東京の多摩地区や埼玉県内で9月から10月にかけて4件の緊縛強盗事件が相次いで発生した。高齢夫婦を粘着テープで縛り現金約8万円を奪ったり、1人暮らしの60代の女性をハンマーで殴り現金数百万円を奪うなど複数犯で犯行に及んでいる。

捕まった容疑者の中には「闇バイトに応募した」と供述している者もいるが、闇バイトはなぜ根絶できないのか。SNSでの巧妙な募集手口などについて、闇バイトジャーナリストの多田文明さんに聞いた。

秘匿性の高い通信アプリを利用

ーー闇バイトの募集はどのように行われている?
一番多いのはSNSを通じての募集です。SNSで「闇バイト」と検索してもなかなか出て来ませんが、「高額報酬」「即日即金」「お金に困ってます」などのワードで検索するとたくさん出て来ます。内容を見ると「高額バイト」「交通費・宿泊費支給」「昼出動で最低5万円」「DMください」などと書かれています。

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この募集を見てDM(ダイレクトメール)を送ると、秘匿性の高いテレグラムという通信アプリに誘導され、そこで個人情報を聞かれて闇バイトに応募できてしまいます。

明らかに怪しいと思える内容がある一方で、「日雇いバイト」や「副業」で検索しても闇バイトが出てくるケースもあるので注意が必要です。

闇バイトジャーナリスト・多田文明さん
闇バイトジャーナリスト・多田文明さん

ーー闇バイト側からアプローチされることもある?
あります。例えば「お金貸してください」「少しでも支援をお願いします」などといった書き込みをしたら、闇バイト側からコンタクトされることがあります。

また、「お金配り」というアカウントがたくさんありますが、それらをフォローしていると「お金に困っている人」ということが犯罪グループにわかるので、「稼げる方法ありますよ」とアプローチされることがあります。

警戒心を弱める「ホワイト案件」の記載

最近は募集欄に「ホワイト案件」と記載し、“隙間バイト”の感覚で応募する人をひっかける巧妙な手口も横行しているという。

「完全ホワイト案件」と書かれた募集(Xより)
「完全ホワイト案件」と書かれた募集(Xより)

ーー怪しいかどうかを見極めるポイントは?
まず「即金手渡し」というワードや高額過ぎる報酬は怪しいです。最近は「ホワイト案件」と書いて警戒心を弱めさせ、応募のハードルを下げる手口もあるので闇バイトだと分からずに手を染めてしまうケースが増えています。警察は怪しいアカウントを凍結していますが、すぐにまた別のものが立ち上がるのでいたちごっこの状態です。

SNSに掲載されているバイト募集
SNSに掲載されているバイト募集

ーー闇バイトに応募する人の共通点は?
まず「お金に困っている人」です。これだけ注意喚起がされているので警戒している人は多いはずですが、「明日現金が必要」という人は少々グレーでも手を出してしまいます。

私が取材した「日雇いバイト」に応募した人は、最初は本当に荷物を渡すだけの簡単な仕事だったといいます。それが2回目は高齢者から紙袋を受け取る仕事で、その時に犯罪なのではと気付いたということです。闇バイトはすべて高額報酬だと思っている人が多いですが、この人が応募したバイトは日給1万円で一般的な金額を提示していました。“隙間バイト”の感覚で応募する人たちをひっかけようとする罠だと考えられます。

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一旦応募してしまうと、面接と称して本人の運転免許証や学生証など身分を証明するものを送るように要求してきます。それらを送ってしまうと犯罪者側に個人情報を握られ、抜け出せなくなります。

強盗は足が速く言いなりになる10代~20代

9月から10月にかけて強盗事件が相次いでいることについて多田さんは、警察が歳末パトロールを強化する前に犯行に及んでいることが考えられると話す。

9月~10月にかけて東京、埼玉で発生した4件の強盗事件
9月~10月にかけて東京、埼玉で発生した4件の強盗事件

ーー応募してからの仕事で多いのは?
詐欺の入口として多いのは「出し子」というだまし取ったキャッシュカードを使ってATMでお金を引き出す仕事です。防犯カメラに顔が映るのですぐに捕まってしまいます。また「受け子」といって、高齢者の家に行って現金やキャッシュカードをだまし取ってくる役割です。

まずはこの2つが多いですが、本当にお金に困っている人はもっと高額報酬を求めて「叩き」をやります。「叩き」は「強盗」の隠語です。私が闇バイトの募集に電話をした時は年齢を聞かれ、中高年は叩きは無理だから詐欺の方が良いと言われました。

強盗をする人は10代~20代、フットワークが軽くすぐ逃げられ、指示役から「ハンマーで殴れ」と言われたら殴るなど言いなりになる人です。

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ーー9月~10月にかけ強盗が相次いでいるが?
最近は高齢者の名簿がかなり流出していて、どの家にお金があるかが犯罪グループに知れ渡っています。1回強盗事件を起こしたら警察に捕まる前に次の犯罪もさせて、少しでも多く稼ごうと指示役は考えるので、立て続けに実行する傾向があります。

これまでは年末に多くの詐欺事件が発生していて、警察は歳末パトロールを強化しています。警察の目が厳しいと強盗もしずらいので、その前の9月~11月に増えていると考えられます。

辞めたいと思ったら「♯9110」の警察相談ダイヤルを

闇バイトが無くならない理由について多田さんは、経済的に困窮する若者が多いと指摘するが、辞めたいと思った時は犯罪グループに連絡するのではなく、警察に相談するよう強く訴える。

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ーーこれだけ闇バイト事件が報道されても無くならない理由は?
若い人を中心に経済的な格差が広がり、お金に困っている人がたくさんいます。簡単にお金が借りられてしまうこともあり、返済に追われる人も多く犯罪者集団はそこを狙って罠を仕掛けてきます。

そして、辞めたいと思った時は、絶対に犯罪者側に連絡を取ってはダメです。個人情報を握られているので「家に行くぞ」などと脅されて次の犯罪に手を染めることになります。辞めたいと思ったらすぐに警察に連絡するか、「♯9110」の警察相談ダイヤルに連絡してください。犯罪者側に連絡することは絶対にやってはいけません。