政界のキャスティングボートを握った国民民主党が、前面に打ち出す「103万円の壁」の見直し。所得税が課税される年収の線引きが引き上がるため、パートやアルバイトだけではなく、実はフルタイムの会社員なども、手取り増の恩恵にあずかれる政策だと主張する。
ただ一方で、「税収減」などの問題点も存在していることから、議論が必要となりそうだ。
「103万円の壁」見直しを協力の条件に
政権運営のカギを握る存在となった国民民主党。
この記事の画像(18枚)1日は、午前に立憲民主党と、午後には公明党との幹事長会談を行った。
さらに、自民党・石破総裁との会談予定についても言及した玉木代表。
国民民主党・玉木代表(31日の会見):
11月9日以降、条件が整えば石破総裁と党首会談を行うと。
与野党各党が、国民民主党の協力を取り付けようとするなか、国民側が譲れない条件としているのが、総選挙中も声高に訴えてきた「103万円の壁」の見直しだ。
この103万円とは、所得税が課税される年収の線引きのこと。
国民民主党は、この線引きを178万円に引き上げる案を示し、働く人の手取りを増やすと訴えている。
国民民主党・玉木代表(31日の会見):
例えば、この29年間の最低賃金の伸び率が1.73倍だったので、壁が103万円のままだと結局(課税の線引きに)引っかかるので、働く時間を単に3分の1減らすだけになっちゃうんですよ。
この壁が引き上げられると、これまで、手取りが減らないように103万円に合わせて働く時間を調整してきたパートやアルバイトの人にとっては、朗報とも言えそうだ。
でも実は、フルタイムで働く会社員なども、引き上げの恩恵にあずかれることはあまり知られていない。
街の人の声を聞いてみると、「えーいいですよね」「それは知らなかったです」「結構(額が)大きいですね」など、一様に驚いていた。
その“減税額”とはどれくらいになるのだろうか。
「103万円の壁」見直しはフルタイム会社員にも恩恵
国民民主党は、178万円に線引きを引き上げた後の減税額を、年収別に試算。
年収300万円の人で11万3000円、600万円の人で15万2000円、800万円の人は22万8000円の減税効果があるとしている。
街の人からは「これだけ戻ってくるのであればありがたいです」「単純に手取り増えるもんね」「(年収500万円の場合)年額で13万2000円(減税)だと(月)1万1000円ですよね。多少飲みに行く回数が増えるかもしれないですね」など歓迎の声が多かった。
一方で、「結構所得が多い人が得するみたいな(感じがする)。(自分の年収では)もうちょっと恩恵は受けたいですけど」という声も聞かれた。
7~8兆円の税収減見込みも
国民民主党の案については、林官房長官も「高所得者ほど減税の影響が大きい」と指摘。
さらに国と地方の税収についても、次のように言及した。
林官房長官(31日):
機械的に計算いたしますと、国・地方で7から8兆円の減収と見込まれます。
簡単には飲めない姿勢を示す政府与党に対し、玉木代表は政策の実現がなければ協力しないという強気な姿勢だ。
国民民主党・玉木代表:
全くこれをやらないということであれば当然、我々も協力できませんから。予算も通らない、法律も通らない。
玉木代表は「イット!」の取材にこう答えていた。
国民民主党・玉木代表:
年末に1回、年に1回税制改正の機会があるので、これからの1カ月くらいが勝負だと思いますね。
働き控えしていない人も“手取り増”
青井実キャスター:
ということで、いま103万円というのが非常に注目を集めている数字なわけですけれども、パートやアルバイトだけではなく、ほぼ全ての人の手取りが増えるんじゃないか、という話です。
ここからは政治部の西垣デスクとお伝えします。
手取りが増えることが本当に実現するのかどうか、見ていきましょうか。
遠藤玲子キャスター:
国民民主党が掲げる“手取りを増やす”策についてですが、現状は、103万円を超えると所得税が課税されますが、そのため「103万円」を超えないように、非課税枠内で働き控えをする、とうことが生じてしまっています。
それを国民民主党の、この手取りを増やす策で、非課税枠を「178万円」に引き上げる、75万円多くすることによって、働き控えをする人を減らすと。その結果、手取りが増える、というのが手取りを増やす策なんです。
遠藤玲子キャスター:
けれども、これ影響は、103万円を気にして働き控えをしている人だけではなく、働く全ての人に影響するわけですね。なので年収200万円、300万円、500万円と、全ての人にとって減税になるというものです。
青井実キャスター:
