雨、風、雷。日本気象学会、日本風工学会、日本大気電気学会、アメリカ気象学会、アメリカ地球物理学会会員。著書に『Environment Disaster Linkages』『大気電気学概論』(ともに共著)、『竜巻~メカニズム・被害・身の守り方~』、『スーパーセル』(監訳)などがある。
http://www.nda.ac.jp/cc/eos/staff.html

取材・文=有竹亮介(verb)