2024年の全国高校野球選手権「夏の甲子園」で巻き起こった「大社旋風」。島根・出雲市にある県立の大社高校が、次々に全国の強豪校を撃破し勝ち上がっていく姿が、全国の野球ファンの心をとらえた。そして夏の全国大会ベスト8進出が93年ぶりと、記録にも記憶にも残った“熱い夏”を改めて大社ナインが振り返り、それぞれが得たものを語ってくれた。

32年ぶりの舞台で“快神撃” 全国の強豪を次々撃破

勝利を収めたナインに大応援団の声援
勝利を収めたナインに大応援団の声援
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夏の甲子園に、島根代表として32年ぶりに出場した大社は、1回戦で強豪・報徳学園(兵庫代表)と対戦。春の“センバツ”準優勝校を相手に劣勢が予想されたが、大会屈指の好投手の今朝丸を攻略し先制点を奪うと、エースの馬庭が1失点完投。夏の甲子園63年ぶりの勝利に沸いた。

2回戦では長崎代表の創成館に、8回まで2点のリードを許した展開からスクイズなどを絡めた小技で追いつくと、延長タイブレークの末に逆転勝利。夏の大会としては107年ぶりの2勝を挙げた。

そして3回戦、西東京代表の早稲田実業戦。1点リードを許して迎えた9回裏の土壇場に「スクイズ」で同点に追いつくと、延長タイブレーク11回裏に、この試合も1人で投げ抜いたエースの馬庭の一打で「サヨナラ勝ち」1931年の第17回大会以来となる93年ぶりのベスト8進出を決めた。準々決勝で鹿児島代表の神村学園に敗れたものの、最後まで粘り強く戦い抜いた大社ナインの姿が全国に元気を届け、多くの感動を呼んだ。

大社高校は、縁結びの神様で知られる「出雲大社」の近くにあり、その活躍ぶりは“神がかっている”とさえ言われ「快進撃」ならぬ「快神撃」と称された。

インタビューに答える5人
インタビューに答える5人

12月下旬…出雲市の大社高校。集まってもらったのは5人の3年生。参加メンバーは、石原勇翔さん(キャッチャー)、藤江龍之介さん(ショート)。下条心之介さん(レフト)、馬庭優太さん(ピッチャー)、園山純正さん(サード)だ。甲子園で巻き起こした「大社旋風」の原点となる場所で、「この夏に得たもの」を聞いた。

夏の甲子園の舞台で選手たちが得たものとは…

“トップバッター”は、キャプテンとしてチーム全体を引っ張るとともに、キャッチャーとして「堅守」を支えた石原勇翔さん。『執念』という文字を挙げた。「これはずっとチームのキーワードとして使ってきた言葉で、島根県大会から甲子園の最後の試合まで、全員が“執念”を持ってプレーできたことが、大会ベスト8という結果に繋がった」からだと、その理由を話した。

キャプテンの石原勇翔さん
キャプテンの石原勇翔さん

そして「一番執念を感じたプレー」は、3回戦の早稲田実業戦の9回のシーンで、「先頭バッターの馬庭が、相手のエラーもあったが2塁まで進んで、塁上でガッツポーズをした所」だとし、「(その時に)1点負けていたんですけど、自分たちの流れに持ってこれた。あの9回はチームとして『執念』を感じた場面だった」と鮮明に残る記憶を語った。

甲子園で得たのは「執念」
甲子園で得たのは「執念」

馬庭さんは、早稲田戦までの3試合を全て1人で投げ抜いており、魂を込めた投球で幾度もピンチを切り抜けた中での最終回の攻撃だっただけに、あの場面では「気迫がこもっていた」と振り返る。「自分が9回まで投げさせてもらって、そこから自分が先頭バッターに立ち、絶対にチームを負けさせる訳にいかないと思っていたので、自然に出たガッツポーズでした。最高でした」と、その後のサヨナラヒットにもつながる『執念』のプレーを振り返った。