いろんな人に、税金控除の恩恵が受けられるということになるんですね。
遠藤玲子キャスター:
具体的に年収300万円のケースで見てみたいと思います。
現状の所得税などの負担は「約17万4000円」ですが、非課税枠が178万円に引き上げられると、所得税などが「約6万1000円」になり、結果、「約11万3000円の減税」になって、“手取りを増やす”ことができます。
青井実キャスター:
皆さんにとって手取りが増えるということは良いことなのかもしれませんが、疑問が出てきます。「誰の手取りが増えるのか」「税収が減っても大丈夫か」さらに「106万円の壁、130万円の壁」というのもあるので、そのあたりどうするのか、西垣さんに聞いていきたいと思います。
所得低い人へは給付案検討
青井実キャスター:
まずは、「誰の手取りが増えるのか」ですが、国民民主党が発表したこの表を見ると、収入の多い人の方が、減税で恩恵が大きくなるのでしょうか。
西垣壮一郎 政治部デスク:
不公平という意見もありまして、今後、自民党と公明党と議論をしていきますが、自民・公明党は、所得の低い人に対して給付をする案を協議を進めていく形になります。
「7兆6000億円」の税収減も…
青井実キャスター:
もう1つは、税収が足りなくなるのではないかということですが、先日、玉木代表を直接取材したときに聞いてみました。玉木代表は「減るというより、取り過ぎている税を国民にお返しする」と話していたんです。
返ってくるのはいいのですが、つまり税収が減ると言うことで、このあたりは問題ないんでしょうか。
西垣壮一郎 政治部デスク:
今(103万円から)178万円に引き上げると国民民主党が言っていますが、結果どうなるかというと、税収の問題もありますので、103万円との間くらいに落ち着くのではないかなというのが、今後の議論の見通しです。
西垣壮一郎 政治部デスク:
というのは、玉木代表は、きのう「全くやらないなら協力しない」「交渉なので、100%飲まないと、1ミリも変えてはダメという気はない」と述べています。
自民党は、今回の選挙で過半数を割ったので、全く応じないということをすると、今後秋の補正予算、来年3月の予算が通らないので、協力せざるを得ないので、103万円よりは増えるのですが、満額はいかないとうことになっていくのではないか。
”社会保険料を自分で払う“別の壁も
青井実キャスター:
今そのあたりの妥結点を探っている状況ということですけど。
柳澤秀夫 SPキャスター:
玉木さんの話を聞いていると、良いことは強調するんですけど、色々な見通しについての甘さっていうのが見えてこないわけでもないし。そういう問題点をどうするのか。それを考えると、今は自民公明と国民民主党という形で、話し合おうとしてますけど、これやっぱり野党側も、国民民主だけでなく立憲も維新も含めて、全体でこの問題について問題点を洗い出すという姿勢が必要なんではないでしょうか。
青井実キャスター:
そして、先ほどもお伝えしましたけど、もう1つさらに壁があるということで、こっちも注目していかなくてはいけない数字ですよね。
柳澤秀夫 SPキャスター:
「106万」っていうのは、結局は扶養家族から外れる基準ですから。その後社会保険も払わなくてはいけない、結局はこの106万どうするのかっていうのを、置いてきぼりにしちゃうと、「103万」「178万」も、やっぱり絵に描いた餅になってしまう。
西垣壮一郎 政治部デスク:
社会保障の話ですが、これは年金とかに関わる話で、103万から壁をなくしていっても、次にまた106万、130万とあるので、働く方はこの社会保険料の壁を感じているので、これをやらないと、実際に手取りは増えないので、ここをまさに全党で国会で議論が必要だという課題は残ります。
青井実キャスター:
あとは玉木さんに取材中に、消費税の控除拡大、103万円への引き上げというのは「これから1カ月くらいが勝負なんじゃないか」という話もあったんですけど、タイムスケジュール的には西垣さん、どういう風に捉えれば良いですか。
西垣壮一郎 政治部デスク:
いま税金を決める「税制改正」っていうんですが、これは12月まで、年内に税制改正しなきゃいけないので、まさに1カ月くらいで、この後先々は、この法律がもし国民民主党の主張の通り、103万から増えると、法律改正するのは来年(2025年)3月になるんですね。で、法律が決まると、再来年(2026年)1月から減税がスタートするので、最速だと再来年1月からスタートすることに向けて、さかのぼると、今この1カ月、この税制改正が本当に変えられるのかの勝負ということになる。
(「イット!」11月1日放送より)