2024年は台湾の半導体製造大手・TSMCの日本で初めての工場が熊本・菊陽町に開所し、第2工場についても建設が決まった。熊本県では県営の工業団地の整備計画が進み、菊陽町も独自に工業団地の整備を検討している。その一方で、先行して上がり続ける土地の価格に、菊陽町周辺から撤退や移転を決めた経営者たちを取材した。
第1と第2、そして第3工場を要望
2024年2月、熊本・菊陽町に台湾の半導体製造大手・TSMCの日本初の工場が開所した。この第1工場の東側には第2工場も建設される予定で、約32ヘクタールで土地の造成が始まっている。第1工場と第2工場の投資額は計3兆円規模で、約3400人の雇用が見込まれている。

木村知事は8月に知事就任後初めて、台湾を訪問し、「第3工場の建設について検討願いたいと申し上げた」と、TSMCに直接第3工場の建設を要望した。

熊本県は、菊池市や合志市に加えて、八代市でも県営工業団地の整備計画を発表。菊陽町も独自で工業団地の整備を検討している。

7月に発表された地価調査では、前の年からの平均変動率が菊陽町が16.9%増で全国6位、隣の大津町は19.4%増で全国1位の伸び率となった。
大津町で店を探すも断念 熊本市へ移転
TSMC進出による経済効果への期待の裏で、大きな『選択』をした経営者もいる。11月14日に熊本市中央区にオープンしたクラフトビール専門店『ウィッチクラフトマーケット』は多くの客でにぎわっていた。熊本空港にも出店する人気店で、元々は大津町にあった。

ウィッチクラフトマーケットのオーナー・田上晃子さんは3月の契約更新をきっかけに大津町で新しい店を探したが、「(大津)駅周辺は高く、必要な広さが料金に見合わないので、そこで大津町への出店は諦めました」と話し、熊本市への移転を『選択』した。

田上さんは「全く知らない新天地(熊本市)に来て、すごく不安はあったが、みなさん『近くなってよかった』と言ってくれるので、その面ではもっと早く熊本市に出店していればよかったかも」と話し、出だしは好調のようだ。
行列ができる人気ラーメン店も撤退
一方、菊陽町にあった『天外天』。熊本駅にも出店する人気のラーメン店は、2022年8月に熊本市の本店を菊陽町に移転したが、2024年10月に約2年で菊陽町の店が閉った。

天外天の店主の小田圭太郎さんは「最初に入った子たちが(アルバイトを)卒業したりして、だんだん減っていって、人が減るとサービスが難しく、夜の営業を止めた。夜の営業を止めると家賃に対して売り上げが足りず、なかなか厳しいなと撤退を決めた」と話した。

郊外の店は広い駐車場も必要で、その土地の賃貸料などを含めると、昼だけの売り上げでは経営が厳しく、菊陽町の店を閉める『選択』をしたという。

小田さんは「TSMCの進出で客足も伸び、悪い面だけではなかった」と振り返り、天外天を元々あった熊本市の場所で、再開させる予定だ。

小田さんは「電話で『きょう出てこられる?』って聞くより、スープ作っている方が大事。あまりデカい店舗はしたくないな」と話した。

TSMCの進出で先行して上がり続ける周辺の土地の価格。期待される経済の波及効果を全体が実感できるまでは、まだまだ時間がかかりそうだ。
(テレビ熊本)