2024年10月、ほぼ3年間続いた岸田政権に代わり、石破内閣が発足した。
当時の自民党政権を取り巻く状況を振り返ると、旧安倍派などでの派閥の“裏金問題”に対する政治不信が根強く、岸田前首相は「自民党が変わることを国民の前にしっかりと示すことが必要。変わることを示す最も分かりやすい最初の一歩は、私が身を引くこと」として、退陣を表明。石破首相は、後を受けて新総裁・新首相就任となった。
石破内閣の通信簿
石破政権が10月1日に発足し、直後の週末に行ったFNN世論調査での内閣支持率は53.3%。2021年の岸田政権発足当時は63.2%だったことと比べると10ポイント低く、歴代自民党内閣のスタートの高支持率を比べると、“熱気に欠ける”政権スタートだった。

【発足時の内閣支持率】
石破内閣 53.3%(2024年10月)
岸田内閣 63.2%(2021年10月)
自民党が置かれた状況を振り返ると、「政治とカネ」問題は何ら解決したわけではなく、野党からは「看板のすげ替えに過ぎない」との批判が続いていた。
さらに、当時の世論調査を見ても、岸田前政権に有権者が最も強く求めていたものは、「物価高対策」「賃上げ政策」で、石破政権発足が、急激に進み続ける物価高の問題を解決するとの評価はなく、政権交代時の“ご祝儀相場”での支持率の大幅な上昇にはつながらなかったとみられる。
その後の10月末の衆院選挙で、石破新総裁率いる自民党は、191議席にとどまり、選挙前の議席から50議席以上を失う大敗。与党としても衆議院の過半数となる233議席を大きく割り込んで、少数与党になる与党215議席に落ち込む結果となった。

選挙後11月の世論調査をみると、内閣支持率は10ポイント下落して43.8%、不支持率が14ポイント跳ね上がり49.8%と、発足一カ月後にして、早くも不支持が支持を上回った。
この傾向は、12月に入っても変わらず、「支持する」45.9%、「支持しない」47.7%と、依然不支持が上回る中での政権運営を強いられる状況がつづいている
【内閣支持率の推移】※%
10月 11月 12月
支持する 53.3 43.8 45.9
支持しない 35.8 49.8 47.7
自民支持層からは8割近い高い支持 ただし、調査結果を分析すると、石破政権は、自民層からの支持を取り戻しての政権運営を進めている。
自民支持層から高い支持
自民党支持層での内閣支持率を見てみると、政権発足の10月に7割後半の高い支持率を得ている。さらに選挙に大敗し、内閣支持率が10ポイント急落した11月でも、自民党からの支持はむしろ上昇して8割に。12月も引き続き8割に迫る高い支持が続いている。
岸田前政権当時の9月は、自民支持層からの「政権支持率」は49.2%と5割を割り込んでいたことと比較すると、自民層から支持を取り戻した内閣だと言うことができる
【内閣支持率(自民支持層)】※単位%
9月 10月 11月 12月
支持する 49.2 76.8 79.8 78.3
支持しない 46.4 17.5 16.3 16.9

さらに、野党支持層からの風当たりも前政権に比べて、穏やかになった。
岸田政権当時の立憲支持層は、岸田政権を「支持しない」との意見が9割を超えたが、石破政権になった10月には「支持しない」は6割まで減少、総選挙直後の11月調査で、不支持が7割に増えたものの、12月に入って、再度6割に戻った。
政権運営としては、自民党の岩盤支持層からの支持割れ、野党支持層からも厳しい評価にさらされていた前政権に比べると、高支持率とはいえないものの、与党支持層を手堅く固め、野党批判も和らいだ“中庸”な政権運営をスタートさせているといえる。
【内閣支持率の推移(立憲支持層)】※単位%
9月 10月 11月 12月
支持する 9.1 32.1 27.0 31.0
支持しない 90.9 60.5 70.6 63.0
「支持」の理由「他にいない」「信頼できる人柄」
石破首相を支持する理由はどこにあるのか、世論調査では、節目に、内閣支持率の質問に合わせて、支持する理由を有権者に質問している。
10月の石破政権発足時と、年末の12月に「支持する理由」を聞いたところ、最も多かったのは10月、12月とも「他に良い人がいない」という回答で3割を超えた。石破内閣を支持する理由として次いで多かったのが「人柄が信頼できる」という答えで、10月には30.5%、12月には27.0%となった。

