子供の数が減っている。国のデータによると2012年度からの10年間で義務教育段階の児童生徒数は1割減少している。その一方で、特別支援教育を受ける児童生徒数は倍増。全児童生徒数に占める割合も2.9%から6.3%と2倍以上増加しているのだ。

福岡市でも、いわゆる自閉症(ASD)や学習障害(LD)など「発達障害」と診断される子供の数が、ここ10年で2倍近くに増加。特に未就学児の“受け皿”が不足している。現状を取材した。

突然すすめられた「療育」

福岡市に住む5歳の坂田つむぎちゃん。おもちゃのピアノを上手に弾きこなし、一見、普通の子供と変わらないように見えるが、いわゆる自閉症で軽度の知的障害がある。

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通っていた幼稚園から「成長のためにつむぎちゃんは“療育”をした方がいい」と告げられた母親のまおさん。突然のことに驚いたという。「うちの子は療育なんて必要ない。障害者じゃないって思った」とまおさんは困惑した当時を振り返る。つむぎちゃんが診断を受けたのは3歳の時。言葉の習得が周りより遅かったものの特にきになることはなく、家族には突然、向き合うこととなった「障害」という言葉が重くのしかかった。

すぐに発達障害の子供たちをサポートする療育施設を勧められたが、家族はいきなり問題に直面する。福岡市内の施設に通うためには10カ月、待たねばならなかった。理由は、生徒を受け入れる空きがなく、次の年まで待ってもらうことになるとのこと。福岡市内には施設の空きがなく待機している親子が多いのが実情だ。

“空きがない”隣町の療育施設へ

9月のある午後。幼稚園で元気いっぱい遊ぶつむぎちゃんを1台の送迎バスがつむぎちゃんを迎えに来た。車が向かったのは、福岡市の隣の春日市にある発達障害児の療育施設「発達療育モンテ」。この施設ではコミュニケーションがうまくとれない子供に人との関わり方を教えたり、言葉がスムーズに出るようサポートしたりしている。子供2~3人に対して保育士などの大人が1人つくため手厚いサポートを受けられる。つむぎちゃんも1カ月に10回ほど通っている。

スタッフの中須賀恵さんによると、つむぎちゃんのように福岡市内から通う子どもも多くいるという。中須賀さんは、つむぎちゃんについて「最初は言葉もうまく出なかったが、徐々に言葉を使いながら自分の思いを伝えられるようになっている途中」と話す。

この日、つむぎちゃんは、色のついた水を混ぜる遊びなど3時間の療育を受けた。遊び疲れたのか、自宅へ戻る送迎車の中で寝てしまい、ねぼけ眼をこする。その姿を見て母親のまおさんは「送迎がなければ施設に通わないかもしれない。ちょっと遠いと思うし、療育施設の送迎に感謝している」と話す。

送迎バスの中で眠ってしまうことも・・・
送迎バスの中で眠ってしまうことも・・・

同じ時期に診断を受けた子供が、空きがなくて、すぐに通えなかった事例もある。まおさんは「待機となれば、今受けるべき教育が遅れる。できないことができないまま大きくなるのは怖い」と話す。母親としての率直な気持ちだ。

福岡市 未就学児の療育施設増加

発達障害の未就学児が療育を受けられる施設は、北九州市に176カ所あるのに対し、福岡市は23カ所しかない。背景には、福岡市が療育の「質」を重視し、2022年まで民間の事業者を認めていなかったことがある。しかし最近は、発達障害と診断される子供が増え、受け皿が不足していることもあり、福岡市は新たな取り組みを始めた。

福岡市東区の保育園では、空き教室を利用して発達障害の子供たちの療育が行われていた。2022年から民間事業者の参入に加え、保育園の空き教室を活用して療育施設を増やしている福岡市。現在は計6カ所で運用している。今後も順次新設し2026年までには29カ所まで増やす方針だ。これにより幼稚園や保育園から療育施設への移動が不要となるため保護者の負担が減る。

また、療育施設としてすでに稼働している「東青葉にじいろさぽ~とひろば」の渡真樹さんは、「保育園と療育施設のスタッフで話し、療育を受けてはいないが気になる子供の相談など、職員間で情報を共有でき子供を中心に対応できるのが大きなメリット」と話す。

10月からは保護者の要望に応え、児童発達支援センターを利用する子供たちの一時預かりもスタートする予定だ。これまで子供たちは午後3時には療育を終えて帰宅していたが、午後6時まで預かれるようにすることで保護者の就労を支援したい考えだ。

発達障害のある子供たちの受け皿をいかに確保していくか。今後も福岡市の模索が続く。

(テレビ西日本)

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