卓越した嗅覚を武器に事件の捜査や行方不明者を捜索する警察犬。

捜査の切り札とも言われる警察犬と相棒の警察官はどのような訓練をしているのか、奮闘する若手の現場に潜入した。
“鼻の捜査官”警察犬 訓練の現場
「鼻の捜査官」と呼ばれる警察犬。
人間の4千倍以上とされる嗅覚で捜査に加わる。
容疑者や行方不明者をにおいを元に捜索したり、遺留品の所有者を探し出したりするのが主な任務だ。
道内には警察からの要請で出動する嘱託犬を含め73頭の警察犬がいる。
2024年の出動は約570件。
毎日1件以上捜査に関わっている計算だ。
今回は2024年4月に警察犬係へ配属されたばかりの油谷風香さんと、相棒のシェパード、3歳でメスの「うるみ」ペアの訓練現場にカメラが入った。
朝ごはんを平らげ満足げの犬たち
午前7時。
元気いっぱいの犬たちが油谷さんを迎える。
朝ごはんの時間だ。

「待て。よし。食べた?早いね~」(油谷風香さん)
ものの数分で食べ終わりお皿はピカピカ。
お腹が満たされ犬たちは満足げ。
騒がしかった犬舎がうそのように穏やかになる。
お風呂が苦手な「うるみ」手助けもあり何とか終える
油谷さんの相棒「うるみ」。
警察犬として1歳でデビューし油谷さんより先輩だが、なんだか緊張している様子。
この日は2か月に1度のお風呂の日。
いつもは元気いっぱいの「うるみ」だが、実はお風呂になると。

「水が苦手というか、お風呂が苦手」
「がんばれ、がんばれよ。いくよ、せーの」(油谷さん)
シェパードの「うるみ」は体重約30キロ。
浴槽に入れるだけで一苦労だ。
「早く出たいと思ってると思う。勘弁してくれって」(油谷さん)
奮闘する油谷さんをすかさずフォローしてくれたのは上司の宮本さんだ。
3年目を迎えた先輩の技が光る。

「自分で飛び出ちゃうこともある。骨折したりすると困るので、首を抑えてやればおとなしくなる」(宮本敦さん)
「確かに落ち着きますね」(福岡百記者)
先輩の力を借りながらなんとか終えた。
「座れ!」「待て!」いよいよ訓練開始
苦手なお風呂を乗り切りご機嫌を取り戻したうるみ。
いよいよ訓練開始だ。

「座れ、待て」
これは「服従訓練」と呼ばれるもので、犬と信頼関係を築いた上で指示する。
「来い!そう来い!」
「私の左横につかせるのが『あとへ』っていう指示」
「吠えさせることもできます。指示で」
「吠えろ!」(すべて油谷さん)

指示に即座に反応するうるみ。
油谷さんから目線が全く外れない。
「次どんな指示が来るのかっていうのをしっかり犬自身も、考えながらやってほしいので、こう顔見ながらやるっていうのは心がけている」
記者も体験! 犬との信頼関係を少しずつ築き上げた
賢い警察犬なら誰にでも扱えると思われがちだが、この訓練がどれほど難しいのか、犬好きの記者が体験させてもらった。

「うるみ!あとへ。いい子だけどこっち向てくれない」(福岡記者)
油谷さんの時と比べると一目瞭然。
うるみの視線が常に向けられていたのに対し、記者の指示には従うものの、目線はすぐに油谷さんへ。

まるで顔色を伺っているよう。
「最初は私も同じです」(油谷さん)
「私みたいな感じでした?」(福岡記者)
「一緒です」(油谷さん)
「犬とのコミュニケーションがない状態というのが(記者のような)状態。そこから訓練を重ねていってちゃんと聞いたりというようになってくれる」(宮本さん)
2024年の4月からタッグを組み、時に悩みながらも少しずつ信頼を築いてきた関係性が見えた。
「経験と知識が私は全くないので『ほんとにこいつで大丈夫なんだろうか』っていうところはあると思うので、そこの犬の不安っていうのも取り除いて、しっかり私についてこいっていう気持ちでやっていかないといけない」(油谷さん)
新婚の夫とは離れ離れ― さみしいけど、愛情はうるみへ
ようやくお昼ご飯の時間。
「手作り弁当ですね。カルシファーが好き。夫に買ってもらった」(油谷さん)

