深刻な少子化が進む中、福岡・飯塚市に住む大家族に10人目の赤ちゃんが授かった。かつて理想の子育てができず「産後うつ」も経験したという母親が、周りに「頼る」「繋がる」子育てを実践。育児に悩む多くの母親たちの共感を呼び支援の輪も広がっている。

9人が待ち望んだ10人目の赤ちゃん

飯塚市で内装業の夫と共に大家族を支える山口紫織さん(38)。2023年9月、10人目の赤ちゃん「つきみちゃん」が生まれ、山口家はさらに賑やかになった。

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つきみちゃんが生まれて初めて自宅に戻った日、母親と赤ちゃんの帰りを待ちかねていた子供たちが大喜びで2人を取り囲む。既に9人兄妹だが中学3年の次男、秋空君は「もうかわいいだけですね」と新たな妹の誕生を心から喜んでいた。

10人目の赤ちゃん「つきみちゃん」を囲む兄姉たち
10人目の赤ちゃん「つきみちゃん」を囲む兄姉たち

深刻な少子化が進み、兄妹がいる家庭も年々減少している。10人もの子供を育てる母親の紫織さんに子育ての苦労を聞くと、「大変でしょ?とか言われても大変じゃないから。本当、日常の中に出産があるから」と予想外の返答だった。

SNSで繋がる子育て支援の輪

この日、山口家に新しい自転車が届いた。出産祝いだ。紫織さんは日々の生活に必要なものをSNSで発信していて、友人知人をはじめ子育てを応援したいという人達から様々なものが送られてくる。

ベビーベッドや子供服は、知り合いの母親たちの間で回し合って有効活用する。「みんな子育てと聞くと不安ばかりを並べる。お金は大丈夫か?自分に子育てできるか?塾に行かせた方がいいのか?とか。みんなと繋がっていれば、絶対どうにかなると分かっているから」と紫織さんは強い自信をみせた。

自分のことは自分でやるのが、山口家の子供たち。毎朝、自分で起きて身支度を整え、朝食もきちんと食べて、それぞれ高校、中学、小学校へと登校する。ただ、保育園に通う3人は、近所に住む知り合いのお母さんが迎えに来てくれるという。

産後、SNSで知り合い、仲良くなったお母さんたちに保育園の送迎をお願いしているのだ。「私も職場がすぐ近くで、ついでといえばついでなので。私は子供が3人いるが、紫織ちゃんに会うまで人に頼むとかできなかったんですけど、頼まれたら私も頼みやすい」と送迎を引き受けたお母さんは、山口家の子育て協力を惜しまない。

広がる「頼る」「繋がる」子育て

SNSで多くの人と繋がっている紫織さんは、育児相談を受けるほか全国で講演したりランチ会を開くなど『頼る』『つながる』子育て術を広めている。元々は完璧な母親像を追い求め、自分1人でなんとかしようとするタイプだったが、産後うつを経験する中、3人目の育児が転機となったと振り返る。「自分のキャパオーバーを感じたし、意外と頼まれたら嬉しい人が世の中にはいると気付いたから。自分もそうだけど、これ手伝って、助けてと言われると『いいよ』って自分も言うし、他人も同じじゃんと思って。あとは一歩勇気を出して『助けてほしい』と言えるかどうか」と紫織さんは語る。

紫織さんの『頼る』『つながる』子育て術を実践している母親もいる。3人目を出産した福岡市に住む薗田らもさん。この日はSNSで繋がった小学2年生の母親が、薗田さんに代わって部屋の掃除や食事の下ごしらえをしていた。

「ちょっと野菜を切っておいてもらうだけで、やっと3人目の子をかわいがれるというか。心の余裕ができると、上の子たちにも『あれして、これして、早くして』ではなく、ちゃんと向き合える時間が増えてきた」と話す薗田さん。約10人が代わる代わる週に3日ほど訪れ、無償で家事や育児を手伝ったり薗田さんの話し相手になったりしている。

薗田さんは「ここが限界かなと子供を諦めちゃう感じがあったんですけど、そこが取っ払えるならあと1人2人子供がいてもいいかな。自分が動けるようになったら返していけばいいんだというところは紫織さんを見ていて思う」と子育ての考えた方が変わったと話す。

SNSで繋がった母親が無償で家事の手伝いに
SNSで繋がった母親が無償で家事の手伝いに

子供を産んでくれてありがとう

少子化が進む中で「子供が増えるほど楽しい」と発信し続ける紫織さん。年の差があっても兄妹で過ごした楽しさを覚えておいてほしいと、新しい家族が増えるたびに家族写真を撮っている。

家族が増えると「家族写真」撮影
家族が増えると「家族写真」撮影

核家族化や共働き世帯の増加など家族のあり方が変わる中で、どう子供を育てるのか。紫織さんが目指すのは、優しい社会だ。「人と繋がるのを面倒と思う人がいる。そりゃ面倒。人と関わりあうのは。でもその先に凄く助かる道があって、私が目指すのは優しい社会。子供を産んでくれてありがとう、じゃあ助けるよ、みんなで育てていこうと言える社会になることが大事だと思う」。紫織さんは、男性や独身の人なども無理なくできることをして、みんなで子育てをすることができる社会を目指し、きょうもSNSで発信を続ける。

(テレビ西日本)

テレビ西日本
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