一方で、「政策に期待できる」や「実行力に期待できる」はともに低い数字となり、石破内閣として、発足後3カ月で、期待する政策の実現実行は、有権者に向けて打ち出せていないと言える。
【内閣支持の理由】※単位%
10月 12月
他に良い人がいない 32.2 38.4
人柄が信頼できる 30.5 27.0
自民党中心の内閣 14.6 15.0
実行力に期待できる 13.2 8.0
政策に期待できる 7.3 10.2
石破首相に「謙」の姿勢で求められる政策実現
石破首相は12月、自身の今年の一文字を問われ、謙虚の「謙」と答えた。石破首相は「謙虚の謙、卑下とは違い、ひたすらいろんな人の意見を謙虚に受け止める。言葉も態度も、今年後半特にこの言葉をかみしめている」と述べた。

10月の衆院選で、少数与党に陥った自公政権としては、2025年3月末までに、来年度本予算を成立させるという大きな課題を抱える。予算成立には、衆院で必ずどこかの野党の協力を仰ぐ必要がある石破首相にとって、年明けも「謙虚」な野党対応は不可欠となる。

現状で協力を求める野党の筆頭に上がるのが、国民民主党だ。国民民主党が選挙で躍進したキャッチフレーズ「手取りを増やす」政策として与党に求める「103万円の壁」の引き上げは、少数与党としては従来通りの姿勢では押し切ることはできない。国民民主党との3党協議で、国民民主が予算案に賛成する水準まで「壁」を引き上げない場合、予算案の衆議院通過は見通せず、政権は立ちゆかなくなる。

25年3月末までに参議院で予算を成立させるためには、2月末から遅くとも3月早々には、衆議院で予算案を可決させることが必要になる。
その「103万円の壁」をめぐっては、12月の年末に与党税制大綱に盛り込んだ「123万円」に相当する「120万円程度まで」の引き上げが望ましいとする答えは、世論調査では、27.5%にとどまっている。
与党が決定した以上の「150万円程度まで」の引き上げが望ましいという答えは32.6%、さらに国民民主が求め、自公・国民の三党合意でも「目指す」ことで合意した「178万円」が望ましいとする答えは22.4%に上った。

【「103万円の壁」引き上げ幅】
税収7兆円減っても178万円 22.4%
税収がやや多く減って150万円程度 32.6%
税収減少は少なめで120万円程度 27.5%
税収は減らず103万円で据え置き 13.3%
与党が税制大綱で「123万円」と決定し、一旦は協議が打ち切りとなった自公・国民の3党協議だが、石破首相は国会答弁で「引き続き真摯に協議を行っていく方針と承知。誠実に協議が進められることを期待している」と継続協議に向けた“謙虚”な姿勢を示した。

石破首相がリーダーシップを発揮し、「謙虚」な姿勢で「壁」を更に引き上げるのか、それとも、財政規律を重視して、国民民主党の求めには応じず「123万円」までの引き上げで新年の政権運営も押し通すのか、新年早々から最大の焦点の1つとなる。
石破首相にとっては「謙虚」に対応する相手は、国民民主党に限ったものではないという政治選択がある。
維新も“高校無償化”条件に…
ここに来て日本維新の会の前原共同代表が、2025年度予算案に賛成する必要条件として「高校教育の無償化を4月から開始する」という条件を提示した。
前原氏は無償化に必要な財源は6000億円と提示していて、国民民主が掲げる「178万円までの引き上げ」に必要な、7.6兆円と試算される財源に比べると、金額的には応じやすい様に見える。ただし、ことはそう簡単ではない。