2024年6月に結婚したばかりだが、夫は釧路の警察署に勤務しているため離れ離れ。
「ちょっと寂しいですけど、その分の愛情をうるみちゃんに注いでいる」
「いただきます」(ともに油谷さん)
6年越し 念願の警察犬係への配属
勤務は2人1組で朝から翌朝までの当番制。
ペアを組む上司の宮本さんは指導役として頑張りを見守ってきた。

「4月から来て初めてやってますけど夜も事務所に犬を連れてきて、コミュニケーションを取ったり、一生懸命頑張ってやっている。だから担当している犬もすごい好きだと思います」(宮本さん)
犬が好きで子どものころからたくさんの犬と共に育った油谷さん。
自然と犬とかかわる仕事を目指すようになったという。
警察官になってからは毎年希望を出し続け、6年目にして念願の警察犬係へ配属された。
「やっとかないました。やった!って。ついに順番が来たかと思いました。うれしい気持ちと、ちょっと不安な気持ちと半々でした」(油谷さん)
好きだけではコミュニケーションがとれるわけではないと、犬の感情や行動を日々勉強している。

「やっぱり人の役に立つっていうのはなかなかできない仕事なので、それを私の好きな動物と一緒に達成することができるっていうのは、やりがいのある仕事だなとは感じてます」(油谷さん)
事件を想定した訓練 日頃の成果発揮できるか
大好きな犬と働ける環境で、結果も出したい。
日々の訓練にも力が入る。

開けた場所で準備をする2人。
何が始まるのだろうか。
「犯人とかが逃走時に落とした物品と仮定してコースの途中に木片を落とす。うるみが発見できたら伏せで合図をする。(発見できますかね?)頑張ってもらいます」(宮本さん)
現場に残された物のにおいを手掛かりに犯人役の居場所を突き止める訓練だ。
「探せ」(油谷さん)
油谷さんの声を聞き迷うことなく進みだす。

しかし木片は。
「伏せはー?」(油谷さん)
においを嗅ぎわずかに反応したが、油谷さんの声は届かずスルー。
伏せの合図はしてくれない。
そのままにおいをたどり犯人役を見つけることは出来たが、訓練成功とは言えないようだ。

「スルーしちゃいました。見つけたんですけどなんか(合図の)『伏せ』しないんですよね」
「伏せでしょう。うる!そうでしょう?」
「ちょっと興奮してるのかもしれない」(すべて油谷さん)
いつもできていたことが上手くいかない。
うるみをどうコントロールすればいいのか、宮本さんのアドバイスは。

「もうちょっと厳しいところが必要かなとは思う」(宮本さん)
「厳しくしないといけないですよね。アメとムチを使い分けて」(油谷さん)
「犬好きだから大好きでやってるんでその気持ちはそのまま持ち続けて、現場で結果出してもらえればいいなと思う。頑張ってください」(ともに宮本さん)
「はい!」(油谷さん)
捜査で力を発揮する警察犬 油谷さんペアの挑戦は続く
警察犬は人の力では限界のある捜査で力を発揮するいわば最後の切り札。

刻一刻と薄れていくにおいを頼りに手がかりにたどり着くには、人と犬の息を合わせなければならない。
「ベストパートナーというか、なんでもうるみの思ってることがわかる、うるみも私の思ってることがわかってくれるという仲になりたいですね」(油谷さん)
大好きなうるみと一人でも多くの人の役に立ちたい。
油谷さんペアの挑戦の日々が続く。