2024年10月29日、伊予農業高校の畜舎で16匹の子ブタが誕生した。小さくてかわいらしい姿に生徒たちはメロメロ。

分娩の介助も行い、新たな命の誕生を喜んだが、お母さんブタのおっぱいの数は14。16匹のうち2匹はあぶれてしまうことになる。生まれた全ての子ブタを元気に育てようと、2匹を生徒たちの手で育てることにした。

今回初めて人工飼育に挑戦する3年生の森菜々子さんと岡田海来さんに密着した。

走れ!授業と授業の間の10分間ダッシュ

授業と授業の間の時間はわずか10分。授乳は1時間に1回なので、子ブタたちがいる別の校舎に毎時間猛ダッシュだ。

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森さんはオスのブーブ、岡田さんはメスのコンちゃんを担当している。2人とも慣れた手つきでミルクをあげているように見えるが、ブタを育てるのは初めての経験だ。日々、学びと工夫の連続だという。

森さんは「本当はあっためた方がいいんですけど、うちの子はなぜかあっためたものを飲まないので冷ましてから飲ませないと飲んでくれないんですよ」と、子ブタの個性に合わせた工夫を語る。

岡田さんは「一年のときから人工哺育やりたいって言ってたので、そしたらやっと~」と、長年の夢が叶った喜びを語る。「コンちゃんはおとなしいですね、ブーブに比べて」と、担当する子ブタの性格の違いも感じ取っている。

命を預かる責任と日々の学び

人工飼育は初めての経験だ。

岡田さんは「最初は体温調節できないので、めっちゃ保温機とかであっためないかんのですけど、それが全然足りてなかったみたいで体調崩して下痢とかになっちゃって、めっちゃ大変やったんですけど今は大丈夫」と、試行錯誤の日々を振り返る。

畜産の現場で学ぶ命の重み

2人は生物工学科の中でも畜産コースを専攻していて、普段は豚やニワトリを中心とした家畜の繁殖や飼育方法を学んでいる。この日は飼育実習だ。ブタの畜舎へ行き、掃除をしたりエサをあげたり、生徒自身が去勢手術も行う。

森さんは「自分の技術のせいでブタを傷めないように、苦しめないようにっていう努力はきっと人一倍していると思います。きっとみんなもそうだと思うんですけど、やっぱ命を預かるものなので畜産っていうのは」と、畜産に携わる者としての責任感を語る。

高内康雄先生は「畜産というか動物が本当に好きで、毎日実習の管理なんかも積極的にやってくれてます」と2人を評価する。そして「動物に配慮した思いやりをもって接するような実習を心掛けてもらってるので、そういうところで心優しいというか思いやりをもってこれからも生きていってくれたらなと思ってます」と、この経験が彼女たちの未来にもたらす影響に期待を寄せる。

24時間体制の奮闘 学校を超えた命との向き合い

授業が終わって下校…かと思いきや、なんとブーブとコンちゃんも一緒に帰宅する。荷台にキャリーをのせて自転車で1時間ほどの通学路を一緒に登下校しているのだ。

「全然鳴かないですね、寝てます」と岡田さん。「意外と振動が良い感じなのかもしれないです」と、子ブタたちの様子を気遣う。

森さんの自宅には玄関にブーブ専用のスペースがある。いつもこの場所でミルクをあげたり、遊んだりしている。

森さんの母、篤美さんは「やっていけるのかなと思いました。ほんとに?みたいな」と最初は心配したという。「まだ子供も育てたこともない子がこうやってちっちゃい赤ちゃんを育てるというのはすごい大変だと思うし、親からするとそうじゃないと思うことも沢山あるんですけど、でもすごい奮闘しててすごい素晴らしいなと思います」と、娘の成長を誇らしげに語る。

森さんは「大変です」と正直に語りつつも、「分娩介助、ブタの出産に立ち会う授業とかがいっぱいある中で命の大切さっていうのを身に染みて分かっているから、せっかく生まれた命を無駄にしたくないっていう気持ちが強いんだと思いますね」と、その原動力を説明する。

命との向き合いが育む未来への夢

同級生たちも2人の姿に感銘を受けている。

ある男子生徒は「授業にも活発に参加して、ブタを家に持って帰って、動物にも優しい、いい子だなと思います」と評し、別の男子生徒は「なんか優しい目をしていていい子だな~と思います」と2人の人柄を褒める。

また、「子守をしているような(子豚に対して)愛があるみたいな感じですね」と、2人の子ブタへの愛情深さを指摘する生徒もいる。

彼女たちが大変な人工飼育を続けられているのは、畜産から学ぶ命の大切さを感じているからだ。そんな2人には将来の大きな目標がある。

森さんは「私の夢は農業法人を設立して日本人の栄養状態を底上げすることです」と語る。

岡田さんは「私は酪農がしたいです。来年は北海道に行くのでそこでいっぱい日本の酪農について学んで将来的にはニュージーランドとかの海外の酪農と日本の酪農を比べて自分の力にしていきたいです」と抱負を語る。

命を預かる経験や学びは、2人にとってかけがえのない財産となり、夢への歩みを確かなものにしている。

(※高内康雄先生の「高」は「はしご高」)

(テレビ愛媛)

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