維新は「高校無償化」を“4月から実現”するよう求めていて、時間が差し迫るなか、与党として易々と応じられる要求ではない。さらに、維新は「4月からの無償化」は予算案に賛成する「必要条件」としていて、賛成するための「十分条件」は、0-2歳児保育の無償化や、給食無償化など追加要求を示している。
仮に交渉相手を維新にすることに舵を切ったとしても、自公政権として、維新が予算案の賛成に踏み切る保証はなく、自民党内からも「国民と維新、どちらかからの協力を得るため両天秤にかけるようなことをしていては危うい」と警戒する声も出ている。
石破政権に求められる本丸は「物価高対策・賃上げ」
国民民主党が「103万円の壁」引き上げにこだわる理由は、選挙の公約としてかかげた結果、選挙前の4倍増となる28議席を有権者から与えられたことにある。
2025年石破政権に進めて欲しい政策について世論調査で聞いたところ、「物価高・賃上げ対策」が最も高く41.9%、「子ども・子育て支援」33.2%、「経済対策・景気対策」30.8%となった。
次いで「年金・医療・介護」が27.6%と続いた。

国会では、政治資金規正法の再改正がなされ、年明けには企業・団体献金の禁止などをめぐり、年度末を期限に与野党の協議が続くが、「政治とカネ」をめぐる政策実現を望む声は7.3%にとどまった。
世論調査の結果から見える限りでは石破政権は、年明け3月の春闘などでの賃上げを政府としてどう後押し、実現していくかが課題となる。
【石破内閣で進めて欲しい政策課題(2つ選択可)】
物価高・賃上げ対策 41.9%
子ども・子育て支援 33.2%
経済対策・景気対策 30.8%
年金・医療・介護 27.6%
外交・安全保障 13.8%
災害対策 9.8%
地方活性化 9.1%
原発・エネルギー政策 7.6%
政治とカネ 7.3%
行政改革・財政再建 4.6%
女性活躍・SDG’s 3.3%
憲法改正 3.3%
トランプ時期大統領との向き合い
石破首相にとって新年は1月後半から始まる見通しの通常国会が、政策実現の場となる。

加えて、2025年には1月20日にアメリカでトランプ新政権が誕生する。12月にトランプ氏の私邸、アメリカ・フロリダ州のマールアラーゴで、安倍元首相の夫人・昭恵さんがトランプ夫妻と会食した。トランプ氏からは石破首相との会談についての言及も有ったことが伝えられ、石破首相にとっては、日米関係の新スタートは大きな政治課題となる。
世論調査で、石破首相とトランプ次期大統領との間での新たな日米関係の見通しについて聞いたところ、「良くなる」との答えは5.0%、「変わらない」59.6%、「悪くなる」32.3%となった。

トランプ政権はアメリカ第一主義を掲げて、他国に高い関税をかけて2国間交渉に臨んでくるのではないかとの見方がもっぱらだ。第一次トランプ政権当時、安倍政権は、他の先進各国と比べて、日本の国益につながる外交を展開した。石破政権にとっては、外交の基軸となる日米関係の舵取りが重要になる。

【トランプ次期大統領との日米関係】
良くなる 5.0%
変わらない 59.6%
悪くなる 32.3%
2025年夏には参院選が
もうひとつ、内政では夏に予定される参議院選挙に向けて、石破政権は正念場を迎えることになる。10月の衆院選で過半数割れした自公政権にとって、仮に同じ轍を踏めば、即政権交代につながり兼ねない。
それだけに、参院選挙への見通しが厳しい場合には、自民党内での石破総裁・総理の立場が揺らぐことにもつながる。国民民主や維新など衆議院での多数派形成ができるかどうかは、通常国会の成果にも直結するだけに、与党+野党の巧みな連携を実現できるかどうか、石破政権の継続にも関わる手腕が求められる。
【執筆:フジテレビ政治部デスク 西垣壮一郎】