広島県三原市の産業廃棄物処分場をめぐり、住民と県の対立が長期化している。住民が認可取消を求めた裁判で2023年、1審は住民の主張を認め、認可取消を県に命じたが、県が控訴し2審に突入。「水質の悪化」を理由にコメづくりを諦めた農家も出ている。悩むコメ農家を取材した。

「カエルが死ぬような水じゃ…」

産業廃棄物の最終処分場がある広島県三原市本郷町の日名内地区。12軒のコメ農家のうち2軒が作付けを諦めていた。

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作付けしなかったコメ農家・吉田憲作さん:
そこでカエルが死んでいた。カエルは、手を前に縮めて死んでいるのが普通だが、手足をピンと伸ばして死んでいた。何か因果関係があるのか、川が原因なのかは、言いづらいが、カエルが死ぬような水じゃ田んぼに入れても困る

先祖代々の土地を守ってきた吉田さんだが、作付けしなかったのは、あくまで「自己判断」のため補償は出ない。

川にはヘドロ状の堆積物

最終処分場のすぐ下を流れる川は、水中が濁ったように見える。

川底がオレンジ色になり、ヘドロ状の物質が堆積している。また、オレンジ色の堆積物のようなものが流れていくのが見えた。

五十川裕明ディレクター:
長靴で土の部分を掘ってみると、黒い土が露わになり、オレンジ色の川に流れでました。

近くに住む竹之内昇さんは、「孫のため、後世のために、きれいな川を守るという思いでやってきたが、もとに戻らなくなっていくのが、残念で悔しい」と漏らす。

1審では認可取消の住民勝訴 県が控訴

川の水の濁りと本郷最終処分場との因果関係は、現状では明らかにはなっていない。

住民は認可取消を県に求めた裁判を起こし、2023年広島地裁は住民の主張を認め、認可取消を県に命じる判決を下した。

しかし、県は控訴し、裁判は2審に入っている。10月1日の裁判で住民側は、5月以降、三原市と住民が、それぞれ、周辺の川を検査したところ、いずれも水質が悪化したとする結果を書面や画像で示した。

裁判と別の動きとしては、本郷最終処分場は有害物質を含まない廃棄物だけが埋め立てられることになっているが、7月に県が行った浸透水の検査で基準値を超える鉛が検出され、県は事業者に対し、一時的に搬入と埋め立てを中止する「勧告」の行政指導を出した。しかし、その後、「原因究明と環境保全上の必要な措置が完了していることを確認した」として操業再開を認めている。

住民らは、県の対応に振り回される形になっている。

最終処分場から3キロほど下流では、上流ほどの臭いや濁りはないが、この夏、時折小さな泡が流れつく日があったという。

田んぼに例年通りの「作付け」をして、収穫を迎えた柄崎雅司さんは、「処分場の問題をメディアで取り上げてくれるのはいいが、逆に農作物に風評被害が広がらないか心配」と葛藤を抱える複雑な心境を吐露した。

農協がコメを検査

客観的に安全性を示したいという農家の声を受けて、地元の農協は初めて出荷したコメの検査をすることに。

10月中旬以降、周辺の約30軒の農家から1軒ずつコメのサンプルをとり、安全性を確かめることにしている。

コメ農家・柄崎雅司さん:
おいしいコメをつくって皆さんに食べてもらうのが、生きがいだが、この川の汚染の風評被害が起きたときに、いいコメができても、いいコメではないと言われてしまうのが残念です

取材した五十川ディレクターによると、「イネの生育に川の水は必要不可欠」だが、収穫したコメの検査で「万が一異常があっても、責任の所在と、補償の有無は現段階では不明確」ということだ。

(テレビ新広島)

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