2024年10月から最低賃金の改定に伴い、岡山県や香川県でも賃金が引き上げられた。収入アップにつながると期待が高まる一方、県境などでは賃金の良い地域に人材が漏れ出す「スピルオーバー」の発生に頭を悩ます経営者もいる。
時給引き上げも…地域ごとに格差が
岡山・早島町に本部を置き、中四国地方を中心に約100店舗のスーパーを展開するハローズ。岡山・倉敷市のハローズ中庄店では、約80人のパート従業員が働いている。

すでに、最低賃金よりも高い時給が支払われているが、10月1日からさらに時給が50円アップされた。パート従業員からは「うれしい限り、ありがたい。賃金が上がるとモチベーションも上がる」という声が聞かれた。

今回の時給アップについて、ハローズ・人事教育部の奥原孝次長は「岡山県内のパート・アルバイトは全店舗で一律50円アップ。ハローズが好業績なので従業員に還元しようと決断した」と話す。

最低賃金とは、パートやアルバイトなど非正規雇用も含め、すべての労働者に適用される賃金の下限額で、下回った場合は企業には罰金が科される。10月2日から改定される額は、岡山県は50円アップされ982円に、香川県は52円アップの970円。岡山県・香川県ともに最低賃金を時給で示すようになった2002年度以降、最大の引き上げ幅となった。

これについて経済の専門家である岡山大学大学院の中村良平特任教授は「食材や加工品、ガソリンなどすごく値段が上がっている。不動産もそう。そういった中で考えると、もっと引き上げてもいい気がする」と話す。
最低賃金は、物価などの「労働者の生計費」「労働者の賃金」、そして「事業者の支払い能力」。これら3つの要素を検討し、各都道府県で決定される。

つまり、最低賃金は住んでいる自治体によって異なるため、近隣地域を見ると兵庫県が1052円、広島県が1020円と1000円を超えていて、この格差による影響が懸念されている。
中村特任教授は「県境というか、空間的な区切りがある所で、例えば片方が良くてもう片方が悪いと、どちらかが片方へ漏れ出す『スピルオーバー』がよく起こる」という。
県境の地域に影響 求人応募の減少に
「スピルオーバー」が起こるとどうなるのか、実際に影響を受けている飲食店を訪ねた。

岡山・備前市日生町にある「カキオコ屋 暖里(ゆるり)」では、現在、平日は主に2人のパート従業員で営業している。しかし、これから迎えるカキのシーズンを前に8月から追加の人材募集を始めた。

カキオコ屋 暖里の中村智浩オーナーによると、時給はなんと1300円。「土日祝日と、週5日勤務できる調理スタッフを募集している」という。経験や能力によって時給に差はあるが、岡山県の最低賃金982円と比べるとかなり高い設定となっている。

さぞかし応募が殺到しているかと思いきや、中村オーナーは「現時点では全然応募がない状態」と困った様子だ。「日生は兵庫県との県境で、(隣の)赤穂市からパート・アルバイトに来てもらうには、賃金を岡山価格ではなく兵庫価格にしないと人を集められない現状」だと話す。
中村オーナーによると、例年この時期に募集をかけると数日後には数件の応募があるそうだが、2024年はまだほとんどないとのことだ。

しかし、原材料価格や電気代の高騰もあり、これ以上、時給を上積みするのは難しく、時給以外のアピールポイントを模索しなければならない状況だ。
賃金以外のやりがいや魅力づくりを
岡山大学大学院の中村特任教授は「賃金だけで人は動くわけではない。厚生、福利や生活環境もある。地方創生いろいろな意味で地域間の格差が縮まれば、賃金の格差も縮まる。地方が頑張れば格差は小さくなる」と指摘する。

実は、オーナーの中村さんは、年間を通して日生町に人を呼び込もうと、ほかの飲食店などと協力して、2024年7月に冷凍のカキを使ったグルメイベントを実施した。イベントでは約7000人を集め、成功を収めた。
この経験から、カキオコに関わる仕事は町おこしや情報発信に興味がある人に魅力を感じてもらえるのではと考えている。

中村オーナーは「岡山では有名になったご当地グルメなので、ご当地グルメのPRや地元の特産品を売ることに積極的な人に来てほしい」と呼びかける。
地方で企業が生き残るには高い賃金だけでなく、そこで働きたいと思えるやりがいや魅力づくりが求められている。
(岡山放送)