一番「執念」が表れた早稲田実業戦の場面
一番「執念」が表れた早稲田実業戦の場面

副キャプテンで、大会ではチーム最多タイとなる5安打を記録したショートの藤江龍之介さん。『希望』という字であの舞台を振り返った。

副キャプテン 藤江龍之介さん
副キャプテン 藤江龍之介さん

「甲子園の出場校の中で、多くは私立の高校で、地元出身の生徒だけでメンバーが揃う高校はなかなかないですけど、自分たちはほぼ地元のメンバーで『ベスト8』まで行けたので、これから島根県や地元・出雲市の子どもたちに“希望”を与えられた」と語る。
それを象徴したのが、ベスト8で甲子園を去り地元の大社高校に帰って来た時のシーンだ。

甲子園から帰郷したメンバーを多くの市民が出迎え
甲子園から帰郷したメンバーを多くの市民が出迎え

「バスで着いた時に、地元の方が多く駆け付けて下さって、その時に『感動をありがとう』という言葉を何人にも言われたので、自分たちが地域の方々に恩返しできたと思う」と話し、メンバー全員が成し遂げたことの大きさも実感したという。

副キャプテンでクリーンナップの一角を担ったレフトの下条心之介さん。初戦の報徳学園戦の初回にタイムリーヒットを打ち、チームを勢いに乗せた。その下条さんは『絆』という文字を挙げた。その理由は「普段の練習や試合、そして甲子園を通して本当に『絆』が深まった。その絆が深まったからこそベスト8という結果があった」と話す。

副キャプテン 下条心之介さん
副キャプテン 下条心之介さん

快進撃が続くとともに、チーム同士はもちろん、野球部を支えようと多くの支援の輪も広がっていた。大会屈指とも呼ばれた「アルプススタンド」の一体感のある応援団も同様で、それらすべての『絆』が快挙を呼び込んだと言える。

自ら招いたピンチを気迫の投球で切り抜ける 大会を勝ち抜く「勇気」に

大会4試合で492球の熱投…躍進の原動力となったエースの馬庭優太さんが、選んだ言葉は『勇気』だった。「甲子園でプレーできたからこそ、一歩前に出る『勇気』がメンバーみんなから出た」と話す。

柔和な表情で語る馬庭投手
柔和な表情で語る馬庭投手

特に2回戦の長崎・創成館戦の延長タイブレークで、自身のエラーにより満塁のピンチを迎えた場面を振り返った。そこから「絶対に抑える」と気合いを入れ直し、スタンドからの大声援にも押されてピンチをしのぎ、「自分の仕事をやり切った部分で一歩前に『勇気』が出た」と話し、満塁のピンチでも全員が自信を持ってプレーすることができた大会のターニングポイントだったと語る。

気迫の投球でチーム躍進の原動力に
気迫の投球でチーム躍進の原動力に

チーム随一の“スクイズ職人”と呼ばれ、チーム最多の5犠打を成功させたサードの園山純正さん。園山さんが選んだ言葉は『自信』。「甲子園で4試合させてもらい、一つ一つのプレーに『自信』をもってプレーできたことが良かった」ことがその理由だ。大舞台で培った自身の変化が、甲子園から帰った後の行動にも表れたという。「体育祭で『色長(リーダー)』を務めたことで、リーダーとして自分が前に出て何かをするということは、『自信』があったからできたと思う。本当に良い経験になった」と話す。

ちなみに、2回戦の長崎・創成館戦で決めた同点スクイズについては、「本当のことを言うと、決まると思っていなくて一か八かでした。(決まって)自分が一番びっくりしました」と振り返る。ただ大舞台での成功が、一人の選手の成長を大きく後押ししたことは確かだ。

“大社旋風”で得られた大きな財産 石飛監督「新チームで新た旋風を」

そして彼らを鼓舞しながらチームをベスト8に導き、これまで成長を見守り続けた石飛文太監督。指導者として得たものは非常に大きかったとし、「(甲子園の舞台を経て誕生したのは)無限大の夢です。彼らが示してくれた可能性は無限大でした」と話す。

甲子園の舞台を経験し得たのは「無限大の夢」
甲子園の舞台を経験し得たのは「無限大の夢」

選手たちが大舞台を経験することで成長していく姿を見つめることができた「甲子園」に改めて感謝。そして「ただ僕は、また新たに1、2年生と野球がしたい。また新たな物語が生まれると良いと思っている」と語り、2025年の夏の甲子園へ挑む気持ちを新たにしている。「大社旋風」第二章に期待が膨らむ。

(TSKさんいん中央テレビ)

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TSKさんいん中央テレビ
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