中華料理チェーン日高屋大宮東口店のカウンター席には、今日も中華そば、餃子、チャーハンなどの人気メニューが並んでいる。
そのカウンターには、多くの客が驚くような見慣れないポップが置かれていた。

ポップには「知っていますか?睡眠時無呼吸症候群」「ただの眠気じゃない!その症状見過ごしていませんか?」といった飲食店では普通見かけない文言が書かれていた。

実はこのポップを作成したのは、広尾学園高等学校に通う現役高校生の5人グループ。広尾学園には「医進・サイエンスコース」という理系コースがあり、将来医師を目指す生徒も多く集まっている。2023年からは研究活動に「医療研究チーム」を新設し、地域医療体験や医療関連のプログラムにも精力的に参加している。
広尾学園高等学校 医進・サイエンスコース 2年生 黒川さん:
高1の夏に参加したi-GIPという医療プログラム(※約半年にわたり、2~4人から成るチームが1つのヘルスケア課題解決に向けて取り組むもの)で初めてSASという病気を知りました。睡眠時無呼吸症候群のことです。SASは認知度が低く、病院で適切な治療を受けている患者は、氷山の一角。潜在患者をいかに掘り起こして治療につなげるかという重要なポイントで、高校生でも何かできるのではないかと思い、簡単なセルフチェックができるQRコード形式のアンケートを作成しました。
中年男性ターゲットに「日高屋」で啓発活動
生徒達が最も悩んだのは、このアンケートをどのように展開するかだ。実際にSASの治療にあたっている病院や研究に当たっている教授にヒアリングして、SAS患者が最も多いとされる中年男性をターゲットに決めた。

受診のきっかけは、就寝中のいびきを家族に指摘されるケースが多いと聞き、さらに一人暮らしの中年男性を焦点に絞った。しかし、通勤途中の駅やコンビニでは、アンケートに回答する時間が確保できない。

そこで、飲食店で食事を注文してから待っている時間に目を付け、「飲食店のカウンターにQRコードを印刷したポップを置いてみよう!」というアイデアが、今回の日高屋とのコラボに繋がった。
日高屋の担当者への事前プレゼンには、メンバーで話し合って何度も作り直した資料と、段ボールで作った試作品のポップを手に臨んだが、生徒達には正直、この提案が日高屋にとってはデメリットになるのではないかという不安もあったという。高校生の少々無謀ともいえるこの提案を日高屋はなぜ採用してくれたのか。
日高屋を運営するハイデイ日高の担当者に話を聞くと「今回の取り組みは、健康意識の向上という社会的意義と、若い世代の育成支援という観点から、弊社の企業行動基準と合致すると判断いたしました。加えて、高校生の皆さんが主導する本プロジェクトは素晴らしい取り組みであり、社会課題の解決に向けて若い世代と協力できることを大変嬉しく思い採用させていただきました」ということだった。
広尾学園高等学校 医進・サイエンスコース 2年生 村松さん:
日高屋から正式に設置してもらえるとメールが届いた時は信じられなかった。1店舗だけ1カ月間という限定的なものだったが、まさか社会実装という目標を本当に実現できるとは思っていなかったので。
ポップ設置決まるも…課題が山積み
日高屋へのポップ設置が決まってからが大変だった。ポップなどの費用を拠出してくれるi-GIPのスポンサーへプレゼンをしたところ、ポップのデザインが目立たないとNGが出たり、ポップの写真が食欲を減退させるのではないかとの理由で差し替え依頼が入ったりした。さらに、学校や部活でなかなか修正の時間が取れず、ポップの納期が大幅に遅れ、本当に実現できるのか?と不安になった時期もあった。そんな状況でも日高屋は理解を示し受け入れてくれたという。
株式会社 ハイデイ日高 広報担当:
私どもは、高校生の皆さんによるこのような社会貢献活動を非常に心強く感じております。若い世代が健康問題に関心を持ち、積極的に啓発活動に取り組む姿勢は、社会全体にとって大変有意義なことだと考えております。

9月22日、構想から1年以上かけてようやく迎えたポップ設置の日、メンバーの高校生は、日高屋大宮東口店の入り口に交代で立ちアンケート参加を呼びかけた。来店する客の反応は悪くなかったが、実際にアンケートに回答する客はおらず、初日の回答者は夕方の時点でゼロというまさかの結果に。
広尾学園高等学校 医進・サイエンスコース 2年生 近藤さん:
現実は厳しいなと思いました。大宮からの帰りの電車はみんな無口で。。でもその後、夜になってようやく1人回答してくれたことがわかり、嬉しすぎてLINEグループでメンバーに報告しました!
その後もインスタで写真を公開するなどして回答者は、少しずつ増えて来ている。中にはアンケートの回答だけでなく「私けっこうあやしそうです…気を付けます!」などとコメントを記入してくれる人までいるという。
広尾学園高等学校 医進・サイエンスコース 2年生 西村さん:
高校生の力で人の命を助けたり、症状に悩んでいても気づけない人を救いたいという気持ちでここまでやってこられました。
広尾学園高等学校 医進・サイエンスコース 2年生 金さん:
メンバーの予定がなかなか合わず、夜中までリモートで話し合うなど苦労もあったが、このアンケートで1人でも多くの患者が受診するきっかけになってくれたら嬉しいです。

睡眠時無呼吸症候群は、2012年に関越自動車道で大型バスが防音壁に衝突し7人が死亡する事故を起こした運転手が、後にこの病を患っていたことが分かった。眠気による事故のほかにも、脳血管疾患や心疾患、高血圧、糖尿病になるリスクが通常より2~4倍高くなるというデータもあり、適切な治療が必要な病気である。

日高屋大宮東口店でのポップ設置は、10月20日まで行われる。医師を目指す高校生たちの試みが、睡眠時無呼吸症候群の潜在患者を救うことができるのか。